第325話:とっても残念なお姫様。


 やたらとウキウキしながらスキップしてるリリィの後をついて行く事十分程度。


 やっと広大な敷地を占有する王城の庭先に到着した。


「姫さんはここの敷地内にある施設を全部把握しとるのかのう?」


 ラムが妙な質問をした。

 そんな事考えてもみなかったが、確かにこれだけ広いと敷地内で何が行われているのか知らない可能性もあるのか。


「それをリリィ姫に聞いても意味ありませんよ? どうせなんにも知りません」


「なっ、ジーナ!? わらわをなんだと思ってるんです! そもそも誰だってこの広い敷地内にある施設を把握しきれてるはずありませんわ!」


「では少しなら分かると言う事ですよね? 何か覚えている物を言ってみてくださいよ」


「うぐっ」


 あっさりとリリィを黙らせたジーナは、「とはいえ、確かに私も全ては把握できておりません」とこちらに申し訳なさそうな顔を向けてきた。


「じゃあこの敷地内に何かしらの手がかりがあるって可能性もあるのか」


「少なくとも城の中にはなにもありませんわ! わらわが毎日くまなく探検して確認済みです!」


 お前は日々何をしてるんだ……姫ってそんなに暇人なの?


 ……まぁポコナも俺の拠点に入り浸ってるし実際割と暇なのかもしれない。


 ポコナもこいつも実際に国を回してるのは親だろうしな。

 ……リリアの場合はシルヴァかもしれんが。


「じゃあ手分けしてこの敷地内に点々とある建物を片っ端から調べてみようぜ。リリィの部下連中も総動員で頼むわ」


「どうしてわらわがそんな事をしなきゃ」

「分かりました」

「ちょっとジーナ!?」


 リリィ達はなにやら揉めてるけど構ってる暇は無い。


「じゃあ俺達も散るぞ。何かそれっぽい物を見付けたらすぐに教えてくれ」


「おっけだゾ」

「分かったのじゃ」

「りょーかいですぅ!」


 俺達は広大な敷地を片っ端から調べ回った。

 城自体は一般的な大きさだが、敷地がとにかく広い。

 その敷地の中によく分からない建物が沢山あって、そこにも黒い影人間達がうろうろしていた。


 どれくらい捜索を続けただろう?

 軽く二時間以上はやってる気がする。


「あーもうどうせなんにも無いですわよーわらわ疲れたーっ!」


「はいはいじゃあ役立たずなんでその辺で寝てて下さいね」


「少しはわらわを必要としてよ!」


「役に立たないので要りません。寝ててくれた方が幾分かマシです」


「裏切者ーっ! 酷すぎる! わらわの事をなんだと」

「馬鹿です」

「ひーん!」


 ……なんだあの漫才は。


『嫌いじゃない癖に』


 ……どう、だろうなぁ……ネコが頭にチラついてしまうのがマイナスポイントだが、二十七歳であの中身っていうのは割と面白い属性だなぁ。


『じょ、冗談で言ったのに……』

 いや、別にああいうのが好きとかじゃなくてだな、ダメなお姉さんって……良くね?


『知らないわよ私に聞かないで』


 ママドラはやけに冷たく言い放った。

 そんな邪険にせんでも……。


 もしかしてダメなお姉さんって辺りで自分が同類だとでも思ったんだろうか?


『違うわよばーか!』

 図星か……。


「ミナト何かあった? こっちはなんにもなかったんだゾ」


「あぁ、こっちもダメだな。ポーション類の製造工場と博物館と食堂と……特に兵器に繋がりそうな建物はなさそうだった」


 そんな時ネコがぐったりした顔でのそのそとこちらに近付いてきた。


「ごしゅじーん、ダメですもう疲れましたーっ!」

「そうか、その辺で寝てろ」


「えっ、何かそっけないですぅ……」


「大丈夫大丈夫、特に頭数に入れてないから寝てていいぞ」


「ひ、ひど……ぐすっ」


 うーん、やっぱり精神年齢は似たようなもんだな。


「お主等なにサボっとるんじゃ! 儂が必死に探しとるというのに……!」


 ラムがふわりと空から舞い降りる。


「俺達も探してたよ。成果無しだけどな。ラムちゃんの方は何かあったか?」


「うーむ、魔道具関連の面白そうな施設はあったがあれは関係ないじゃろなぁ。こっちも空振りじゃよ」


 ラムちゃんが調べて関係無しと判断したなら信頼できるな。

 逆にネコやあのポンコツ姫が調べた所とかはまったく信用できん。見逃しがありそうだ。


「姫、それなんですか?」


「ん? いいでしょ~? 枕に丁度良さそうだから持ってきたんですのよ♪」


「まぁどうでもいいですけれど……あまり国の備品に手を付けないで下さいね。姫が触ったら壊れますから」


「壊さないもん!」


 またなにやら漫才をやっている。ジーナを始めあの姫の部下たちは大変だな。


「ちょっと待つのじゃ……アレは、本当になんじゃ……?」


 ラムがリリィの持ってきた謎の長方形に食いついた。何かしらの魔力を感じたのかもしれない。


「おいリリィ、ちょっと俺達にそれ見せてくれないか?」


「い、嫌ですっ!」


 リリィは寝転んでいた体勢からシュバッと起き上がり、その長方形を抱きかかえた。


「別に取ったりしねぇよ。それがなんなのか見せてもらいたいだけなんだが」


「いやっ! そんな事言ってわらわからこれを奪う気でしょう!? 騙されませんよ! わらわ賢いから! 賢いから騙されないもん! これはわらわのものなんぐえーっ!」


「やかましい。さっさと見せてあげなさい」


 問答無用でジーナがリリィの頭をぶっ叩いて長方形を奪う。


「はい、どうぞご自由に調べてみて下さい」


 ジーナがソレを俺達に渡そうとした時、急にリリィがジーナの腕に飛びついた。


「だめーっ! それはわらわのですわーっ!」


「うわっ、ちょっと馬鹿姫何するんですかっ! 離して下さい危ないですよ! ……あっ」


 ジーナが長方形を取り落とし、腕に絡みついていたリリィの頭の上に直撃。


「ぐえっ」


 またお得意の漫才か、と思っていたのだが、突然長方形が光り出し、少し離れた場所にあるオブジェが音を立てて動き出した。


 そこには地下へ向かう階段が。


「おいおい……地下室へのスイッチだったのか?」


「ほ、ほらみなさい! わらわは最初っからわかってたんですわーっ!」


 ……絶対嘘じゃん。



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