第322話:不思議な街と襲撃者。


「まったくミナトは女心を何もわかっとらん! 許せんのじゃっ!」


 結果的に俺達は全員ラムの魔法で暑さ対策を施してもらい、快適に進む事が出来るようになった。


「まぁあれはミナトが悪いんだゾ」


「わかっとるわい」


「ごしゅじん……そんなにたまってるなら私に言ってくれればよかったんですよぅ?」


「お前は黙っとれ」


「なんでお主はそんな態度がとれるんじゃ……?」


「すいませんすいませんほんとごめんなさい」


 ラムに追いかけまわされ魔法乱れ撃ちを浴びせられてボコボコにされた挙句、ロゼノリアに到着するまでネチネチネチネチ言われ続けた。


「それにしてもこれが一度消し飛んでるとは思えないな……」


「話題逸らしに必死過ぎて面白いんだゾ」


「ここまで来たんだから真面目に行こうぜ」


「元はお主のせいじゃろが!」


「すいませんすいませんほんとごめんなさい」



 これだよ。

 俺は当分女子達からこんな扱いを受け続けるのかもしれない。つらい。


『君が悪いしロリコン』

 つらい。


 こんな事ならシャイナにも来てもらうんだった。

 あの子ならきっと俺の味方をしてくれるはず。


『いやぁ……誰よりドン引きだと思うけれど……』


 シャイナにも一応声はかけたのだが、俺達の足手まといになるとか言って彼女の方から辞退したのだ。

 どちらにせよガリバンの守護要員は多いに越した事は無いしそれはそれでいいんだけども。


 今頃エクスにこき使われてるかもしれない。可哀想だがなんだかんだ言ってエクスは優秀だからいい勉強になるだろう。


『やっぱりなんだかんだいってもエクス大好きじゃないの』

 気色悪い事言わないでほんとに……。


「……何かおかしいのじゃ」


 ラムが急にそんな事を言うのでビクっとしたけれど、俺の事じゃなくて街の事だったみたいだ。


『真面目にやるのは君の方よ……』


「確かに、これはちょっと様子がおかしいんだゾ」


 ……こりゃほんとに真面目に行かねぇとまずいかもしれん。


 別に差し当たって危機が迫っている訳ではないが、この街の異様さだけは理解できる。


 確かにこの街は消えたのかもしれない。復活したのかもしれない。


 だとしても、人までは元通りにはならなかったようだ。


「ごしゅじん……この人達……というか、その……これって、人で合ってます?」


「分らん。とりあえず注意しとけ」


「今の所敵意はなさそうなんだゾ」


 確かにラヴィアン王国の首都ロゼノリアはここにある。

 だが、そこに住まう人々は、どうみてもまともな人間ではなかった。


 黒。

 まるで影が立体化して動いているような、そんな真っ黒の人型。


 そんな真っ黒の影人間が、会話も無く人間の代わりに存在していた。


「……これはどういう事じゃ……?」


「おいラムちゃん、危ないぞ」


 気が付けばラムちゃんが車椅子を操作して影人間のすぐ近くまで近寄っていた。


「……いや、危険はあるまいよ。これは……残滓のような物じゃからのう」


「残滓……?」


「ミナトよ、こいつらが今何をしておるかわかるかのう?」


 何をしてるか……か。

 俺は影人間達を注意深く観察してみた。


 ただぼけーっと突っ立っている者。

 街を走り抜けていく者。

 二~三人で固まっている者。

 中には小さな影人間を肩車している者までいる。


「こいつらは……生きているのか?」


「半分当たりじゃな」


 半分……結局どっちだ? 生きてるのか、生きてないのか……。


「こやつらはのう、ここで生きていた、んじゃよ」


「……そうか、残滓ってそういう事かよ」


「分かったようじゃな? こやつらはきっと生きていた時の動きをひたすら繰り返しているだけじゃ。まさに影じゃよ」


 影だけが残る街……か。

 やっぱりあの兵器らしき光が原因なんだろうか?


 ネコは影人間に慣れてしまったのか、前に回り込んでそいつらの顔をのぞき込んだり、つついたりやりたい放題だ。


「こいつらの肉体は死んだのか?」


「分からぬよ。でも、少なくとも無事ではあるまいな。まるで急に肉体を奪われて心だけがここに置き去りにされているかのようじゃ……」


 ラムの言葉が妙にしっくりと来てしまった反面、どうにも嫌な違和感を感じた。


 もしかして逆なのでは?


 心だけを奪われてしまったのでは?


 いや、それなら身体はきちんと人の外見をしているはずか。

 この状況の説明をする事は出来ない。

 真実を知る為に何をしたらいいかも分からない。


 だが、一つだけ確かな事がある。


「ミナト、気付いてる?」


 ティアがこっそり俺の耳元で囁いた。

 ちょっと耳に息がかかってゾクっとしてしまったのは秘密だ。


『君……』

 秘密なの!


「ちゃんと気付いてるよ。ネコ、ちょっとこっちにこい」


「どうしましたぁ?」


「いいから早くこっちにこい。あとラムちゃん、頼んでもいいか?」


 ラムはまだ俺に対して文句を言いたそうな表情だったが、静かに頷いた。


 そして、突然俺達に向かってどこからともなく矢が降り注ぐ。


「ほいっとな、なのじゃ」


 ラムが俺達の周りに障壁を張り、矢の雨を全て弾き飛ばす。


 弾かれた矢に当たっても影人間達は全く動じない。

 本当にこいつらどうなってやがる?


 いや、それよりも……。


「お前らは何者だ? 答えないと全力で抵抗するぞ? 死人を出したくなければ誰か出てきて説明しやがれ!」


 俺達が影人間に夢中になっている間に、建物の屋根の上……あちこちに本物の人間らしき集団が忍び寄っていた。


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