第323話:赤髪ツインテール降臨。


 俺の呼びかけに、長い赤髪をツインテールにした褐色の女性が建物の屋根から姿を現した。



「貴様等、この街の有様はいったいどういう事だ! 納得のいく説明が無い限りわらわ達は貴様らを敵と見なし攻撃する!」


「ひとしきり攻撃してからのその言葉は説得力ゼロだな」


「黙れ。わらわがこの国を留守にしている間に何をした!? この街にいるまともな人間は貴様等だけです。貴様等の仕業に違いないですわ!」


 はー、居るんだよなこういう奴。


「お前さ、人の話聞かないとか決めつけが酷いとかよく言われるだろ?」


「う、うるさい! 貴様に言われる筋合いは無いのです!」


 やっぱり言われてるんじゃねぇかよ。


 褐色女は怒りをあらわにし、俺に弓を引いた。


「問答無用かよ。言っとくけど俺達も今この街に来たばかりだからな?」


「そのような戯言誰が信じると!?」


 女は迷わず弓を放ち、俺に向けて一直線に矢が迫る。


 俺はラムに合図し、障壁を解除してもらい、矢を素手で掴み取る。


「化け物め……!」


「一方的に難癖つけて攻撃してきといて化け物はないだろ……言っておくがお前らが本気でやろうっていうなら受けて立つぞ? その代わりお前の仲間は全員死ぬ事になる」


「本性を現しましたね! 残虐非道な物の怪め……! わらわが成敗してくれるわ!」


 おいおいマジで人の話を聞かない女だな……。


「成敗ねぇ……俺はお前がどこの誰だか知らないが、部下を危ない目にあわせたくなければやめとけよ。こっちには争う意思は無いからな」


「ふん、少しばかり妖術が使えるからといって調子に乗って……! 部下を危険な目にあわせる事などありません! 貴様にわらわの力を見せてやりますわ!」


 そう言うと屋根の上から褐色女が飛び降り、俺達の目の前に降り立つ。


「この国を滅ぼし我が物にしようとするあやかしどもめ! ラヴィアン王国第二王女ヴィクトリア・アイゼン・リリィ・ロゼノリアが神に変わってせいばぐえっ!」


 ……あーあ。


「せめて最後まで言わせてやれよ……」


「だってこいつムカつくんだもん」


 まだもんもん言ってんのかこいつ……。


 今何が起きたかといえば、褐色女が俺達をあやかし呼ばわりしてベラベラ口上を述べている間にティアが背後に回り込んで頭をぶっ叩いただけ。


「おーい生きてるかー?」


「きゅぅ……」


 今どき意識を失って「きゅう……」とかいう奴が居るんだな……。


「おーい、こいつの部下ども、出てきていいぞ? こいつ連れて帰ってくんねーかな?」


 しばらくの沈黙の後、シュタっと目の前に一人の人物が現れた。


「……忍者?」


 どう見ても忍者だった。黒尽くめ、黒頭巾、腰に短刀。


「はぁ……この人いつもこうなんです。私も襲いかかる前にちゃんと話を聞いた方がいいと進言したんですけどねぇ」


 どうやら忍者の中身は女の人のようだ。

 彼女は「やれやれ……」とぼやきながら褐色女を肩に担いだ。


「うぅーん……ハッ!? 私、一体何がどうなって……!?」


「うわめんどくさ……リリィ様、もうちょっと寝てていいですよ? てか寝てて下さいややこしくなるんで」


 忍者女はリリィと呼ばれた褐色少女が背中で暴れるのを心底迷惑そうに、その辺に放り棄てた。


「ぐえっ! ジーナ! 何をするんですか! この、私にっ! 酷いですっ!」


「うるさい! 姫が考え無しにこの人達に喧嘩売るから私達みんな死ぬところでしたよ? 死ぬなら一人で勝手に死んでくださいよ力の差も分からない馬鹿なんだから人を巻き込むのやめて下さいっていつも言ってますよね?」


 ちょ、ちょっと言い過ぎなのでは……?

 従者が主に対してその口のきき方はまずいんじゃないの……?


「従者が主に対してその口のきき方はなんですか!? わらわの事が嫌いなんですか? そうなんですのねうわーん!!」


 リリィは地面にぺたんと座り込んだ状態で漫画みたいな泣き方をしはじめた。

 何かとリアクションが古い。


「これだから……泣きゃなんとかなると思ってんだからこの馬鹿姫は……」


 俺達はその様子をぼけーっと眺めながら何とも言えない気分になっていた。


 こいつら、多分この街の有様には関係ないなぁ。


「馬鹿姫とはなんですか! わらわは、わらわはっ!」


「はいはい分かってますよー。で、どうします? 一応こんなんでも私達の主なんで殺さないでいてくれるとありがたいんですが」


 ジーナという忍者はとても適当に俺達に頭を下げた。


「なっ、敵に頭を下げるなんて正気ですか!? わらわがゆるしませ」

「黙れ」


 ぼかっ! とジーナがリリィを叩く。


「じ、ジーナがぶったぁぁぁっ!!」

「ぶちます。大馬鹿姫のせいで皆の命まで危険になるんだってさっきも言ったでしょうが。この人達怒らせる前にちゃんと謝って下さいこの阿保馬鹿間抜け姫」


「うぅ……えっぐ、えぐっ……ご、ごめんなさぁい……ひっぐ……」


 よく見りゃ結構幼いのか?

 褐色の肌、それなりに高身長なのでそれなりの年齢かと思っていたけれど……。


「あ、言っておきますが姫はこんな残念な頭ですけれど二十七歳ですので」


「ちょっとジーナ! レディの年齢を気安く他人に口外するんじゃありません!」


「黙れ」

「ひーん!」


 ひーん! って……。


 参ったな……。


『どうかしたの?』

 いや、新しいジャンルだなと思ってな。


『……あ、そ』


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