第321話:壊れたミナトとラム。


「よし、じゃあそろそろ向かおうか。ラムちゃん、もう大丈夫か?」


「う……うむ、大丈夫……じゃよ」


 なんだかラムがこっちを見てくれない。

 どうしよう。俺、対応間違えたかな。


『あれが正しいと思うのなら君は完全にロリコンよロリコン』

 だからちげーって……。


『でもラムちゃんは可愛いでしょう?』

 あんな可愛い生物この世にイリスくらいなもんだぜ。


『ロリコンじゃないの……』

 だから、なんて言うかな……恋より愛なんだよ愛。


『きっも……』

 ……どうやらママドラの理解は得られないらしいな。この話はやめにしよう。


「じゃあ行くのじゃ。目的地であるラヴィアン王国の首都……なんじゃったか」


「確かロゼノリアだったはずだゾ」


「うむ、ロゼノリアの少し手前まで飛ぶのじゃ」


 ラムは、やっぱり俺の方を見る事なく転移魔法を発動させる。


「あっつ!! なんだこれっ!!」


 転移した瞬間先ほどまでとは全く違う種類の熱波が俺達を襲った。


「こ、これはなかなかキツイんだゾ……」


「ごしゅじ~ん……と、溶けちゃいますよぅ」


 良かった、俺だけじゃなかった。

 俺達はどうやら砂漠に居るらしい。

 蜃気楼のようにボヤっと歪む空気の向こうに大きな街が見える。

 あれがロゼノリアとかいう街なんだとしたら、確かに一度滅んでいるとは思えない。


「さ、皆がとろけてしまう前に街まで行くのじゃ」


 確かにこの状態では様子を見ながらとか考えている場合じゃなさそうだ。


「ほれほれはよこんと置いてくのじゃ~」


 ヤバい。俺暑いのマジでダメかも。

 無理無理暑い暑い頭の中溶ける!


『ちょっとミナト君大丈夫?』

 だいじょばない!


 ラムは暑さなど物ともせずにふわふわと車椅子で宙に浮かんでいる。


 ……おかしい。

 暑さに強かったとしてもあの平然とした表情は不自然だ。


「ラムちゃん……まさか……」


 あの子魔法で暑さを防いでいる?

 自分の周りにだけ障壁を張り、その中に適温になるように調整した魔法を……?


 よほど微調整が出来なきゃそんな芸当は難しいだろうがラムなら難しい事じゃないだろう。


「待てラムちゃん!」


 俺は走ってラムを追いかける。

 捕まえて、少しで良いからその涼しさの恩恵を分けて頂きたい。

 一人で快適な環境を満喫するなんてズルいじゃないか……。


 頭が茹っておかしくなりそうだ……!


「な、なんじゃぁっ!?」


「むぁぁぁてぇぇぇぇっ!!」


「ひ、ひぃっ! なんで追いかけてくるんじゃぁぁぁっ!」


 余程俺の形相が恐ろしかったのか、ラムが顔を引きつらせて逃げてしまう。


「逃げるな! こっちにこい!」


「こ、怖いのじゃーっ! ミナト、どうしてしもうたんじゃ!?」


「いいから、逃げるなーっ!」


 もう少しで手が届く、そんな所まで追いついたのだが……。


 俺が伸ばした手は空を切る。

 ラムが転移魔法で逃げた。


 しかしこの時の俺は暑さのせいで限界まで追い込まれていたせいが、普段よりも感覚が研ぎ澄まされていた。

 火事場のなんとやらというやつかもしれない。


 ラムが転移した時に発生した魔力の流れ、そして出現ポイントの魔力の乱れ。そんな物が何故か感覚で理解出来た。


「そこだぁぁぁぁぁっ!!」


 俺は転移場所に目星を付け、瞬時にそこへ飛びついていた。


「ひゃあっ!?」


 転移で逃げたら俺が急に目の前に居たのだから驚いただろう。


 きっとラムの周りは涼しいはず。

 涼しいに決まってる。

 俺にその涼しさを分けろ……!


「うわっ、ミナトってば大胆……!」

「わ、私という者がありながらごしゅじんが、ごしゅじんがぁぁぁ……」


「うるさい! 今の俺にはラムちゃんが一番必要なんだ! これ以上はもう我慢できん!」


 ラムの小柄な身体をぎゅっと抱きしめると、案の定彼女の身体はひんやりしていた。


 自分の身体の周りにうっすらと、しか涼しさの膜を展開していないようで、密着しないとこちらは暑いまま。


 必然的に抱き着くしかないのだ。


「みっ、みみみっ、ミナト……! みんなが、みんなが見てるのじゃぁぁぁっ! は、恥ずかしいのじゃ……」


「そんな事はどうでもいい! ちょっと黙ってろ!」


 あぁ……ちょっとだけだけど涼しくなってきた。


「ミナト……さすがにこんな状況で盛るのはマナー違反なんだゾ……」

「ごしゅじんがぁ……」


「み、ミナト……? そ、そんなに儂の事……儂、儂……ミナトが儂を選んでくれるなら……」


「あぁぁぁぁぁぁ涼しいーっ! やっぱり思った通りラムちゃんだけ涼しさ満喫してたな!? おかしいと思ったんだ!!」


「……」


 必死にラムをひっ捕まえた甲斐があった。

 急激に頭が冴えていくのを感じる。

 やっぱり俺にとって度を越えた暑さってのは天敵だわ。

 昔から暑いのは苦手だったけど、これは日本でも経験した事が無いレベルの暑さだ。

 立ってるのすら辛い。


「ミナト……? 儂を追いかけてたのは……」


「ラムちゃんが自分だけ涼しい思いしてるって気付いたからさ。ズルいじゃないか」


「……」


 ラムが黙り込む。

 俺にバレたのがそんなに気まずいのだろうか?


『ばかじゃないの……? ほんと、女の敵、死ねばいいのに』

 おいおいなんだよいつになく辛辣だな……。


「ミナト……」

「どうしたラムちゃん?」


「許さん! 許さんぞ! 乙女の純情弄びおって! そこになおれ! 粛清してくれる!!」


 訳も分からないままラムちゃんが爆発し、鬼のような形相で魔法を連発。


 俺は猛暑の砂漠を必死に逃げ回る事になった。


 女心はよく分からない。


『……死ねばいいのに』

「死ねぇぇぇぇぇぇぇっ! 死ぬのじゃぁぁぁぁっ!!」


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