第320話:ミナトの過ち。


「あーもうほんと腹立つ!」


「ごしゅじん……まだ言ってるんですかぁ?」


「器の小さい女じゃのう……いや、男じゃったか。しかし器の小さい女より器の小さい男の方がより小さい感じがするのは何故かのう?」


 ネコはともかくラムの言葉は本気で胸に刺さるからやめてほしい。


『この子本当の事しか言ってないけれど……』

 いいの、聞きたくないし俺だって愚痴りたくなる事くらいあるんだよ。


『本当の君を知っている私からしたら君はいつも愚痴ってばかりだけど……』

 やかましい!


 まったくエクスの野郎め……俺があんなに苦労して倒したゲイリーを圧倒しやがって。

 そんなん俺の立場無いじゃんか。


「ミナトが戦った時は六竜の力が封じられてたんだから仕方無いんだゾ」


「……あいつだって六竜の力なんかないもん」


「ネコちゃん、ミナトが……もん、とか言っててちょー可愛いんだけど」


「ご主人はいつだって可愛いですよぅ♪」


「……否定はできんのう」


 ちょっと君達……俺に対するイメージってそんな感じだったの?


「ミナトってやさぐれてるくらいの方が可愛いかも」


「けっ、どうせ俺は力も存在も中途半端ですよ」


 実際エクスの野郎を見ていると自分の中途半端さが浮き彫りになって結構しんどい。


 俺だって魔物相手の経験値は高い方だと思うけれど、【戦闘】という意味ではきっとエクスとは経験値が違いすぎる。

 そして奴の戦闘センスについては本気で嫉妬してしまうほどだ。


 ママドラと融合したのが俺なんかじゃなくエクスだったら。

 そう考えてしまう。もしそんな事になったら超絶完璧超人の出来上がりだ。

 今の俺なんて足元にも及ばないかもしれない。


 奴だったら目の前で娘を奪われるような事も無かっただろう。


『あのねぇ……そもそも過去の記憶を持つ君じゃ無かったら呪われたイリスを助けられなかったのよ?』


 ……分かってるよ。

 いろんな偶然が重なって今の俺がいるけれど、そのどれかが足りなかったら今までの道のりは違う物になっていた。


 それが良い物にせよ悪い物にせよ、だ。


『分かってるじゃない。あの時現れたのが君じゃなかったら私と世間話して宝を手に入れてさようなら、だったわよ』


 ……俺のメンタルケアまでさせちまってごめんな。


『なぁに、君はもう私なんだから。私は私自身を信じてるだけよ』


 それは俺を信じているという言葉と同意だった。


 ……ありがとう。


「ごしゅじん? 大丈夫ですかぁ? なんだか難しい顔してますけど……そんなに気に病む事無いと思いますよぉ? 私はごしゅじんが仮になんの力を持ってなくたって大好きですからね~♪」


 ラヴィアン王国までの道のりは、結局いつものようにラムに頼り切りになってしまっているが、現在は二度目の転移を終えてラムの休憩の為沙漠手前の水場で休憩している。


「お前はよくそんな恥ずかしい事を平気で言えるな……」


「あーずるい! 私だってミナト好きだし、それは強いから、じゃないもん!」


「お前は無理にもんもん言わんでよろしい」


 まったくこいつらときたら……。


『本当は感謝してる癖に』

 うるせー。


 こんな俺を好きでいてくれる奴等がありがたくない訳ないだろ。


「ちょっと顔でも洗ってくるわ」


 皆の元を少しだけ離れ、川のほとりに屈み水面を覗き込む。


 流れの緩やかな水面にぼやっと俺の顔が映った。


 なんて情けない面をしてやがる。

 イリスは必ず取り戻すし、ラヴィアンの問題に長く関わってる余裕なんてない。


 少し乱暴なやり方になろうと、俺は今回の件をサクっと終わらせてみんなの元へ帰る。


 今回もギャルンが関わっているようならみんなの力を借りてボコってイリスを取り返す。


 それでいい。そうする事が俺の使命で望みだから。


『あまり思いつめないでね』

 おう、分かってる。ありがとうな。


 そんな俺の背後で、ちょいちょいと服を引っ張る者が居る。


「少しでいいから一人に……って、ラムちゃん??」


 ちょっと意外だった。てっきりネコかティアだと思っていたから。


「ミナトに言い忘れていた事があるのじゃ」


「……? どうかしたか?」


 ラムは車椅子に座ったまま、なんだかもじもじと指先をくっつけたり離したりしていた。


「あ、あの……わ、儂も……」


「……?」


 わざわざラムが俺に何かを伝えようとするのは結構珍しいように感じた。

 いつも他の連中よりも一歩離れた所でやれやれとか言ってる印象だったから。


 うちの面子で一番お子様で、一番しっかりしていて、一番の大人。


 そんな彼女がわざわざ一人になった俺に何か言いたい事があるという。


 俺はちょっと緊張していた。

 普段から抱えていた不満とか、そういう事を言われたらどうしよう。


 結構ショックかもしれない。

 ラムには足の事で負い目もある。


 何か辛い思いをしているとか、不満があるのなら解消してやりたいし、彼女一人に負担が集中しているのも本当に申し訳ないと思っている。


 文句の一つも言われて当然だろう。


「あ、あのな、儂も……その……」


「俺はラムちゃんの言葉をきっちりと受け止めるから……なんでも正直に言ってほしい」


「……! そ、そうなの……か?」


 ラムが驚いたようにその身を強張らせる。

 よほど覚悟のいる発言をしようとしていたんだろう。


「勿論だ」


「わ、わしは……皆と同じように、ミナトの事、好きじゃからな?」


「俺は君の気持を尊重するし、きっちり受け止める。君が選んだ答えならその決断を……って、え? は?」


「ミナト……嬉しいのじゃ。わ、儂……みんなの所に戻ってるのじゃっ!」


 顔を真っ赤にしたラムが、魔法で車椅子を浮かせて飛んで行ってしまった。


 ……は?


『私、今日ほど君をポンコツだと思った事はないかもしれないわ』


 ……俺は何か、とてつもない間違いを冒したような気がしてならないんだが。


『そうね、ロリコンね』


 それは否定させてもらうが、さっきのラム見たか? めちゃくちゃ可愛かったなぁおい。


『……私、今本気で君の事が心配よ』




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