第316話:質の悪い男の小さな逆襲。
「どちらにせよ、野心を持っている幹部が成り上がろうとして無茶をしてくる可能性はある。警戒するに越したことはないさ」
「……なるほど。そうなってくると確かに同盟の話は受けておいた方がよさそうだな。ミナトもこの国の防衛には使えそうにないし……」
「悪いな。俺もまだまだやらなきゃならない事があるんだ」
あの糞野郎から娘を取り戻さないといけない。
「でも安心してくれ。魔王軍の連中に借りがあるのは俺も同じだからよ。いつか奴等は俺がぶっ潰す」
「それは心強いな」
「じゃあリザインは……シュマルは同盟に参加すると言う事でいいのか?」
「具体的にはどう話を進める?」
『そこから先は僕が説明しよう』
うおっ、急に割って入ってくるなよ……しかもみんなにも聞こえるように通信ってどうやってんだ……?
「だ、誰だ……?」
リザインも訝しんでるし、ルークやタチバナなんかも慌てて周りをキョロキョロ見渡している。
『遠くリリアの地から失礼する。僕はリリア帝国にて王の補佐をする立場にある。シルヴァという者だ。以後お見知りおきを』
「リリア帝国から通信を飛ばしている……だと? ばかな……」
「リザインが驚くのも分かるけどこいつはそれくらい出来るんだよ。何せ六竜の一人だからな」
『おいおいミナト……簡単にネタバラシするのはやめてくれないか? 先ほど君の説明の中に私の正体が含まれていなかったので安心していたというのに』
「知られて困るような情報か?」
『それはそうだろう。リリア帝国に六竜が加担しているというのはそれだけで他の国への圧力になってしまう。僕はそういう偏見を抜きにして話を進めたかったのだがね』
「知ってしまった以上は仕方ない。どういう経緯でリリアに居るのかは先ほどのミナトの話からある程度推察は出来る。貴殿がかのヴァールハイトであろう?」
『おや、さすがシュマルの代表……聡明であらせられる』
「謙遜やお世辞は抜きで話そう。ヴァー……ではなかったな。シルヴァ。どのように同盟を進めるつもりなのだ?」
「現在ダリルの王とスケジュールの調整をしていてね。近く会合を開く予定でいるよ」
「……なるほど、私はその会合に出席すれば良いのだな」
『その通り。ダリルからは新国王のライル、そしてリリアからは私とポコナ姫が出席予定だ。リリアに私が付くのでダリルにはミナトについてもらう』
それは初耳だった。
俺がダリル側につくとなればポコナがやかましそうだなぁ……。
「待て待て。聞けばミナトも六竜の力を宿しているのだろう? ダリルとリリアにそれぞれ六竜が付いているとなればそれこそ圧力以外の何物でもないだろう」
リザインの言う事はごもっともだ。戦力差が開きすぎる。
『無論それについては考えている。私はミナトの戦いをこのリリアの地からずっと見ていたから大体何が起きていたかは把握しているのだがね、そこのゲイリー君』
「は? 俺……?」
『もう君はゲイリーでは無いのだったかな? まぁ今は仮でゲイリーと呼ばせてもらおう。君の能力はまさにこういう場にうってつけだ。リザイン殿もそれを理解した上で徴用したのだろう?』
「お見通しと言う訳か……こちらからの条件として彼の作った空間内での会合を提案しようと思っていたところだ」
なるほどな……確かにゲイリーのあの面倒な空間内でという事になれば逆にシュマルに優位度があると言ってもいいくらいだ。
『しかし勿論参加するダリル王ライル、そしてリリア帝国のポコナ姫共に精神干渉は禁止とする。その兆候が少しでも確認出来れば私は容赦なく彼を潰すよ』
「誰がそんな危険な真似をするものか。こちらとしてはいざという時に安全を確保できる場所での会合を希望するというだけだよ」
『それならば何も問題無い。もしどうしても心配ならばミナトをそちらにつけてもいいが?』
「いや、正直私はまだシルヴァ、君の事を信用する事は出来ないがミナトの事は信じるに値する。万が一どこかの国が不義を働こうとすれば命がけで止めてくれるだろうさ。なぁ?」
「なぁ? じゃねぇよ……まったくどいつもこいつも……分かった分かった。何かあれば俺が中立として守ってやるさ。その代わり誰かが妙な事をすれば俺は暴れるぞ?」
『ははは、確かにそれが一番の抑止力になるかもしれないね。ダリルも君を敵に回すとどうなるか思い知っているだろうし、勿論僕は君の敵に回るなんて考えは微塵も無いからね』
「三国の中心……ミナトは凄いな」
「シャイナ、お前も会合に参加しろ。いいよな?」
「わ、私が……そんな重大な会合の場に……?」
俺はリザインに許可を取る。というより、却下はさせない。
「……? 彼女は確かに防衛隊員として優秀だとは思うが……ミナトが彼女を推す理由は?」
「そりゃ俺がよく知ってるぜ? 俺と戦ってた時ミナトの奴あの女を命がけで守ろうとしてたからな。あのシャイナって女が居れば絶対にシュマルに危害は加えねぇだろうよ」
ゲイリーがニタニタといやらしい笑顔をこっちに向けてくる。
「うっせー。俺は出来る限り条件が平等になるように提案しただけだ」
「ほんとにそれだけかぁ~? 傍に居てほしい、とかじゃねぇの?」
おいゲイリー……!
顔を赤く染めて戸惑うシャイナとは対照的に、うちの女性陣はこめかみをぴくぴくさせながら俺を睨んでいた。
「ゲイリーてめぇ……!」
「ヒヒっ、これくらいの仕返しはしたっていいだろ?」
本当にこいつは質の悪い野郎だな……!
テメェなんか大っ嫌いだ畜生。
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