第315話:ミナトの災難とママドラの隠し事。
「……なるほど、つまりミナト達はリリアからの使者としてここへ来た、と」
心なしかリザインの圧が強くなった気がする。
それもそうだろう、急に自分の護衛が他国からの使者だった、なんてなったら近付いた目的を勘繰られて当然だ。
「でもお前なんとなく気付いてただろ?」
「……確信は無かったがね。君等の素性をいろいろと洗ってみたんだが、そもそも個人情報が一度消失しているというのがとにかく胡散臭かった。それ以前にもこの国に滞在していた期間があるようだがその際の詳しい情報も無かったしな」
なんだかんだ言って俺達の事をそれなりに疑ってはいたらしい。
やっぱりこいつはただのお人好しではない。
「で、リザイン……あんたの結論を聞かせてくれないか?」
「ふむ……正直に言えば悪い話ではない、とは思っている。リリアは他国に進攻しようと思っている国、という認識だったのだがそれも少々事情が変わっているようだしな」
他国からのリリアのイメージは結構散々な感じなんだなぁ。
「今の王になってからは大分大人しくなったとは思っていたが……」
「俺はリリアでもいろいろ騒ぎに巻き込まれてな。一応今ではリリアを守護する英傑のトップって事になってる」
「なんだと……? 君はもともとリリア帝国の民なのかね? 英傑と言えば以前戦争などで活躍した者達から選ばれた精鋭だろう?」
こいつさすがシュマルの代表やってるだけあって他の国の事も詳しいな。
「いや、俺は元々ダリル王国民だよ。訳あって一次的にシュマルに滞在し、その後ダリルに戻ってからリリアに移り住んでいろいろ巻き込まれて気が付きゃ英傑王だ。前途多難ってやつだよ」
「前途多難……君が言うとあまり多難に聞こえないが、そこに至るまでにはいろいろとあったのだろう。ダリルには戻れないような状態なのか?」
「いえいえ~ダリルの王城前広場にはごしゅじんの銅像が立っていますし英雄扱いですよ~♪」
「……は?」
初めてリザインが目を丸くした。
「待て、情報を整理させてくれ。なぜダリルの英雄がリリアで英傑王なんてやっているんだ」
「いろいろあったんだってば……。どうやら俺は行く先々でトラブルに巻き込まれる運命みたいでな」
「いや、頼むから詳しく一から説明してくれたまえ」
「それ俺っちも気になってたんだぜ!」
いつの間にかリザインの部屋の入り口にタチバナが立っていた。
無警戒だったとはいえ気配に気付かなかったとは……こいつも何かしらのスキルは持っているのかもしれないな。
「お前は口が軽そうだから嫌だ」
「おいおいミナトっち~そりゃないぜ同じ転生者のよしみで教えてくれよう」
うぜーっ!
「ミナト、タチバナ君は私の信頼している右腕だ。彼の同席を許可して頂きたい」
「あーもう分かった分かった。その代わりどっかに情報漏らしたりしたらぶっ殺すからな」
「君に逆らって生きていられるとは誰も思わないだろうから安心するといい。……だが」
そこでリザインは更に圧を増す。
「君が力で無理矢理私の意見を曲げさせようとしたりねじ伏せようとするならば私は迷わず死を選ぶがね」
「馬鹿野郎。そうならねぇように下積みしてきたんじゃねぇかよ……俺の苦労もちょっとは分かってくれ」
「ふふっ、そうだな。君程の力があれば最初から問答無用で私の元へ来て言う事をきかせる事も出来ただろう。そうしなかったのは平和的解決へ向けて動いているからだ、という認識でいいね?」
「それでいい。じゃあ俺がどういう経緯でここに至ったのかを話すが長くなるぞ?」
俺は適当にかいつまんで俺が崖から落とされたところから今に至るまでを語った。
途中でネコは寝てしまったが、ラムやティアは結構食いつくように話を聞いてくれた。
勿論ルークもテンション爆上げでウザい。
リザインは無表情で何を考えているのかよく分からず、タチバナは……急に「すげぇ!」とか「マジかよ!」とか叫び出してリザインに窘められていた。
シャイナは……うん、なんか熱い視線をずっとこっちに送って来てるから今は見ないフリをしておこう。
「まぁ、大体簡単に話すとこんな所かな。何か質問があるなら答えられる範囲で答えるけど?」
「魔王までも討伐していたとは……現在その魔王軍に魔王は不在、だと思っていいのだろうか?」
「……魔物達の話を総合するとそうなるな。俺としてもその方が助かるんだが……でもあの女はとにかく陰湿でしつこくて最悪な奴だからいつまた湧いて出てくるか分かったもんじゃないと思ってる」
「そんな虫みたいに言っちゃって平気?」
ティアが笑いながら茶化してくるが、俺にとっちゃ悪い虫みたいなもんだ。
「俺達が倒した時の魔王はまだ自分の力をきちんと使えていなかったらしい。だから倒せたってのもあるだろうな。今は俺もあの時より強くなったけど、出来れば死んでてくれた方が面倒が無い」
「魔王軍内で新たな魔王を立てる、という事はありそうかね?」
「どうだろうな……魔王軍幹部っぽい奴等も適度にぶっ殺してきたけど、未だに因縁のあるめんどくせぇ奴が一人……そしてそいつの部下にとんでもないのが一人いる。それ以外の情報はねぇよ。魔王の座を狙ってる奴はいたけど、俺の知ってる二人が一番その席に近いんじゃないかな」
ギャルンの野郎はいつもめんどくさい手を使って俺を追い込んで来るし、あの野郎の下には黒鎧がいる。
実力はまったく分からないが、アレはタダもんじゃない。
ママドラがカオスリーヴァの名前を呟いていた事を考えても、ギャルンと同じくカオスリーヴァ絡みで力を得ている可能性が高い。
『私は……何も……』
言い辛いなら言わなくていい。
まだその時じゃないさ。
『……うん』
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