第311話:ひとまずの終幕。


「はは、六竜とは……また大きくでたな」


「残念だけど本当の話だ。どちらにせよお前に勝ち目が無いのは理解しただろう? 俺にかけた精神汚染を解除してみろ」


「……それに、何の意味がある」


 ゲイリーは既に血を流し過ぎてフラフラだ。

 もうほとんど戦う力なんて残っていないだろう。

 今にも意識を失ってしまいそうなくらいだった。


「俺の言っている事が本当かどうかを見せてやる」


「へ、へへ……そりゃ冥途の土産に丁度いいぜ」


『やーいやーいこのおたんこなすーっ! ばかーっ!』


 ママドラ……やっぱり俺の方がママドラの声を聞けなくなってたんだな……。


『あっ、聞こえるようになった? まったく……ずーっと私の事無視するからどうしちゃったのかと思ったわ』


 いつの間にかあいつに妙な魔法かけられてたらしい。すまん。


『良いわよ別に。結果良ければなんとやらってね』


 ……結果、か。

 ママドラにはこの結果が良いように見えるのか?


『あー、そういう事ね。なるほど』

 何がなるほど、だよ……。


「もう解除した。ほら、最後にいい物見せてくれよ……」


「おう、ちょっと待ってな」


 今の俺ならいつもよりも上手く出来る。

 初めて見せるのがただの人間ってのが皮肉だが……。


 俺は両腕を竜化させた。


「その腕……そうか、あの時も……」


 そう言えば演説会の時に一瞬だけ見せた事があったな。


「それが……六竜の力、なのか?」


「正確には六竜イルヴァリースの力だ。訳あって今は俺と同化している」


「はは、俺は知らないうちにあんたの一番恐ろしい力を封じてたって訳だ。本気出せずにアレかよ勝てるわけねーぜ」


 そう言ったゲイリーはどこかスッキリした顔をしていて、穏やかに笑っていた。


「お前がそんな顔するんじゃねぇよ。一人で満ち足りた顔しやがって……」


「おいおいそれは言いがかりだろ。俺は俺の衝動に従ってやりたいようにやった結果がコレってだけだ。不満なんかどこにもねぇよ」


 くそったれが。

 こっちは勝ったところで最低な気分なのは変わらないっていうのに……。


 ゲイリーは心底幸せそうに笑いながら、仰向けに地面に倒れた。


「どのみちあんたがババァを殺さなかった時点で俺の負けは決まってたようなもんだしな……」


「……どういう意味だ? やっぱりアレには何か他の意味があったのか?」


「別に……なんでもねぇよ。さっさと殺してくれ。俺はもう自由になりたいんだ」


 死ぬ事が自由、だなんて絶対に認められるはずがない。

 だけど、こいつだけは……どうなろうと許すわけにはいかない。


「ちっ、早く……してくれよ。もう、この空間の維持も、キツイ……」


 ぶわりと周りの景色が歪み、いつの間にか俺達は殺風景な倉庫のような場所に居た。

 薄暗くジメジメしており、ワインなんかを貯蔵してあるようだった。


「ここは……リザインの家の地下室か」


 その時、勢いよく部屋の隅にあるドアが向こう側から破壊された。


「ここじゃ! ここから反応が……!」

「ミナト! ここにいるのか!?」

「ごしゅじーん! 今いきますよぅ!」

「勇者様が助けに登場だゾ♪」


 ドアから勢いよくみんながなだれ込んでくるが、掌を差し出してそれを制する。


 俺の両腕が竜化している事もあってか皆俺の意図を汲んでそれ以上こちらに近付くのをやめた。


「へ、へへ……リンチにあう前に、あんたの手で俺を殺してくれよ」


「言われなくてもそうする。一発で楽にしてやるからな……シャイナの仇……!」


「へっ? 私?」


 ……あ?


「今私の名前を呼ばれた気がしたんだが……気のせいだっただろうか……?」


 声のする方へ顔を向けると、そこにはネコ、ティア、ラム……そしてシャイナ。


 彼女は、俺の邪魔をしてしまったのではと思ったのかしきりに頭を下げ「す、すまん気にしないで……!」と謝った。


 ……はぁ……?


『これがさっきの、そういう事の意味よ』

 ママドラは最初から気付いてたのか?


『まぁね♪ でもあの段階で君に教えたら復讐の効果が切れちゃうでしょ?』


 ……まるでピエロだ。


「……おい」


「殺せ」


「うるせぇ。これはどういう事だ」


 ゲイリーは俺の質問に答えようとはしない。


「頼む、よ……もう、俺も限界……なんだ。さっさとその力を、見せてくれよ……楽に、してくれるんだろう?」


「いいから聞いた事に答えろ!」


「……は、やく……、も、もう……」


 あまりに血を流し過ぎたのか、ゲイリーはそのままゆっくりと目を瞑って動かなくなった。


「ネコ! こいつを治せ今すぐにだ!」


「ひゃいっ!?」


 慌ててネコが走り寄り、ゲイリーを治療する。

 さすがアルマの力にネコのスキル。みるみるうちにゲイリーの傷は塞がり、砕けた骨も元に戻った。


「……おい起きろ」


「……」


「寝たふりしてんじゃねぇ蹴飛ばすぞ」


「……最悪だ」


「それはこっちのセリフだ畜生め……お前本当に何がしたかったんだ?」


 結局シャイナは人質に取られてなんていなかった。

 ラム達の話によると縛られては居たようだが、ここにリザインの家に連れて来られてただ転がされてただけだったようだ。


 あの空間で俺に見せていたシャイナはゲイリーのスキルで俺の脳が生み出していた幻影。


 そう考えるとあそこで俺が大事な物を奪われたと勘違いしたのは僥倖だったのかもしれない。

 こんな思いは二度としたくはないが、今回は運が良かった。


 とりあえず皆に事情を説明し、だんまりを決め込んでいるゲイリーから事情を聞き出そうとしたのだが、それよりも前にいろいろ察したみんなにゲイリーは半殺しにされた。


 それはもう見るに堪えない有様だった。


 ともあれ、これで隻眼の鷹に関しては一件落着……でいいのか?

 正直疑問しかない。


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