第310話:六竜の尻尾。
「ヒャハハハハ! 俺に逃げ場はねぇ! この女にも逃げ場はねぇ! だけど一番追い込まれてるのはお前だよなぁ!?」
「うるせぇぞ糞野郎!」
俺は一か八か自分に障壁をかけぶっ放した竜巻の中を加速スキルで突き抜ける。
今あいつが俺を弱体化していたらダメージを受けるのは俺だ。
まずこれが一つ目の賭け。
かなりの空圧は感じたが、ぼひゅっと竜巻の中を突き抜ける事に成功した。
そして二つ目の賭け。
今、この時点で俺の目に見えているシャイナが本当にそこに居るのかどうか。
念の為にシャイナに障壁をかけ、彼女を庇うように魔法を受ける。
俺だけの力で二人分の障壁を張るなんて器用な真似は出来ないので俺のを一度解除して俺とシャイナを纏めて包み込む障壁。
彼女を抱きしめると、確かな感触があった。
二つの賭けに勝った!
これでゲイリーだけが吹き飛んでこの空間が解除されれば万事解決だ。
「おいシャイナ、正気に戻れ! シャイナ!」
ずぷりというあまりに懐かしい感覚が俺の腹部を襲う。
「ざぁんねぇんでしたぁぁぁぁぁ!」
それは、今まで見たどんな人間や魔物よりも、悪魔に見えた。
「う、が……て、めぇ……」
「俺の事を守ってくれてありがとうよ! 可愛い女子に抱きしめられる感覚も悪くなかったぜ!」
俺がシャイナだと思って抱きしめたソレは、ゲイリーだった。
俺が神経を障壁に向けていた事、そしてシャイナを守れたという安堵。
その隙をついてこいつは俺を弱体化させ、ダガーを俺の腹に突き刺した。
「切れ味いいだろ? これは俺の持ってる武器の中でも一番の業物なんだ。あんたを突き刺せてこいつも喜んでるはずだぜ」
頭のおかしい野郎だ。
ぶっちゃけめちゃくちゃ痛いし、キキララに包丁ぶっ刺された時の事がフラッシュバックして吐きそう。
だけど、そんな事よりも確認しなきゃいけない事があった。
「……シャイナは、どう……した?」
「うへぇ、この状況で他人の心配とは恐れ入ったぜ。あの女は充分人質の役目を果たしたな! そして何より俺の一番の楽しみを提供してくれたぜひひひっ」
気色悪い笑み。
こいつと出会ってから短期間だったが、俺はこいつの言いたい事が分ってしまった。
分かりたくなかった。
「あの女だったらよぉ……あそこでズタボロになってるぜ? なんでだろうなぁ??」
ゲイリーが指さす方向へゆっくりと顔を向ける。
そこには見たくない、知りたくない現実がバラバラになって転がっていた。
「シャイナ……おい、嘘……だろ……?」
「ひーっひひひ! ギャハハハハ! たまんねーっ! それだよそれ、その顔が見たかったんだよ!!」
そんな馬鹿な……。
シャイナは、手足が千切れ飛び、首が有り得ない方向に捻じれていた。
「お、俺……が?」
「それ以外何があるんだぁ? いやぁまさかあんたが俺を守ってあの女を殺すとはねぇ~っ! いやぁいいもんが見れたぜ最高の気分だ! ヒャーッヒャヒャヒャ……」
バキン。
「ひゃっ……?」
「あぁ……正直お前、人間にしちゃかなり強いよ。どうやって殺そうか困るくらいにな」
「……えっ、嘘だろ? 何が、どうなって……?」
ゲイリーがダガーを握りしめ、折れた刀身を見つめて困惑している。
「こんな事になっちまったのは俺の落ち度だ。俺がお前なんかを生かしておいたから回り回ってこんな事態を引き起こしちまった」
ぼとり。
「お、おい……なんだよそりゃあ……どうなってんだ」
俺の身体の中から吐き出された折れた刀身が不思議で仕方ないらしい。
ただ俺が力を込めてへし折って体内から押し出しただけだっていうのに。
「本当に今日は最低の日だ。最悪な気分だよ……だけどな、最後の最期で少しくらいは俺にも運が残ってたらしい」
「な、何を言って……おい、離せ! な、なんて力だ……!」
俺はゲイリーの肩を握りつぶす勢いで力を込めた。
結果、さほど手応えを感じるまでもなく奴の肩の骨が消えた。粉砕されて抉れてしまった。
「ぎゃぁぁぁぁっ!!」
ゲイリーは転げまわり、「な、なんで? なんでだ!? お前、お前は……弱体化されてるはず、なのに……!」と、涙と鼻水を垂らしながらもゆっくりと立ち上がった。
「……お前にとって最悪だったのはさ、俺に嫌がらせをしようとするあまりシャイナの扱いを適当にしてしまった事と、俺のスキルがこの状況をきちんと奪われたと認識してくれた事だ」
「なんの、事だ……」
本当に情けない。
人間一人相手にここまで追い詰められて、自分の事を慕ってくれていた女の子一人守れず……それどころか自分の手で殺してしまった。
「なぁ、ゲイリー。シャイナを殺したのは俺だけどさ、これからお前に八つ当たりをするよ。俺から大切な物を奪ったお前に復讐させてもらうぜ」
「ひ、ひひ……いい顔になったじゃあねぇかよ……。ミナト、いいぜいいぜ、お前その方がよっぽどいい女だ……俺が抱いてきたどんな女よりも美しい……!」
「そりゃどうも」
俺は腕を振るい、真空波を生み出してゲイリーの腕を切り落とす。
「肩はもう抉れてるんだ。そんな腕要らないだろ」
「うっ、ぐ……へ、へへ……たまんねぇなその冷たい表情……震えあがる程の殺意……! もっと、もっとだ。もっとくれよ……!」
「そう望むんだったらそうさせてもらうさ」
俺は見えているゲイリーを無視して背後に回し蹴りを放った。
「ぐげっ……!」
「もうお前の精神汚染も効かねぇよ。いや、きっちり効いてはいるけど今の俺にはお前の居場所が手に取るように分かる」
「へへ、虎の尾ってのを……踏んじまったかぁ?」
「残念だけどテメェが踏んだのは虎なんて可愛いもんじゃなくて……六竜の尻尾だよ」
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