第301話:サイガ。
「つまり……隻眼の鷹の目的ってのは……」
「民が本当の意味で自分の自由を手に入れる事……ってとこかな」
ゲイリーはそう言い放ち妙に誇らしげな表情を俺達に向ける。
「聞こえの良いように言ってんじゃねぇよ。要するに民衆が指導者の元一つの方向に向いてる状態をぶち壊したいだけだろ?」
「まぁ、そうとも言うかな」
「この子なんかムカつくんだゾ。殺しちゃっていい?」
ティアがダンテヴィエルをつきつけ、なんだか本当にぶっ刺してしまいそうだ。
「ま、待て! 話が違う!! 俺の命は保証してくれるって言ったじゃん!!」
「世の中そんなに甘くない……覚えておくといいんだゾ♪」
「ティア、そのくらいにしとけ。それにまだこいつには聞かなきゃならない事がある」
ティアは「ちぇー」とぼやきながらぴょんっと机の上に飛び乗る。
「た、助かったぜお嬢ちゃん……」
「俺の名前はミナトだ。覚えなくてもいいけどな。で、隻眼の鷹のアジトは何処にある?」
それさえ分かればこっちから突入してリーダーをぶち殺してやればそれで終了だ。
「無理だ……いくらお嬢ちゃんが強いからってリーダーには敵わない」
「おいおい。お前は雇われで詳しくねぇんじゃなかったのか? なんでそう言い切れる?」
「知ってるからだよ……会った事が無くても、あんなのには絶対に勝てるはずないって、思い知らされるんだ」
どういう事だ? 会った事もないのに何を思い知らされるってんだ。
「言葉じゃ説明できない。ただ、隻眼の鷹に協力すると決めた時から脳味噌の中身をぐちゃぐちゃにかき回されたような感じになるんだ」
「……精神汚染系の魔法か、特殊なスキルでも持ってるのかもしれないな……」
「俺は、自慢じゃないが状態異常耐性のスキルを持ってるから気持ち悪いな、くらいで済んだんだが……」
なるほど……だとしたら隻眼の鷹のメンバーがさっき次々と死んだのはもしかして。
「な、なぁ……やっぱりあいつら口封じに殺されたのかな……?」
「その可能性が高いだろうな。敵に捕らえられたりした場合に自害するように洗脳されてた可能性もある」
もしそうなら先日俺が戦った暗殺者についても納得できる部分が多い。
「お、俺も……殺されるのかな?」
「少なくとも精神支配されていないなら大丈夫なんじゃないか? わざわざお前一人を狙って来る事はないだろ」
「でも俺……ベラベラ情報話しちまってるけど……」
「それを親玉さんが気付く術があるかどうか、だな。少なくともここは防衛隊の宿舎内。そうそう手を出そうとは思わないだろうぜ」
魔物の集団は来た事あるけどな。
「だ、だったら……俺をここにかくまってくれるって事か?」
別にストレージに放り込んで置いてもいいんだが、ストレージ内でルークやリザインなんかに悪さされても困るからなぁ……。
別に最悪の場合こいつがどうなっても知った事じゃないし防衛隊に預けておくのが都合いいかもしれない。
「お前はここでしばらく拘束させてもらう。全部終わったら改めて処遇については考える事にしよう」
俺が決める前にシャイナが毅然とした態度でゲイリーに告げた。
「ジンバ隊長には私から話しを通しておく」
「あぁ、すまないがたのむよ……で、だ。さっきの話の続きだがリーダーの居場所はどこだ? 知ってるんだろう?」
「だから無駄だって……」
「言っておくが儂は勿論ミナトもそちらのユイシスもティアも精神攻撃など効かぬぞ?」
ラムが退屈そうに車椅子のひじ掛けにぐでーっと身体をもたれながら言った。
「そ、そうなのか?」
「俺達にそんな物は効かないし、最悪の場合そこのラムちゃんにジャミングかけて貰えばなんら問題はないな。だから教えろよ。お前だってここまで話しちまったんだからリーダーがくたばった方が都合がいいだろ?」
「……」
ゲイリーは少しだけ真剣な表情で悩む。
「それともお前は個人的にリーダーのサイガって奴に義理立てする理由があるのか?」
「……いや、そんな物は無い。あんた等がほんとにサイガを倒してくれるんなら、俺は今後逃げ続ける必要がなくなるからな……」
犯罪者だしまずこの防衛隊から逃げられるかどうかが問題だとは思わないのかねこいつ。
「いいだろう。教える。その代わり、確実に……頼むぞ」
「分かってる。安心しろ」
「……場所はガリバン南東にある小さな教会の真裏……そこにある二階建ての民家だ」
民家……物騒な団体の親玉が住むには随分と質素な場所だが……。
逆にそういう方が街に潜みやすいのかもしれないな。
「いいか、リーダーは他にもどんな力を持っているか分からない。それだけ得体のしれない奴だ。だから……相手に気付かせる間も無く一撃で仕留めてくれ」
「随分心配性だなお前は」
それだけ恐れてるって事かもしれないが……。
「会話なんてしようと思うな。付け入る隙は与えない方が絶対にいいだろ? 場所はそこで間違いないんだ。一気にぶっ潰して始末してくれ頼むよ……」
ゲイリーはガタガタと震えながらそう呟き続けるだけだった。
……まぁ、俺だって余計なリスクは負いたくないし、こいつの言う事に従うのは癪だが今回はその流れでいくか。
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