第302話:教会の秘密。


「早速俺とティア、ラムの三人で隻眼の鷹リーダーの家に襲撃をかけるぞ」


「ごしゅじん、私はどうしたんですぅ?」


「お前は留守番だ。少人数で動いた方がやりやすいからな」


 万が一魔物が絡んでいた場合の為にティア、相手の精神系魔法が強力だった時の為のラム。

 その二人が居ればとりあえず問題無い。


 ゲイリーが狙われる可能性も多少考慮してネコをここに置いていく。

 今回はこの配置が一番いいはずだ。


「残念だが今回は私も足手まといになるかもしれないからな……ユイシスと一緒にこいつの見張りでもしていよう」


 シャイナは俺が何も言わなくても意図をきっちり理解してくれている。

 精神魔法なんて使われた時一番リスクが高いのはシャイナだからな。


 露骨に操るタイプの魔法ならまだいい。

 昏倒でもさせてしまえば事足りる。

 ただ、本人も分らないまま何かを刷り込まれて気が付いた時には自害している、なんて魔法だった時が一番困るんだ。


「私はどうすればいいかな?」


 リザインが少々疲れたように肩をぐるぐる回して溜息をついた。


「悪いがもう少しの間ストレージに入っててもらうよ。隻眼の鷹を片付けるまでな」


「私もあの空間には少々飽きてきてしまったからな。出来れば早めに頼むよ」


「ああ、任せておけ」



 リザインにはいつものようにストレージ内に入ってもらい、ラムの転移魔法で教会の近くまで転移する。


「うーむ、かなり寂れた教会じゃのう?」


 車椅子を魔法で操作しながらラムが教会を見上げる。


 確かにかなりボロボロだ。

 ガリバンの街並みからはかなり浮いているように思う。

 相当古い建物のようだが、修繕がおいついていないようだ。


「こんな教会の事はいい。それより裏手の民家だったな……」


 教会の脇を通って裏手に回ると、そこにはゲイリーが言った通りの二階建ての一軒家があった。


 これまたかなりボロボロだ。


「ねぇ本当にコレで合ってる? なんか全然大ボスが居る感じしないんだゾ?」


 確かにそれはそうだが……。


「いや、人を自害に追い込む程の使い手だったら油断は禁物だ。魔物の関与だってありえるからな」


「じゃあどうするのじゃ? 言われた通り一気にやってしまうのかのう?」


 ……何か引っかかるような気もするが、これ以上面倒事を増やさない為にはそれが一番いいだろう。


「よし、二人とも少し下がっててくれ。俺が建物ごとぶっ潰す。ラムちゃんはこの建物以外に被害が出ないように周りに障壁張ってくれ」


「おっけーなのじゃ」


 ラムがすぐに魔法で俺達と目標の家だけを結界に閉じ込める。


 周りを守れと言ったはずだが、確かにこの方が手っ取り早いしどっちみち被害が周りに及ばないなら問題ないだろう。


 俺達まで爆発に巻き込まれる可能性があるがその辺はラムが上手く守ってくれるはず。


「よーっし、じゃあ一発でっかいのぶちかますぞ!」


 俺が手を上にかざし、魔法の準備をした時だ。



「ちょっとミナト! 待って!」


 ティアが大声をあげてビックリしてしまった。


「なんだよ急に……」


「ねーおねーちゃんたち何か御用?」


 いつの間にか俺達のすぐ背後に小さな男の子が立っていた。


「うわっ、どこの子供だ!? 危ないからこんな所に居ちゃだめだぞ?」


 ラムの結界内に入ってしまったという事はもともとこの近くで遊んでたか何かだろう。

 こんな小さな子供が近くに居たのに気付かないとは失策だった。


「ラムちゃん、一度仕切り直しだ」


「う、うむ……おい! 待てどこに行くんじゃ!」


 少年はすたすたと一軒家の方に走って行ってしまった。


「おいおいまずいぞ。追いかけよう!」


「ママー! お客さんだよー」


「……って、えぇ?」


 少年は玄関を開けて家の中に入っていってしまった。


「いったいどうなってんだ……?」


 ママ……?


 少しすると一軒家の中から修道服を身にまとった高齢のシスターが現れた。


「あらあら、こんな場所に若い娘さん達がいったいなんの御用かしら?」


 その声はとても優しく、とてもじゃないがこの女性が隻眼の鷹のリーダーなんて事だけは無いと確信できた。


「何がどうなってるのか分からないんだゾ」


「……俺もだよ。とにかく少し話を聞いてみよう」


 俺は小声でラムに、「念の為精神魔法の対策はしておいてくれ」と告げ、シスターに声をかけた。


「実は少し伺いたい事がありまして……」


「あらあら、そうなの? こんな所じゃなんだから……ボロボロの家だけれど中に入って下さいな。紅茶でも用意しましょうかねぇ」


 一応警戒はしつつも、俺達はシスターの後について家の中へと踏み入った。


 中は外以上にボロボロで、あちこち痛んで今にも倒壊するんじゃないかと思うほどだった。


 床がミシミシと嫌な音を立てる。


 案内された少しだけ広めの部屋には、先ほどの少年と、他にも五人ほど子供がわいわい騒いでいた。


「……なんだ? ここは孤児院か何かか?」


「こらこらみんな、お客さんが来ているのよ? 少しお外で遊んでらっしゃい」


 シスターの言葉に子供達はみんな元気に「はーい」と返事をしてドタドタと廊下を走っていった。


「走っちゃダメよ。廊下がもろくなってるからね?」


「はーい!」


 確かにあんなやんちゃ盛りの子供が六人も居たらそのうちこの家は崩れちまうぞ。


「おほほ、ごめんなさいね。さ、しばらくは静かにお話も出来るでしょうから皆さん座ってちょうだい。今紅茶を入れてくるわね」


 ……何がどうなってんだ?


 ゲイリーが嘘を付いた、と考えるのが普通だが、だとして何故ここを俺達に潰させようとした……?


 あいつにとってここはいったい何なんだ?


 何か、何かしらの意味がある。

 俺にはそんな気がしていた。


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