第300話:隻眼の鷹の活動理念。


「……で、だ。お前らはいったいどこのどいつで何が目的なんだ?」


 他の奴等もうまくやったようで、ネコ、ティア、シャイナが一人ずつ隻眼の鷹メンバーを捕らえていた。


 今はそいつらをぐるぐる巻きにして一同に集め、これから尋問……という所だった。


 念の為にリザインは一度ストレージ内に避難させている。

 講演会は結果的にこいつらに台無しにされたが、リザインは言うべき事は一通り言えたと満足げだった。


 別動隊なども紛れ込んでいるようだったが、そいつらは逃げる民衆に紛れてこの場から離れてしまっただろう。

 しかし隻眼の鷹のメンバーを四人も生け捕りに出来れば十分に情報を引き出す事が出来る。


「……」

「……」

「……」

「……」


「なんだよ全員だんまりか? それなりに痛い目にあわないと口も開けなくなっちまったようだな」


 俺がちょっとくらい脅しても誰も口を開こうとはしなかった。

 四人はそれぞれ目を合わせ、俺が相手をした男が「俺達は脅しには屈しない。例え死ぬ事になったとしてもだ」などとのたまう。


 さっきは一人だけで国外逃亡までしようとしてたくせに。


「ぐぼっ」


 捕らえた隻眼の鷹メンバーの一人が突然血を吐いて倒れた。


「な、なんだ!? 何が起きた!」


 ネコが慌てて駆け寄り、治療を試みるが既に死んでしまったようだ。


「隻眼の鷹万歳!」

「隻眼の鷹万歳!」


 その後立て続けに二人が血を吐いて倒れる。


「ぎゃーっ! こ、殺される! 頼む、俺を助けてくれ! 聞きたい事を話してやるから、守ってくれよ!」


 残ったあの男が縛られたまま地面を這って俺に助けを求める。


 何者かがこいつらを殺した……?


「ラムちゃん! こいつに障壁を!」


「分かったのじゃっ!」


 男を障壁で包み、襲撃に備えて辺りを見渡したけれど、それ以上何も起こらなかった。


「おい、お前の命は今のところ保証してやる。その代わり……お前らの事、隻眼の鷹について詳しく聞かせてもらうぞ」


「わ、分かった! 分かったからこんな場所じゃなくてどこか安全な所に連れてってくれ!」


「……いいだろう」


 その後、リザイン宅では少々手狭なので防衛隊の所までラムの転移で移動する事にした。


「うわっ、なんだ!? 転移魔法!?」


 隻眼の鷹の男が一人でやたら騒ぎ散らしているが相手をしてやる奴は誰一人いなかった。


 訓練場の脇を通り宿舎へ向かうと、中からジンバが姿を現した。

 こいつも何事もなく隊長として戻れたようで何よりだ。


「おや、ミナトじゃないか。来るなら来ると連絡くらいくれればいいのに」


「ジンバ、悪いけどちょっとゴタついてるんだ。休憩所貸してもらうぞ。人が入って来ないようにしといてくれ」


「ん……? それは構わないが……リザイン様も一緒か。確かに普通ではない状況のようだな。分かった、好きに使うといい。なにしろ君達はまだ防衛隊員なのだからな」


 ジンバは俺達の中に見慣れない男が居るのが気になったようだが、まぁ機会があれば後で説明してやろう。


 休憩所へ入り、男を適当に床に転がして俺達はそれぞれ椅子に座る。


 取り囲まれた男は防衛隊の宿舎に居るという事を理解しているらしく汗ダラダラだった。


「で、お前はどこの誰なんだ?」


「お、俺は……勿論シュマルの国民だよ」


「出身……はどうでもいいか。名前は?」


「ゲイリー・トンプソン」


 ゲイリーと名乗った男は胡坐をかき腕組みをして、「隠し事はしない。なんでも聞け」と完全に開き直っている。

 場所が場所だけに自分の安全が確保されたから、というのも大きいかもしれない。


「隻眼の鷹のボスとお前らの目的は?」


「俺は雇われで加入してるだけで詳しくはないけど、隻眼の鷹リーダーってのはサイガって呼ばれてたな」


「サイガだって……?」


 その名前に反応したのはリザインだった。


「知ってる名前か?」


「む……ああ、サイガと言えば当時隻眼の鷹を率いていたリーダーの名前だったはずだ」


 へぇ……。


「じゃあ過去の亡霊が再び、って所か。おいゲイリー、結局お前らは何をしようとしている? リザインを狙う理由はなんだ?」


 隻眼の鷹が当時王政を壊し民主主義を手に入れたのだとしたら、今回は何故平和の象徴を狙う?


「……それは当時と同じ理由だよ」


「当時と同じな訳ないだろ。状況が違いすぎる」


 しかしゲイリーは皮肉っぽく笑いながら、断言した。


「いいや、同じなんだよ。今も、昔も」


「なんでそう言い切れるんだ? リーダーの考えとメンバーの考えが必ずしも一緒とは限らないだろう?」


 そう、そういう事はよくある。

 皆が信じた理想論……それがどれだけ素晴らしくとも、リーダーにとってはそれがただの手段であり、実は裏の目的があった。

 そんな話は聞き飽きた。今回がそうでない保証などどこにもない。


「いや、何度でも言うが、だからこそ今も昔も目的は同じなんだ。もしかして隻眼の鷹の活動理念が平和の為、だったなんて思ってるんじゃないか?」


「……? 違うのか? 少なくとも当時はその為に王政を潰したんだろう?」


「違うね。やっぱり世間とのズレが凄いな。言っておくが隻眼の鷹の活動理念は自由と混沌だ」


 自由と、混沌……?


「人が可能な限り自由に未来を選択でき、なおかつ世の中が混乱を極める……人々が本当の意味で好き勝手にやりたい放題やれば必然的にカオスが生まれるんだ。自由こそ混沌。混沌こそ自由」


 ……おいおい、隻眼の鷹ってのは英雄なんて呼ばれちゃいけないタイプのヤバい奴等の集団じゃねぇか。


 これはルークが聞いたら悲しむなぁ。




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