第293話:催促。


「監……禁?」


「いやいやミナトさん、突然何を言い出すんですか私と代表を監禁だなどと……」


「ん、ちょっと言い方が悪かったかな。多分だけど遅かれ早かれ暗殺者はお前らのどっちかを襲いに来ると思うんだよ」


 悪い噂のある大臣たちを殺しているというのがただの世直しのつもりならば、それだけで止まる可能性はある。


 だが、目的をごまかす為にそういう奴等から始末しているだけ、という場合もある。


 そもそも大臣達を殺している理由をこちらが勝手に決めつけるのは大事な物を見落としてしまうかもしれない。


 だからとりあえず。


「二人を確実に守るためにしばらくの間この家に閉じこもってもらうぞ」


「しかし……私には公務もあるのだが」


「その公務ってのは外でやるものなのか?」


 俺の質問にリザインは「当然だ」と首を振る。


「公務自体は勿論室内でするものだが、ここにずっといる訳にはいかないのだ。移動せねばならぬ時点で閉じこもる事は出来ない」


「へぇ、じゃあ目的地までひとっとびだったら?」


「代表を転移で目的地まで移動させるという事ですね。しかしそれになんの意味が……?」


 ルークはまだ分かってないようだがリザインの方は顎に手を当てて目を伏せている。俺の言おうとしている事に気付いたのかもしれない。


「だから代表さんには姿を消してもらうんだよ」


 俺の意図が理解出来たらしく、リザインが深く息を吐き、お茶を啜った。


「つまり、私がしばらく表に姿を現さなくなったとしたら、もし連中が私も狙うつもりならば動き出す……と?」


「ああ、狙える場所が無くなれば必然的に家に襲撃にくるだろう。そこを俺が仕留める。逆に、それでも相手が動かないようなら代表たちは安全、と見てもいいかもしれない。とにかく相手を釣り出すにはちょうどいい」


「そ、それって私も……ですか?」


 ルークが嫌そうに口をへの字にしている。


「別にいいぞ? 俺の仕事はお前を守る事じゃないし、死んでもいいなら今まで通り過ごしてくれ」


「……そ、そんなぁ……」


「ミナト氏、あまり虐めてやらんでくれ。私とルークをよろしく頼むよ」


 さすが代表、話が分かる。


「少しの間不便をかける事になるけど我慢してくれよな」


「いやいや、私からしたら移動の手間が無くなるからね。むしろ楽になるさ……怠け癖が付かないように気をつけないとね」



 早速その日からリザイン代表が表に姿を現す事は無くなった。

 リザインが仕事で出向かなければならない場所は一通り俺とラムで事前に回り、俺がチェックで全て登録してきている。


 なので移動は俺一人で事足りる為、ラム、ティア、ネコ、シャイナは通常通り防衛隊の任務に戻ってもらった。


 俺はリザインの家に寝泊まりして襲撃者に備える。

 定期的にラムが通信を送って来ては小言を言ってくるのが悩ましいが、それ以上に困っているのがその通信にたまに割り込んでくるティアとネコだ。

 やかましいったらない。

 俺だけが別任務で男の家に泊まっているのがよほど気に入らないらしい。


 俺だって男なんだから男の家に泊まってたってさほど問題無いように思うんだがね。

 やっぱりこの身体だからだろうか?

 とはいえ万が一誰かがトチ狂って襲い掛かって来たら死ぬのが分かってるから誰も妙な事はしてこないと思う。


 たまにやってくるタチバナだけが気安くベタベタしてくるのでこの前ついうっかりボディーに一発入れてしまった。

 すぐに回復魔法でなんとかなったけれど、この男の凄い所はそれでまったくめげない所だった。


「いやー死ぬかと思ったぜミナっちこっわーっ!」


 とか言ってゲラゲラ笑っている。

 どうやら元から頭のネジが若干緩んでいるタイプの人間らしい。


 とにかく、そんな日々を送っていたのだが、俺は肝心な事を忘れていた。


『ミナト、聞こえるかミナト』


 うおっ、いきなりなんだ? 驚かせやがって……。


 突然俺の頭の中にシルヴァの声が響いた。


『もうすぐ約束の一か月が経過するがそちらの経過報告を頂けると助かるのだがね』


 うお……もうそんなに経つのか。

 いや、その……こっちにもいろいろ事情があってだな、代表とは既に接触しているが現在シュマルで起きている問題を解決しないと話を纏めるどころじゃないんだわ。


『ふむ……会合の時期を延期してくれ、という話でいいのかな?』


 ……う、うん。


『それは困ったね。こちらはダリル国王とスケジュール調整をしているのだからきっちり約束は守ってもらわないと。間に合わないのならいっそシュマル代表を始末してミナトがその国の……』


 ちょ、ちょっと待てって! こっちはなんとかうまく行きそうなんだよ。今更そんな事したってなんのメリットも無いぞ!


『ふふふ、冗談さ。延期の件は了承した。というかある意味都合がいいのだ。実はシュマルの件が終わったら君にもう一つ頼みたい事が出来てしまったのでね、丸々ひと月ほど延期しようという話が出ていた所だ』


 おいおいこれ以上まだ何か俺にやらせる気なのかよ……。


『君に拒否権は無いよ? まぁそれはシュマルの件が片付いたら、で構わない。とりあえず出来る限り迅速にシュマル代表と話をつけてくれたまえよ』


 分かったって。もうちょっと待っとけ。


『ではいい報告を期待しているよ』


 ……ふぅ、これが終わったら何をやらされるやら……。出来ればさっさとシュマルの件だけでも片付けないとな。


『……なら、なおさら都合いいわね』

 ……そうだな。


 このタイミングで代表宅に侵入者とは飛んで火に居るなんとやらだぜ。



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