第292話:拉致?監禁。


「おいおい……これがシュマル代表の家か?」


「びっくりしたろ? 俺っちも最初見た時びっくりしたもんさ」


 広大な敷地、管理された庭、そして何部屋あるのか分からないほどの大豪邸。


 そういうのを想像してたんだが、目の前にあるのは……なんというか、こじんまりとした一般家屋だった。


 マンションの類ではなく一軒家ではあるのだが、特別大きいようには見えない。

 俺達の拠点にある家の方が大きいくらいだ。


「私は元々一般人ですからね。広い家なんて落ち着かなくて嫌です。さ、入って下さい。お茶くらいはお出し出来ますよ」


 柔らかい口調で俺達を中へと促す。

 玄関が狭い。

 俺達の靴で埋め尽くされてしまった。


 部屋はそれでも三部屋ほどあるらしく、一つは寝室、一つは居間、そしてもう一つが客室だ。


 他の部屋が狭く、客室を大きく取っているらしいのでなんとか全員テーブルを囲む事ができた。


 大きいと言っても十畳無いくらいだろうか?

 部屋の一番遠い場所にリザインを座らせ、テーブルを囲んで彼の左右にルークとタチバナ。

 後は適当にネコ、ラム、ティア、俺が据わる。

 ちなみにラムの車椅子は邪魔になるので家の外に置いてきた。


 俺が背負ってやろうかと思ったら、声をかける前にふわりと浮かんでしまったのでやめた。


『残念だったわね?』

 ほんと残念。


「……おっと、お茶を用意するのを忘れていた。少し待っていてくれたまえ」


 せっかく上座に座らせたのにすぐ立ち上がってお茶の用意に出てしまう。

 代表になってから数年は経っているだろうに庶民感が消えてないようだ。


 むしろそういう所が支持される理由なのかもしれないが。


「ささ、皆の口に合うかは分らないがタチバナさんと私で吟味した茶葉からとったお茶です」


 そう言ってリザインが持ってきたのは、小さな湯飲み茶碗に入った緑色のお茶。


「……これは」


「ミナっちには分かるだろ~? いろんな植物試したんだけどさ、これが一番近いと思うんだよ。飲んでみ?」


 タチバナに促されて一口すする。

 結構熱かったけれどそれでも口の中に懐かしい風味が広がった。


 アルマの館でかむろに出して貰ったのはかなり本格的な抹茶だったから、こういう普通の緑茶みたいなのを飲むのは久しぶりだ。


「どうよどうよ!」

「これタチバナさん、そう急かすものではありませんよ」


 タチバナは緑茶の味を知っている俺の反応が気になるらしく身を乗り出してきた。


「うん……懐かしい味だ。美味い」


 夢の種で希望の味を体感するのではなく、実際に懐かしい味に出会えるっていうのは、思いのほか感動した。


 何せここに夢の種はないし、調理してくれるオッサは居ないんだからな。


 いつかタチバナにも夢の種で好きなもんを食わしてやりたいところだが、もしかしたらこいつからしたら邪道なのかもしれない。


 まぁその辺の話をすると長くなるから今後機会があったら、でいいか。


「お茶のおかわりは要りますか?」


「勿論、と言いたいところだが……とりあえずすべき話はしといた方がいいだろう」


 リザインのありがたい申し出を断り、彼には狙われる理由の心当たりを聞いてみた。


「心当たり、ですか……私個人には思い当たる所はないんですが……」


 私個人には、というのが引っかかる。何か気になる事があると言う事だろう。

 リザインは眉間に皺を寄せて少しの間悩んでから口を開いた。


「これは確たる証拠などは何もない話なのでそれを前提に聞いて下さいね。最近この首都ガリバンで妙な事が起きているのです」


「もしかしてアレの事ですか?」


 リザインの言葉に反応したのはシャイナだった。


「シャイナは何か知ってるのか?」


「知ってるというか……うーん」


 シャイナはどう切り出していいものか迷っているようで、リザインが彼女を制し、続けた。


「私から話しますよ。実は最近この国の大臣達が不審死しておりまして」


「なんだって? そんなの明らかにおかしいじゃねぇかよ」


「待って下さい。不審死、と言ってもまだ二名です。そしていずれも悪い噂のある人物でしたし、恨みを持つ者は多かったと聞きます」


 リザインは「嘆かわしい事です」と呟いたが、それはどちらの意味だろう?

 悪い噂のある人物が大臣をやっていた事か、それとも死んだ事か。


「その言い方だと殺しなんだろう?」


「……ええ、言うか迷ったのですが……これはまだ一部の人しか知らない情報ですので内密に……。二名とも背後から心臓を一突き、だったそうです」


「うへぇ~っ、そりゃ腕のいい暗殺者の仕業っしょ! 恨まれてたからってそんな事になるわきゃねーぜ!」


 タチバナが大きなリアクションで自分のおでこをぴしゃりと叩いた。なんだこいつ。


「タチバナの言う通りだ。やり方が素人とは思えないし、二人とも同じ死因だったなら暗殺されたと考える方がしっくりくるぞ」


「……やはり、そうですか。狙いは、なんだったのでしょうね」


 悪評高い大臣だったというのならば、一番可能性が高いのは……。


「自分達が世直しでもしてる気になってんじゃねーの?」


 先に言われてしまったが、俺もタチバナと同意見だ。


「なぁ代表さんよ、俺達を護衛として雇う話はどうする? 採用してくれるなら必ず守るぞ」


「……そうだね。守る、というより……真相を暴いてほしいという気持ちの方が強いが……それでも良ければ是非お願いしたい」


 よしよし、相変わらず面倒な事になりそうだがこれで目的にかなり近づいたぞ。


「オーケー、その願い必ず叶えてみせるよ。その代わり……俺達はあんたに頼みがあってここまで来たんだ。本当に俺達の事を信頼できると思えたらその時は、話を聞いてくれ」


「ジンバの推薦の時点で信用しているのだが……今話してもらっても構わないよ?」


「いや、ダメだ。あんたが思ってるよりも大きな問題だし、そもそもあんたに危険が迫っている状態ではどっちみち頼めない内容だから全部終わってからでいい」


 同盟話が進んでからこいつが殺されでもしたらそれこそ面倒だからな。


「……なるほど、君達は……大きな力を持つだけの、使命を抱えているという事だね。了解した。今首都で起きている事件の真相を暴いてもらえるのならばできる限りの事はしよう」


「助かるよ。じゃあまずは……代表さんとルーク、二人を今日から監禁させてもらう」


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