第281話:どういう事だってばよ。


「シャイナ、いいか、それは何もおかしな事じゃない。ごく稀にだがある事だ」


「そ、そうなのか!? 私、子供の頃に友達や両親に話しても誰も信じてくれなくて……頭がおかしい子だと思われて……それで……」


 シャイナの場合前世の記憶を完全に持っている訳じゃないんだろう。

 それで断片的に蘇る過去の記憶に悩まされていた、と。


「大丈夫だ。お前はおかしくなんかないし、俺はそういう事があるのを知ってる」


「よかっ……た……初めて、初めて私……受け入れて、もらえた……ミナトに話して本当に、よかった……」


 シャイナは瞳から大粒の涙をぼろぼろと流し、必死に指で拭う。


「シャイナ、それは前世の記憶だよ」


「……前世? 私になる前の、私……?」


「そうだ。人が死ぬとその魂は別の存在として生まれ変わる事になる。俺も詳しくはないからそれが人間だけなのか、全ての生き物に共通なのかは分からん」


「私は、違う人間としての記憶を持っていると……?」


 にわかには信じられないと言った困惑気味の表情でシャイナが額に手を当てる。


「シャイナみたいに断片的なのも居れば、前世の記憶を完全に持ち越している奴もいる。……例えば俺みたいにな」


「……えっ?」

「ふにゃっ? ごしゅじんってそうだったんですぅ?」


 シャイナが驚くのは当然としてネコはそろそろ気付いてたっておかしくねぇ気がするんだけどなぁ。


『君が説明してないんだからしょうがないわよ。アルマもいちいちそんな事言わないでしょうし』


「この際だからネコにも話しておくが、俺の魂はちょっと特別らしくてな。普通なら十回も転生すれば命はすり減って終わりが来るらしいんだけど、俺はもうすでに転生を百万回ほどしてるらしい」


『厳密には百万回死んで、九十九万九千九百九十九回転生し、一回生き返った状態だけどね』

 それは今省いていいだろ。


「百万……?」

「ほぇ~。あ、もしかしてごしゅじんがたまに違う人みたいになるのって……」


「やっと気付いたか。それだよ。俺は過去俺が生きてきた人生全ての記憶、スキルなどがこの頭に詰まってる。必要な時に引き出して使用する事が出来るってわけだ。ほら、こう聞いたらシャイナが別におかしくないって分かるだろ?」


『どう考えてもおかしいのは君だもんね』

 それは激しく同意だよ。


「そ、そうか……ありがとう。気が楽になったよ。それにしても百万か……凄いな」


「まぁその話は後でいい。それより、シャイナは前世の記憶の中でドラゴニカ所持者を見た事があるって事だな?」


「そう、みたいだ。はっきりとした記憶ではないんだけれど、一緒にパーティを組んでいた仲間だったんだと思う。その人が使うドラゴニカは形状変化はなく、ただ竜の力を身に宿す事で身体能力を激しく向上する……そういうスキルだった」


 なるほどなぁ。伝説級にレアなスキルで詳しい情報がないからそこまでは知らなかった。


「なるほど、いい話が聞けたよ」


「だから……ドラゴニカって表記を見た時すごく違和感を感じて……ミナトのは何か、違うんじゃないかって」


「ここまで来たらシャイナにはちゃんと教えるさ。俺はステータス鑑定の時に隠蔽工作というスキルを使ってでたらめなステータスを表示させたんだ」


「そんな事が出来るのか……でも、それならあの腕は……もしかして」


 シャイナは俺のドラゴニカが何か違うとなんとなく気付いていた。そして、ネコの中にアルマが居ると知ってしまった。

 そこまで辿り着けば、俺のあの腕の秘密に辿りつく事も出来るだろう。


「そのもしかして、だよ。俺の中には六竜イルヴァリースが居る。試験の時は腕を竜化……イルヴァリースの力を顕現させたって所かな」


「……はは、ミナトが、六竜イルヴァリース様……どうりで強いわけだ。もしかしてあのティアとラムも……?」


「いや、あいつらはただ単に人間として規格外におかしいだけだよ。ティアは勇者だし、ラムはとんでもないスキルを持った賢者だ」


「そうだった! ドラゴニカの件で完全に忘れていた……ティアの勇者って、あれは……」


 あー、どうしたもんかな。

 ティアについては説明がもっとややこしい。

 過去の勇者が現代に生き返りました、じゃ説明になってないし理解できないだろうなぁ。


「あいつも過去の記憶があるんだよ。あいつの場合は前世が……魔王を倒した勇者ティリスティアその人ってだけだ」


 うん、これなら齟齬なく納得できるんじゃないか?

『前世が勇者ってだけでも大概だけどねぇ……』


「六竜が二人……それに勇者……幼いのにとてつもない力を秘めた賢者……君達のパーティは、凄いな」


「偶然だよ。なんだかんだ成り行きで集まっちまっただけさ」


「六竜が二人も……私にはそれだけで何がなんだかわからない状態だよ」


「地元にはゲオルさんっていう六竜のおじさんと~なんでしたっけ? シヴァルド? シルヴァ? とかいう六竜のお兄さんもいますよぉ?」


 ネコが口元に人差し指を当てながら適当な説明をした。

 それは別に言わなくてもよかったんじゃないの……?


「六竜が、四人……!? でもその者らは男性なのだな。……確か地元にはミナトの帰りを待つ女の子が沢山いるってユイシスが……もしかしてその子達も特別な子達なのか?」


 なんだかシャイナが不安そうに上目遣いで身を乗り出してきた。

 表情と行動が一致してないんだが?


 こいつは何を聞きたいんだ?


「いや、そうじゃないよ。人間として普通に強い奴らは結構いるけどな」


「そうか、それならまだ私も……」


 だからどういう事?

『君は女心が分かってないのよ』


 だからどういう事だってばよ。


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