第282話:未知との遭遇。
「結局俺に話っていうのはステータス関連の確認だったのか?」
ジンバが気にしていたのはネコのレベルと強さが釣り合ってなかった事だろう。
「ああ、その事か……ジンバ隊長が確認しなければと言っていたのはユイシスの強さについて、だけだよ」
やっぱり俺の方はシャイナが個人的に気になっただけか。
「とりあえずジンバ隊長にはユイシスが竜の血を引いている話をして納得してもらうよ」
「悪いな。それで頼むわ」
話が一通り終わった頃、ドアの向こうからルークの声が響き渡った。
「ミナトさん! 入って大丈夫ですか!? すいません入りますよ!?」
声の勢いとは逆にそろりとドアが開かれる。
「良かった、取込み中じゃなかった……」
「取り込み中ってお前な……って、慌ててたみたいだけどどうかしたのか?」
「そ、そそそそうでした! 皆さん急いで外に来て下さい! 魔物です!」
……魔物? このタイミングでか?
こんな時シャイナの動きはとても迅速だった。
すぐに立ち上がり「先に行く!」と言って駆けだしてしまう。
「俺達も後を追おう。ルーク、敵の数と魔物が現れた場所は?」
「そ、それが……数はおそらく五十前後、場所は……」
ルークはそこまで言って一瞬言葉に詰まり、息を呑んで改めて呟く。
「この、訓練場です」
「……なんだって?」
訓練場に直接魔物が現れたのか? 五十体も?
「既に外では防衛隊員が交戦中です。宿舎への侵入も時間の問題でしょう」
「分かった。じゃあすぐに俺達も出るぞ! ってうわぁっ!!」
部屋を飛び出した瞬間、目の前に通路を塞ぐほどのサイズの魔物が居て驚いたが、自然と体が動いてくれた。
魔物の振り下ろした拳をかわし、腕を駆け上がる形で脳天に剣を振り下ろし、念のために空中で回し蹴り。頭部を弾き飛ばす。
「みぎゃっ!?」
俺が蹴り飛ばした魔物の頭部がネコの顔面を直撃して、どちゃりと床に落ちる。
「な、なんですかぁこれぇ~っ!」
どうやらトロール系モンスターだったらしく、頭部もなかなかの大きさだ。
自分でやっておいてなんだけどかなりグロい状態で、割れた脳天がネコの顔面を挟み込むようにクリーンヒットしたらしい。
「うぇ……」
「ご、ごしゅじん……その反応はあんまりですぅ……」
「お前はもういいから顔洗って来い。こっちはなんとかしとくから」
『ネコちゃんが一人の時に狙われたらどうするの? この感じだともう中にも魔物入ってきてるわよ?』
ネコなら殺したって死にゃしないだろ。
『……まぁアルマがついてるしね』
「そういう事だからルークとネコは待機してろ。とりあえず片付けてくるわ」
「ま、待って下さいよぅ!」
ネコが何か言っていたがとりあえず今はそれどころじゃないので無視して通路を走る。
すると正面からシャイナが走ってきた。
「ミナト! すまない。先ほど中に魔物の侵入を許してしまった……!」
「あのでっかい奴なら始末したから安心しろ。それより外の様子はどうだ?」
「今は防衛隊員が討伐にあたっている。魔物事態そこまで強力そうなのはいないのだが何せ数が多いので押され気味だ。怪我人も出ている」
……魔物の戦力自体はそうでもなさそうだな。それならなんとかなるだろう。
「シャイナ、怪我人は宿舎の中へ。ルークとネコが居るから見付けて声をかけろ。すぐ治してくれるさ」
「あ、あぁ助かる! 皆に伝えてくる!」
急いで外に駆けだすシャイナだが、俺も向かう方向は同じなので一緒に宿舎の外へ。
「うおっ、こりゃ想像以上だな……ルークの奴何が五十前後、だよ……百体近く居るだろこれ……」
ルークが見た時はここまで多くなかった、という可能性もあるが……。
しかし誰が何の目的で……?
俺がそんな考え事をしている間にもシャイナは怪我人の移送を指揮している。
ちゃんと副隊長してるじゃないか。
敵の数は多いが、確かにあまり強そうなのは居ない。先ほどのトロールが一番強敵だったのではないかというくらいだった。
そんな時だ。
背筋にぞわりと、尋常じゃない寒気を感じた。
宿舎の上空……いや、屋上か?
そこに、何かが居る。
俺が確かめに行こうとした時、既に屋上から気配は消えていた。
その代わり……。
「ふむ、一番邪魔なのはお前だな」
おそらく先ほどの気配の主が訓練場へ降り立ち、手に持った禍々しい剣を振り上げていた。
「シャイナ!! 後ろだ!!」
この場で指揮をとっている人物を見極め、即座にそれを潰しに来やがった。
シャイナは驚き、振り返る。
俺も急いでそちらに向かうが、到底間に合わない。
「クソっ!!」
しかし、その禍々しい剣が振り下ろされる事はなかった。
俺に気付いたそいつはぴょんと空に飛び、「これは想定外だ。後で文句の一つも言ってやらないとな……」と、意味不明な言葉を呟いた後、消えた。
サラっと身体が溶けるような、細かい砂になったかのような消え方だった。
「ミナト! あれは、なんだったのだ? とても……とても恐ろしかった。ミナトの試験の時か、それ以上の……確実な死を感じた」
シャイナが焦点の合わない目でこちらを向き、どっと汗を噴き出して震えている。
その他の隊員は気付いていないようだが、シャイナの感じたものは正しい。
アレがなんだったのか、俺が聞きたいくらいだ。
なにせさっきから俺も汗がとまらん。
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