第280話:俺何かやっちゃいました?


「……え? ……え、え??」


 まだ頭の追い付いていないシャイナは俺に説明を求めるように潤んだ瞳を向けてくるがすまん。俺に出来る事は無い。


 ただ首を横に振るだけだった。


「頭を垂れろと言っているのが聞こえませんの?」


「えっ、ゆい、しす……?」


「はぁ……物分かりが悪い人間ですわね。私は六竜のアルマ。今は訳あってこの身体と共存しておりますの」


 シャイナの顔が青くなっていく。


「ろっ、ろ、ろろろ六竜!?」


「分かったのならすべき事があるのでは?」


「ははーっ!!」


 シャイナは顔面を床に打ち付けるほど勢いよく頭を下げた。


「ふむ、よろしいですわ。やはり人間たる者超越した存在には頭を垂れるべきなのです」


「アルマ……そのくらいにしといてやってくれよシャイナが可哀想だろ」


「……仕方ありませんわねぇ? ちょっと冗談が過ぎたでしょうか? はい、ではもう顔を上げてよろしいですわよ」


 アルマの許可が出てもなおシャイナは顔面を床に付けたまま動かない。


「ろ、ろろ六竜のアルマ様というのは……その……」


「残念だけど本当だよ。でもこいつはちょっと悪ふざけが好きなだけだから気にしなくていい」


「あらミナト。随分なお言葉ですわね……貴女ももう少し私を敬ってくれてもいいんですわよ?」


 よく言うぜ。


「昔は六竜ってのを敬い恐れる気持ちもあったけどさぁ……今が今なんでな」


「ふむ、それもそうですわね。ほらシャイナ、いつまで地面とキスしてますの? 早く椅子に座りなさい」


「はっ、ハイっ!!」


 シュバッ! とシャイナが目にもとまらぬ速さで椅子に座り、まるで会社の面接のように姿勢を正す。


「楽にしていいですわよ?」


「……み、ミナト。頼む、説明してくれ。私の心臓がはじけ飛んでしまいそうだ……」


「さっき言った通りだよ。いろんな事情があってネコの中には六竜のアルマが居る。でもそれだけだ。悪い奴じゃないから安心していい」


「私の威厳を損ねるような言い方はちょっと気に入りませんが……まぁいいですわ。面白い物も見れましたし私はここらで引きましょう」


 そう言うやいなやアルマは帰っていった。

 本当に何がしたいんだあいつ……面倒な事を増やしやがって。


 人がせっかく、ネコはドラゴンの血を引いてるから強いんだ、って事にしようとしたのに。


「えへへ、びっくりしましたかぁ?」


 そしてネコがあっけらかんとシャイナに声をかけるもんだからシャイナの情緒が追い付いてない。


「ゆ、ユイシスか……? アルマ様は……?」


「アルマは今私の中で笑い転げてますよぅ」


 ほんとにこいつらはいろんな意味でいいコンビになったよまったく。


「成り行き上もう仕方ないが、ネコは竜の血を引いている。そういう事にしておいてくれ」


「しておいてくれ、という事は……少なくとも六竜アルマ……様がユイシスの中に居るのは確かなんだな」


「残念ながらな。ちなみにこの前試験で暴れたのもアルマだよ」


 シャイナは引きつった作り笑いをして、「な、なるほど、なー」などという声を絞り出した。


「私、今とんでもない事に気が付いてしまった……」


「どうした?」


「じ、実は……これは、まだジンバ隊長も知らない事なのだが……その、ミナトのステータスに、不審な点が……」


 う、まさか隠蔽スキルを見破ったのか? しかし隠蔽を直接見破るならまだしも、隠蔽スキルによって出力されたステータスから違和感を見つけるってどういう事だよ。


「……何が不審だって?」


「……これ以上踏み込まない方がいいと、私の本能が告げている」


「……賢明だな」


 ここで引いておくのがこの子の為だとは思う。

 しかし、人の好奇心というのはそこで止まれないもんなんだよなぁ。


「今のミナトの発言で確信した。ミナト、あのステータスはどこからどこまでが本当なんだ?」


「はぁ……今更ごまかしてもしょうがないし知りたいなら教えてやるけどよ、それを誰かに漏らすような事があれば俺はお前の味方ではいられないかもしれない。それを理解した上でなら話してやるよ」


「……それなら私に迷いは無い。六竜アルマ……様が絡んでいる状況で私が不義理をはたらけば死が待っているだろうし、何より……私はミナトと敵対したくない」


『彼女も既に立派なミナトガールズねぇ』

 その不名誉な集団に彼女を混ぜないでやってくれよ……。


「分かった。ちなみになんだがシャイナはステータスの何が気になったんだ? 完全に隠蔽出来ていたと思うが」


「やはりアレは嘘の情報だったのか。私が疑問に思ったのはステータスの方じゃなくて、正確にはミナト本人だよ」


 俺? 俺何かやっちゃいました?


「試験の時……腕がドラゴンのようになっただろう? 最初は全然気にしてなかったんだ。でも……スキル表記を見てドラゴニカって……」


「それの何がおかしかった? 別にドラゴニカを所有していればあれくらい……」


「違うんだ」


 ぴしゃりと、シャイナは俺の言葉を否定した。


「私は……ドラゴニカというスキルをこの眼で見た事がある」


「……なんだって? 伝説級のスキルだぞ? 本当に持っている奴がいたのか?」


 まずいな。もしそれが本当で、この国にドラゴニカのスキル保持者がいるなら試験での俺の行動は完全に異質な物に感じるだろう。


「違うんだ。……私が見た事があるのは……その、えっと……」


 なんだか歯切れが悪い。何かを隠そうとしているようには見えないんだが……。


「こんな事を言って変な女だと思わないでほしいんだが……」


「大丈夫だ。言ってみな」


「うん……実は、私……身に覚えのない記憶があって……」


 ……なんだって?


「あ、あはは……頭おかしいよね。驚くのも分かるし、私もどうかしてると思う……でも、ふとした時に知らないはずの事を思い出したりするんだ」


『転生前の記憶ね』


 そうだろうな……。


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