第277話:天国と地獄。


「俺はもう防衛隊の隊員なんだからさ、でシャイナは副隊長だ。いわば俺の上官だぞ? 俺を上手く使えよ。絶対に危害は加えないし、危害は加えさせない」


 俺に言えるのはせいぜいそれくらいだ。泣いてる女子を甘い言葉で泣き止ませるとろくな事が無い。

 俺の人生で一番の失敗もそこから始まったんだから。


「……守ってくれるって、こと?」


「そう聞こえなかったか?」


「そ、そうか。そうだよな。私はお前の上官か、はは……本当ならミナトみたいな奴が上に立つべきなんだよな……」


 うわ、完全に自信喪失してるなめんどくせぇ……。


「馬鹿言うなよ。俺は人の上に立つようなタイプの人間じゃねぇんだって。人の上に立つ人間にはそういう資質が必要なんだよ。強さは関係ない」


「う、うむ……確かにジンバ隊長は隊長の鏡のような人物だが……」


「俺からしたら副隊長のあんたも変わんねぇよ。ジンバは人当たりが良すぎてナメられる可能性があるからな。お前が副隊長として傍に居る事でバランスがうまく取れてるんだと思うぞ」


『その彼女の威厳みたいなのを君が皆の前で粉々にしたんだけどね』

 それは言わないで。ややこしくなるから!


 シャイナはパァっと表情を明るくして「本当にそう思うか?」と身を乗り出してきた。


「お、おい近いって……」


「シャイナさん、お茶をお持ちしま……って、え、な、な、何をなさっておられるので……?」


 めちゃくちゃ間が悪くルークがお茶を持ってやってきた。


「ち、違うんだルーク、これには訳が……」


「まさかお二人がそんな……てっきりシャイナさんはジンバさんの事を慕っている物だと……いや、しかし女性同士で仲がいい、というのはおかしな事ではありませんよね」


「そ、そうだよ。女同士なんだからこれくらいの距離感当たり前だろ? ルークは考え過ぎなんだよ」


 俺が必死に言い訳してるのにシャイナはなんで何も言ってくれないのさ。


「お前からも何か言えよシャイナ!」


「……私と、ミナトが……そういうふうに見えたのだろうか……?」


「おいぃぃぃぃっ!?」


 なに顔赤くして俯いてんだ乙女か畜生め!


『また一人……君って人は性別女になってる癖にどうしてそんなに女ばっかりたらしこむのが上手なのかしら』


 それは男の時に発揮したい能力だったけどな!?

 そもそもママドラのせいで魅了スキルでも発動してるんじゃないのか!?


『なによ私のせいにする気? 自分のパラメーター見たって魅了スキルなんて無かったでしょうが!』


 だとしたら俺がこんなにモテるのおかしいだろ! 俺がこんなにモテる筈ないだろうが!


『知らないわよそんなの……なに? それってもしかして自慢? 自慢してるの?』


 違うってば……。


「ま、まさか本当にお二人はそういうご関係に? いや、この国では同性婚も認められていますしおかしくは無いのです。無いのですが驚いてしまって……」


「だから違うって!」


 ルークの奴人の話聞いてねぇな。


『むしろシャイナの話を聞いてるからこうなってるんじゃないの?』


 当のシャイナは顔を手で覆って絶賛乙女モード全開中。


「大丈夫です誰にも言いませんから。安心して下さい! はいこれシャイナさんのお茶です。私は少々席を外しておりますのでごゆっくり!」


 シャイナの前にお茶を置くと物凄い勢いでルークが去っていった。


「……お、おい、どうすんだよこれ」


「わ、私とそういう勘違いをされたのが、そんなに嫌だったか……?」


 ぐわっ!


『なにその効果音』

 ミナトは大ダメージを負った。

『だから何その説明』


 この卑怯者め……!


「嫌、な訳ないだろうが……」


 こいつ自分の破壊力理解してんのか?

 強き女子が顔赤くして涙溜めながらそんな事言い出したら否定できる訳ねぇだろ。

 そこで嫌に決まってるだろとか言える奴は男じゃねぇ。いや、人間じゃねぇ!

 俺今女だし人間でもないけど!


『……君も大概ちょろいわよね』


「ほんとか? ……そう、だな。ミナトが今まで言ってきた事は全部本当だった。君は嘘を付かないんだ。喜んでも……いい?」


「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 その上目遣いの照れ笑いがあまりに破壊力が高すぎて俺は理性を保っていられず頭を抱えてその場を転げ回った。


「ど、どどどうしたんだミナト!?」


「なんだか騒がしいですねぇ~? ごしゅじーん? どうかしたんですかぁ~?」


 俺が転げ回ってテーブルの足にがこんがこん頭を打ち付けていると、寝ぼけ眼を擦りながらネコが現れた。


「お、お前には関係、ない……ちょっとあっち行ってろ……」


「関係無くはないぞミナト! 前から気になっていたんだ。彼女はミナトの事をご主人と呼ぶな? それはどうしてだ? お前らはいったいどういう関係なんだ!?」


 横になったままの俺に跨って襟元掴まれぐいっと引き寄せられる。

 だから顔近いって……!


「ごしゅじんはぁ~私のごしゅじんですよぉ♪ 私はごしゅじんになんでもご奉仕してあげる為に一緒にいるんですぅ♪」


「黙れこの馬鹿ネコ!」


 お前も妙に意味ありげに身体くねらせながら爆弾発言ぶっこむんじゃねぇ!!


「そ、そうか……二人は既にそういう関係か……いや待てよ? ご主人、と言ったな。つまりは二人は主従関係。主とメイドとかそういうやつだな? だったら対等でもなんでもないではないか所詮は愛人! つまりはそういう事だな!?」


「いやそれも違うから!」


「私は本妻ですよぅ♪」


「てめぇは黙ってろ!!」


 ダメだ久しぶりの地獄のような展開に頭が付いて行かない誰か助けて!


『あーモテ男はつらいわねー』


 男、だったらよかったんだけどね!!!



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