第256話:修羅場のお話。


「やれやれ、仕方ないのう♪」


 ぼやきながらも、焼き肉が楽しみなのかラムも肉塊を魔法で持ち上げつつ自分も車椅子ごとふんわり宙に浮いて移動を開始した。


 自分を浮かせつつ他の何かも同時に操作するというのはかなり難しいらしく、魔法知識のある冒険者が驚いていた。


 俺は以前飛行系の魔法を自分で覚えようとした事があるが、加減が難しくて断念した経験があるのでラムの凄さはよく分かる。

 勿論記憶のスキルに頼れば飛ぶくらいできるが、自分だけの力だと制御が出来なかった。


 それにしてもネコの奴肉に目がくらんでラムをほっぽり出しやがって……。

 自分で飛べるとはいえ車椅子係をかって出たのはお前だろうよ。


 つまりは、ラムより肉。

 ネコの頭の中ではこうなっちまったんだろうな。


 日本ではラムも肉だけどさ。

 いや、この言い方はさすがにラムに失礼だった。


 そんな事を考えながら俺も肉運びを手伝う。

 というか細かく切った段階で俺がもう一度ストレージに放り込んでしまえばすぐに運べたんだけど……。

 最初は手伝うつもりなんか無かったからなぁ。


 でも肉を運びながら笑っているラムやネコを見る限り、こういうのも悪くないかなと思う。


 その後はギルド所有の倉庫にいろいろ運び込んだ後、ギルド所属の冒険者だけでなく民衆を巻き込んでの焼き肉パーティが始まった。

 夜遅くまでどんちゃん騒ぎをしていたけれど途中でラムが寝てしまったのでそれを合図に俺達は切り上げる事にした。


 ホールで家に戻り、眠っているラムを部屋へ運んでベッドに寝かせる。


 ネコはたらふく焼き肉を食べてご満悦のようで、部屋から物凄い爆音のいびきが聞こえてくる。


 俺も部屋へ引き上げしばらくは眠ろうとしていたんだけどネコのいびきがあまりにうるさいので寝られなくなってしまった。

 夜風にでも当たろうかと外へ出ると、暗闇の中にうっすらと人影が見える。


「どうしたんだこんな夜中に」


「うわっ、びっくりした……ミナトか~こんな夜中に散歩なんて美容に悪いんだゾ♪」


 ティアは地面にあぐらをかいてぼけーっとしていた。


「それを言うならこんな時間に起きてるお前だって同じだろうが」


「えへへ~確かにそうかもね♪ でもそのおかげでミナトと二人っきりになれたよ?」


 この女はほんとに……。

 俺への好意を隠そうとしないってのはネコと同じだけど種類が全然違うんだよなぁ。


「で、結局一人で何やってたんだ?」


「えっとね……昨日の夜中に部屋の窓から見て綺麗だったから……」


 ティアがそう言って辺りを見渡す。


 綺麗? こんな所の何が綺麗だって言うんだろう?


「今日はダメみたいだね。私がここに居るからダメなのかなぁ」


「なんのこっちゃ」


「まぁいいや。ミナトはどうしたの? 私と二人きりになりたかったのかな?」


 ティアは意地悪そうににっこりと笑う。

 でも悔しいがその横顔はとても綺麗だった。


「……まぁ、そんなところかな。本当は夜風に当たりに来たら偶然お前が居ただけだけど」


「ねぇ、そんなところかな、の後必要?」


 彼女はぷーっとほっぺたを膨らませて俺を睨む。

 こういう軽口がきける相手ってのはありがたい。

 ネコはネコで楽だけど大体変な方向に話を盛って行かれるからなぁ。


「そういえばさ、ミナトって転生してるんだよね? ジュディア以外にも沢山……」


「ん、そうだな。神様って奴が言うには百万回死んでるらしいぜ。俺の中には百万人分の人生が眠ってる。それをママドラが上手い事使ってくれてるからお前らと一緒に戦えてるって訳だ」


 ティアは自分から聞いておいて「ふーん」と興味なさそうな返事。

 なんだよもう少し食いついてくれたっていいだろうが。こっちだってたまには前世の事とか話す相手が欲しかったのに。


「私にもあるのかな、前世ってやつ」


 急にいつもと雰囲気の違う大人しい声色になったかと思えば伏し目がちで憂鬱そうな表情。


「どうした? お前にそういう表情は似合わないぞ?」


「……」


「何を悩んでるのか知らないけどさ、きっと誰にだって前世はあるんだよ。覚えてるか覚えてないかって違いがあるだけでさ」


「私はさ、過去の亡霊だけど、新しい命として生まれたって感じがゼロなんだよね。ほら、勇者ティリスティアとしてそのまま蘇っちゃったじゃない? だからだと思うんだけど」


 こいつなりにいろいろ考えてるのかもしれないけれど、それがそんなに問題なんだろうか?


「別にいいんじゃねぇの? 俺だっていろんな記憶を持ってやり直しになってるけどミナト・ブルーフェイズとして死んで、ミナト・ブルーフェイズとして生き返ったんだからさ。今回に限っては転生じゃないんだ」


「そっか……仲間に殺されちゃって生き返ったんだっけ。それならある意味私と一緒なんだね」


 ……どういう意味で言ってる?

 死んで生き返ったって意味なら確かに俺とティアは同じだ。

 死んでから時間が経っているか、そうじゃないかの違いはあるけれど。


「実は私も最後は仲のいい人に殺されちゃったんだよね」


 俺にとってそれは結構な爆弾発言だった。


「……なんだって? 何がどうなってそうなったんだよ」


「いやぁ……女の子に片っ端から手を出してたらそのうちの一人から刺されちゃってさー」


 前言撤回。俺と同じでは無い。


「はは、お前らしいや」


「ひどくない? でも私としてはそこで殺されるのは仕方ないなって思ったんだ。死にたくはなかったけどさ、私だけを選んで! って言われて断っちゃったから」


 修羅場ってやつか……。女ってやっぱり怖い。


「いろんな子に手は出してたけど、私の心はセティの物だったからね。でもあっちからしたら裏切られた! ってなるのは当然でしょ? だから一回くらい刺されるのも仕方ないなって思ったの。で、避けずに受け止めて、抱きしめて許してもらおうと思ったのにさ、まさかいきなり心臓狙ってくるとは思わなかったんだゾ♪」


 そう言ってティアはケラケラと笑う。


 笑い事じゃねぇだろそれ……。


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