第255話:れっつぱーりぃ!
「……ふぅ、いい仕事したゾ♪ じゃあミナト、さっさとしまっちゃって。臭い」
こいつ……。
首と四肢を切断してドバドバ血が出てるじゃねぇかどうすんだこれ。
ストレージにしまうの俺なんだからもう少し気を使えよな……。
「だったら結界でくるんで入れちゃえば?」
「言われなくてもそうするよ!」
しかし酷い匂いだな……。
「さて、終わったようじゃしそろそろ帰るのじゃ」
ドラゴンの身体をまるごと結界で包み込んで閉じ込め、それごとストレージに放り込む。
「え、魔力はもう大丈夫なのか?」
「む? もう回復しておるので心配無用じゃ。そもそも元々行き帰りだけなら回復を待たずとも大丈夫なのじゃ」
回復を待つまでも無かったのか。頼もしい限りである。
「では街の入り口あたりに戻るのじゃ」
ちゃんとドラゴンを取り出す時の事も考えてくれているあたり賢い可愛い。
光に包まれ、俺達は一瞬で街の前まで戻ってきた。
「ネコ、ギルド言ってニーム呼んできてくれ」
「うにゃっ! りょーかいですぅ♪」
何も無い所で躓きそうになりながらもネコがギルドへ走る。
別にそんなに急がなくったっていいのに。
しばらくすると、ネコがぞろぞろと大群を率いて帰ってきた。
ニームだけで十分なのに……物珍しさで奴等もついて来てしまったんだろう。
「あ、あの……先ほど出発されたばかりですよね……?」
「ん? ああ、でもほらちゃんと討伐してきたぜ?」
訝し気な顔をしているニームに声をかけ、街の入り口脇にクレイジードラゴンの遺体を取り出す。
「ひっ……」
クレイジードラゴンを包んでいた結界を解くと、一気にむわっと嫌な臭いが広がった。
「マジかよ……」
「本当に倒してきやがった」
他の冒険者達も興味津々でドラゴンを観察している。
「た、確かに……では後はこちらで解体を……」
「それって結構大変だったりするか?」
「え、えぇ、皮膚もとても硬いですし半日くらいはかかるかと思います」
「そっか。ティア、こいつの皮剥いでやれよ」
「えー、めんどいなぁ。まぁやれって言うならやるけど、ねっ!」
ぶつぶつ文句言いながらもティアが目にもとまらぬ速さで次々に肉と皮膚を切り離していく。
こういう細かい作業も出来るあたり力だけのゴリ押し女じゃないのが分かる。
五分とかからず見事に皮は剥がされ、意外と綺麗な肉の塊になった。
「ありがとうございます! 凄いです! その皮膚も防具に加工できるのでこちらで引き取らせて頂きますね!」
ニームはティアの手際の良さを見てやっと実感が湧いたらしく笑顔になった。
確かにいくらレベルやスキルなんかを知った所で実際に目にしてみないと分からないもんかもしれないな。
それにしても血の臭いが酷いな……。
『ゲオル曰くそれが病みつきになるんだって』
さすがにその食の趣味は理解できない……。
『肉自体は意外とクセがなくてうま味の塊だって言ってたわよ』
……ちょっと気になるじゃねぇかよ。
しかしこれじゃ住民から苦情がくるかもしれないし少し手を打っておくか。
俺は引力魔法でドラゴンの血液のみを一か所に集めた。
「これはどうする? 血も必要なのか?」
「勿論です! 有難く使わせてもらいます!」
ニームが言うには乾燥させて粉末にする事で魔物避けのアイテムを作れるらしい。
ママドラが住んでる洞窟……俺が落とされたあの場所へ向かう際にアドルフが撒いていたような魔物避けに加工されるのだろう。
だったらもう少し手伝ってやるか。
集めた血液を結界で包み込んで、その中に手を突っ込み風魔法でかき混ぜる。
ラムのアドバイスで熱も加えた方が早いとの事だったので手伝ってもらい、一気に乾燥させた。
運び辛いので再びそれを一か所に集めて球体状の塊に加工しておいた。
「……す、すご……これを削ればいつでも魔物避けを精製可能ですよ! ミナトさん! 貴女天才ですね!!」
「いや、みんなが居てそれぞれ力を貸してくれるから出来るんだよ」
ぴょんぴょん飛び跳ねるニームにカッコいい返事をしたつもりだったのにもうこっちの話なんか聞いてない。
「これは凄いですよ……!」
とか言って固めた血の表面を撫でたりしてる。
臭いを嗅いで「うっ……これは効きますねぇ……」などと呟きながらにんまり顔だった。
「ティアさーん! もし出来ればなんですけどそのお肉を運べるサイズに切り分けてもらってもいいでしょうかー!?」
「えっ? 別にいいけど……」
急にテンションの上がったニームがティアにそんな要望を飛ばし、若干引きながらもティアはドラゴン肉も程よいサイズに切り分けた。
さらりと骨も切断してしまうあたり大したものだ。
「これは討伐報酬以外に移送代と加工代も追加しなければいけませんね! かなり高額になるので今日すぐという訳にはいきませんが大丈夫でしょうか? 明日までには用意しますので! 手続きの方は勿論こっちで全部やっておきます!」
「ああ、問題無いよ。じゃあ俺達はまた明日ギルドに顔を出すから後の事は頼んだぜ」
「はい♪ お安い御用です! ちょうど周りに御手伝いさんも沢山いる事ですし問題ありません♪」
その言葉を聞いて荒くれ冒険者たちがそろりと街の中へ逃げようとしたが、ニームは勿論見逃さない。
「ほらそこ! 逃げない! 後でドラゴン焼肉パーティやりますから手伝いなさいっ!」
ドラゴン焼肉パーティという言葉に反応したのは冒険者たちだけではなかった。
「ふみゃーっ!? やきにくっ!?」
「ふむ、ドラゴンとはどんな味がするのかのう?」
「血はくっさいけど美味いんだゾ♪」
女性陣一同がこちらに何かを訴えかけるような視線を飛ばしてくる。
「……はぁ、仕方ないなぁ……」
俺はてきぱきと支持を飛ばすニームを捕まえて、前言撤回とお願いをする羽目になった。
「なぁ、俺達も運ぶの手伝うからドラゴン焼肉に同席してもいいか? あいつらが食いたそうにしてるからさ」
『君だって気になってたくせに』
否定はしないが、こうなっちまうと食うまでネコが騒ぎ続けるからな。
「勿論ですよ♪ では本日も宴会ですねっ♪」
その後、張り切りまくったネコが肉塊を幾つも軽々と持ち上げてスキップしながら運ぶのを見て冒険者たちが絶句したのは言うまでも無い。
「うにゃっにゃっにゃ~♪ やきにくやきにくれっつぱーりぃ~っ♪」
本当にあいつは食い物さえあれば幸せそうだなぁ。ちょっと羨ましいくらいだ。
『君だってその気になればたくさん食べれるじゃない。さっさと食べて幸せになればいいのよ。ほら今回だってひーふーみー』
分かった分かった。頼むから黙っとれ。
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