第249話:酒場を兼ねたギルドに居る奴は大抵ガラが悪い。


 翌日。


 ネコ、ティア、ラムを連れておやじの肉屋へ顔を出すと、本日臨時休業との看板がかかっていた。


 ここも懐かしいな。当時よりもいろんな店が増えて人通りも増えているような気がする。


「おやじー、来たぞー」


 店の外から声をかけると、ガタガタどんがらがっしゃん! という音が聞こえた後、「ちょっと待っててくれ!」とおやじの声が返ってくる。


 しばらく待っていると、慌てて着替えたのか服も若干乱れてるし頭もボサボサのおやじが店の脇にあるドアから現れた。


「お前、寝てたのか?」


「しょうがねぇだろ夜遅くまでいろいろと裏工作をだな……」


 俺達がシュマル国民である、という偽装の為に何かしてくれていたらしい。


「助かるけどあんまり自分の立場が悪くなるような事するなよ?」


「大丈夫、そんなヘマはしねぇよ。それよりこっちの準備は出来てるからこのままギルドまで行くぞ」


 おやじの案内でギルドに向かう間、おやじの視線がチラチラとラムに向いている事に気付く。


 ギルドに登録って話なのに車椅子少女を連れてるなんて大丈夫なのだろうか、ってとこだろう。


「その子の事なら心配いらねぇよ。そのままでもめちゃくちゃ強いからな」


「なんじゃ? 儂の話か?」


 気になったラムが口を出してきたが苦笑いして誤魔化しつつ、おやじにはもう一度「信じてくれていいぞ」と伝える。


「しかしなぁ……いや、お前さんがそう言うなら心配は要らないんだろうな」


 俺とおやじの会話内容を何となく察したのか、背後からラムの「儂はさいきょーじゃぞ♪」という微笑ましい声が飛んできた。


「そりゃ頼もしいな。……さて、あの角を曲がった所にレイバン出張所があるぞ」


 おやじの後をついて雑貨屋の角を曲がると、確かにギルドがあった。

 どうやら普段は酒場として営業しているらしい。


「前こんなのあったっけ?」


「いや、お前さんが居た頃は確かまだ普通の酒場だったかな」


 やっぱりそうか……。

 こんなのがあったらいくらなんでも覚えてるだろうなとは思ったんだよ。


「この街に当時ギルドは無かったからな。むしろあの時の魔物襲撃事件からこの街にもギルドの支部が出来たんだ」


 あの時は街を守る警備兵が少し居たくらいだったからな……。

 確かシュマルは国が管轄する軍隊は持ってないんだったか? よく覚えてないが、どちらにせよギルドを作って冒険者を常駐させ、民間に守らせるシステムをとったんだろう。


「さ、入ろうぜ。ついて来な」


 ギルド兼酒場の入り口をくぐると、そこはツーンとしたアルコールの匂いが鼻を突く。

 ラムは意外と平気そうだったが、ネコは嗅覚が鋭いせいか梅干しみたいな顔をしていた。


 ティアはあちこちで飲まれている酒に興味津々で「いいなぁ~♪」なんて言ってたがまずは登録だ。


 酒場の奥にはカウンターが二つあり、一つは酒場用のカウンター、もう一つはギルド用らしい。


「あらバイドさんがこんな時間に来るなんて珍しいですね。いつもは夜なのに」


 受付嬢がにこやかにおやじに声をかける。


「ニームちゃん、今日は残念ながら飲みに来たんじゃねぇんだ。昔馴染みがギルドに登録したいって言うからよ。登録してやってくんな」


「あ、そういう事でしたか♪ なら勿論構いませんがそちらのお嬢さん方が昔馴染み、なんですか?」


 ニームと呼ばれた受付嬢が訝し気な視線を送ってくる。

 不思議がられても仕方ないとは思う。今回男性ゼロだしなぁ。


 あちこちから嘲笑の声が飛び交った。


 酒場にいる飲んだくれの荒くれ野郎共はいつだってこうなんだよなぁ。

 俺の嫌いな人種だ。


「おいおいここはいつから娼館になったんだぁ?」

「馬鹿だなぁ娼館にしちゃ若すぎるだろうがよ」

「でも俺はあれくらいがちょうど……」

「おま、ロリコンだったのか」


「「「ぎゃっはっはっは!」」」


 ダリルの酒場も基本的に治安が良い方じゃなかったが、ここまで下品な馬鹿共ばかりじゃなかったぞ。


「す、すいません女性冒険者が珍しいので、みんな気になってるだけだと思います。気を悪くしないで下さい」


 ニームが申し訳なさそうに頭を下げるが、荒くれの一人が俺達に更に絡んできた。


「ニームちゃん頭下げる必要なんかないぜ? ここはギルドだ、お嬢ちゃんたちみたいなのが遊び感覚で来ると怪我するからよう、上級冒険者の俺達がいろいろ面倒みてやろうか?」


 重そうな鎧を見に纏った顔中傷だらけの戦士が馴れ馴れしく俺の肩に手を置く。

「そしたらあっちの面倒はみてくれよな! ぎゃはっ」


「うっせー、息がくせぇから近寄るんじゃねぇよ」


 俺の言葉に男が固まり、周りからはその男をからかうヤジが飛び交った。


「このアマ……新入りがなんだその態度はよぉ……痛い目みねぇとわかんねぇのか!? 礼儀ってやつを教えてやるよ」


「オーガスさん! 落ち着いて下さい! と、とにかくまずは登録を済ませましょう? ね?」


 この鎧野郎はオーガスという名前らしい。どうでもいいけど。

 ニームさんが必死になだめたのと、周りが「やめとめやめとけフラれた腹いせは情けねーぞ!」とか笑うので、オーガスは顔を真っ赤にしながら空いている椅子を蹴り飛ばし、自分の席に戻った。


 あのまま殴り掛かって来てくれたら分かりやすく実力差ってのを理解させてやったのに。




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