第248話:違いねぇ。


「ギルドに登録って……なんか意味あるのか?」


 俺も元々ダリル王国のギルドに所属はしていたが、基本的にアドルフが自分で仕事を取ってきていたのでギルド経由の仕事はほとんどした事が無い。


 レベルさえ規定値以上なら勝手に肩書は上がっていくし、仕事が取れるならギルドによる仲介なんて必要無いってのがダリルでの一般常識だった。


 多分ギルドを通しての仕事を受けると成否で評判に大きく関わるからアドルフはそういうのが嫌いだったんだろう。

 できるだけ依頼主が大事だと思っていて、実際は大した事無いっていう仕事が一番ねらい目だと言っていた事がある。


 依頼主が大事だと思っていればいるほど報酬を高くふんだくれるからだろう。

 今思えば悪知恵が働くというかろくでなしというか……。


 そんなあいつでもちゃんと実力はあったのが尚更恨めしい。

 もう終わった事だが……。


 一回死んでからは特にギルドとは縁の無い人間になっちまったからなぁ。

『一回死んでなんやかんやで人間じゃなくなっちゃったんだけどね♪』


「一応シュマルに居住しているのが大前提だが、お前さんは元々ここにしばらく住んでいた経歴があるし他の連中の事も俺の方でなんとかしてやる」


「ギルドに登録してどうするんだ? 俺達に仕事でもしろってか?」


「その通りだ。レベル85なんて上級どころか超級冒険者だ。この国にだって過去二人しかいねぇらしい。間違いなく国中に噂が広まるぜ」


 あまり目立ちたくはないんだが……この際仕方ないか。


「それで、噂が広まるとどうなる?」


「話題をかっさらって出来る限り達成困難な仕事をこなして……」


「だからそれをこなして名を売る事にどういう意味があるんだ?」


 知りたいのはそこなのだが、おやじは俺のレベルを聞いて興奮してしまったらしくもったいつけて話すようになった。


「ふふ、簡単な話だ。お偉いさんから声がかかるのさ」


「はぁ? お偉いさんが自前の傭兵団でも作ってんのか?」


 何処に対する戦力なんだそれは。


「当たらずとも遠からずってやつだな。上の連中は国内で有能な奴等をかき集めてるって話だ。何の為なのかは俺も知らんが、この国の中枢に近付くには一番手っ取り早い」


 なるほどなぁ。そっから先は有名になってから考えろ、って事か。


「とにかく、いろいろ裏工作はしといてやるからその気になったら家に来な。ギルドのレイバン出張所登録所まで案内してやるからよ」


「それなら明日にでも顔を出すよ。今日はこの懐かしの我が家でのんびりさせてもらうさ」


「……快適とは思えんがなぁ」


 おやじは家の中をぐるりと見回してそんなコメントを投げてきた。失礼な奴め。


「思い出補正、ってもんがあるのさ」


「そうか。じゃあ俺は帰るぜ、また明日な」


 一緒に外にでて見送ろうとした時、おやじが振り返って「そうそう大事な事忘れてた」と俺を手招く。


「俺が協力するのはギルドに登録するまでだからな?」


「分かってる。あんたの立場や暮らしを脅かす気は無いから安心してくれよ」


 そう言うとおやじは安心したのか軽く微笑んで「すまねぇな」と呟く。


「俺にもこの地に愛着がわいちまってるからよ。かみさんと息子の眠る地から離れたかねぇんだ」


「……」


「そんな顔するな。本当にロイドの件はお前さんのせいじゃねぇ。むしろ街を守ってくれたじゃないか。感謝してるぜ」


 あの時の俺は、大神殿の時と同じくママドラの力を失っていた。

 俺一人の時には必ず何かを失っている。


「……ついでに、この国も救ってくれよ」


「いきなり無茶言いやがって」


「そりゃお互い様だろ?」


「「違いねぇ」」


 俺達は再び顔を合わせて笑った。


 辛い過去を振り切るように。

 辛い思い出より良い思い出を大切にしたい。


 俺達が今こうして再会したのも何かしらの意味があるのだと、おやじはそう言っている気がした。


 最後に、とおやじは全員のフルネームを聞いて帰っていった。


 その背中を眺めながら思う。

 約束はできねぇけど俺だってシュマルを滅ぼしたくなんてない。

 敵に回すのはもっと小さな範囲の奴等だけでいい。

 無駄な被害を出さない為にも。

 ロイドみたいな悲しい死を迎える事になる奴が少しでも減るように。


 俺も出来る限りの事はさせてもらうさ。


 その為にもまずはギルドへ登録、か……。


 久しぶり過ぎて緊張してきた。


 生き返ってからは意図してギルドには近寄らないようにしてきたからな。

 当時の俺は常にアドルフの腰巾着みたいなもんだと思われていたし……いや、どちらかというと金魚の糞かもしれない。


 実力も無いのに将来有望な剣士であるアドルフとパーティを組んでいる事をいつも馬鹿にされていた。


 エリアルはそんな俺を慰めてくれてはいたが、実際実力が無かったのだから仕方ない。


 アドルフはそんな俺を見て笑ってたっけ。

 きっと見下す事が楽しかったんだろう。引き立て役なのは分かっていた。


 だからさぁ、なんでお前はあんな事したんだ?

 わざわざ俺なんて殺す価値無かっただろうが。


 本当にバカな男だったよ。

 俺なんかに復讐されてさ、エリアルを酷い目にあわせて……。


 もう会う事も無いが最近は思い出すと怒りよりも憐れみを感じる事が増えたよ。


『君がそれだけ強くなって、余裕が出てきたって事よ』


 そんな余裕は要らねぇなぁ。

 ムカつく奴の事はずっと恨んでいたいよ。


 その方がよっぽど気分が楽だからな。



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