第250話:おそろしい子……!


「ほれ、これがこいつらの居住証明書だ」


 おやじがニームになにやら紙切れを手渡す。

 それを用意する為に昨夜は遅くまで頑張ってくれていたらしい。


 偽造なのか、それとも何か裏ルートで本当に証明書を作らせたのか……。


「えっと……住所は……え、もしかしてあの丘の上にある小屋ですか? あそこは長く誰も住んでいないと……」


「このアオイって子が昔そこに住んでたんだよ。しばらくあちこち回ってたみたいだが先日帰ってきたんでな、またそこに住む事になってる」


 その話を聞いてニームの顔色が変わる。


「待って下さいバイドさん、あの家に住んでた方は確か以前この街が魔物に襲われた時にたった二人で街を守ってくれたと聞いてるんですが……」


「ああ、それはこのアオイと……そっちの子がやった事だ」


 おやじは俺とネコを顎で示した。

 本当はイリスなのだが、この場にいないので俺とネコという事にしたんだろう。


「そうだったんですね。えっと……皆様四姉妹なんですね」


 ちょっと驚いたが、確かに以前俺がここに居た時ネコは俺の妹って事になってたんだったか。

 おやじの裁量で俺達は四姉妹にされているらしい。

 俺、ティア、ネコ、ラムという順番らしい。


「あの時役所が半壊した騒ぎで書類が無くなっちまってたらしいから慌てて再発行してもらったんだ」


 そう言っておやじはこちらをチラリと見て笑う。


 なるほどね、あの事件の際俺達の情報は役所から紛失、改めて作り直した……という事にしておいた、って事だろう。


「そうですか……あの時は住民の三分の一程書類が失われて大変な騒ぎだったそうですからね。それにしても冒険者として実績の有る方だったのですね。本当に失礼しました」


 俺達のやり取りを聞いていた荒くれ共が少しざわついた。

 あの事件の事は皆話で聞いていただけらしいのでどの程度の魔物が押し寄せたのか詳しくは知らないらしい。

 だから勝手な事を言う奴も出て来るわけで。


「なんだよ街が消えるかもって騒ぎと聞いていたがこんな嬢ちゃん二人で対処できる程度の魔物だったのか」

「雑魚が五~六匹来ただけだったりしてな!」

「ぎゃはは!」


 お前らなんてあの時街に居たら死んでただろうよ。


「皆さん、街の救世主に失礼ですよ? ……ではステータスを確認しますので他の冒険者さんに見られないように別室へ行きましょうか」



 ニームがカウンターの奥にある扉へ案内しようとしてくれたが、俺はそれを断った。


「ここでいいさ。こいつらも俺達のステータス聞いた方が納得するだろ」


 噂になる為に目撃者がいた方が都合がいいしな。


「お前らもそれでいいか?」


 みんなが嫌だったらここで確認するのは俺だけにするつもりだったが、皆さほど気にしていないようだった。


「本当にいいんですね……? ではこちらの紙に血を一滴お願いします」


 そう言ってニームが小さな針のついた器具を出してきた。

 指を挟んで押し込むと針が刺さって小さな穴をあける。


「うにゃぁ……痛そうですぅ……」


 ネコが若干ぐずりながらも真っ先に動いた。

 血を一滴特殊な紙に垂らすと、文字が浮かび上がっていく。


「ありがとうございます。ではステータスを確認させて頂きますね」


 ニームがネコのステータスを読み上げる。

 そう言えば俺もみんなのステータスなんて初めて聞くので割と興味あるんだよな。


【ユイシス・ウィンザー・ニャンニャン

 レベル:18

 種族:半獣人

 職業:神官

 スキル:回復ブースト

 上位スキル:特に無し

 特殊スキル:聖母】



 名前とレベルで笑っていた奴等がスキルを聞いてざわつき出す。


「回復ブーストと聖母だって!?」

「な、なぁ嬢ちゃん、俺のパーティに入らねぇか!?」


「まだ登録作業中です! 勧誘は後にして下さい!」


 群がってきた野郎共をニームが制してくれた。


 回復ブーストはともかく聖母ってなんだ? ネコが聖母ってガラかよ。


『君にも分かるようにスキル学者の知識を引き出してあげましょう』

 お、助かる。


 えーっと、回復ブーストはそのままの意味で、回復魔法の効果が跳ね上がる。聖母は……生まれ持って与えられるレアスキルで回復だけじゃなく各種サポート魔法の効果にも強力な底上げが入る。

 滅多にみられない珍しいスキルだ。


 なんだよこいつ……アルマの力もあるだろうけれど元々かなり優秀じゃねぇか。

 なんか腹立つな……。


「じゃあ次は儂じゃな! 実はこういうのやってみたかったんじゃ♪」


「え、車椅子の貴女もギルドに? 勿論登録は自由ですが……」


 まぁ普通そう言いたくなるよな。俺もそうだったよ。


「心配いらないから続けてくれ」


 ラムが少しほっぺたを膨らませながら血を垂らし、わくわくしながら紙を覗き込む。


「オババ様は数字に頼るなと言うてステータス確認を禁じておったから儂も見た事ないんじゃ。楽しみじゃのう♪」


 エルフ特有の風習か何かだろうか? ステータスに頼らないで生きる術を磨くべし、的な感じだろう。


「はい、ありがとうございます……読み上げますね」


【キキトゥス・ララベル・ラムフォレスト

 レベル:58

 種族:ハイエルフ

 職業:賢者

 スキル:集中

 上位スキル:心の目

 特殊スキル:魔力の渦】



 レベルを聞いて再びざわついた奴等が、エルフと聞いて黙り、職業を聞いて顔を見合わせ、スキルを聞いて歓声をあげた。


 集中というのは魔法の効果に関わるスキルで、総じて効果が上がる。ネコの回復ブーストに似ているが、違う点は……集中、つまり魔法発動時にどれだけ時間をかけたかで相対的に威力が上がり続ける。

 ラムならじっくり時間をかけて練り上げれば低級魔法で街を消し飛ばすくらいの事は出来るかもしれない。


 そして上位スキル心の目。これはサポート系のスキルで、俺の魂の色を見る事が出来る力に似ている。

 相手の魔力量などを把握したり、敵の位置を索敵したり、魔力の出所をサーチしたりできるスキルだ。


 そして魔力の渦。

 持っている魔力が尽きても少し休めば再び魔力が無尽蔵にわいてくるという不可思議スキルである。

 遠距離からの一方的な攻撃なら集中と魔力の渦のコンボは脅威的だ。ほぼ無敵と言っても過言じゃない。


 ……ラム、おそろしい子。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る