第241話:情けない。
ラムはまだ子供だ。
いくら強くても、いくら強気でも、子供なんだ。
家族を殺されダンゲルとヨーキス、三人だけで今まで……。
それなのにこんな事になって。
ダンゲルもラムの事を守ろうとした。それは分っているが選んだ手段が最悪だった。
ヨーキスを犠牲にしてでも守ろうとした。
なんとかヨーキスは治ったようだが、ラムちゃん本人はこれから辛い人生になるだろう。
それは俺の力不足による物だ。
「なぁネコ」
「なんですかごしゅじん」
「俺……悔しいよ」
「……何があったのか、教えてくれますか?」
俺は、言葉に詰まりながらも、ここに来てから起きた事、ヨーキスやラム、そしてダンゲルの事、拠点を潰す為に多くの命を殺した事、そしてラムと二人で潜入した大神殿での事……その全てをネコに語った。
「……言いたくない事もあったでしょうね。でも話してくれてありがとうございます。ごしゅじん、よくがんばりましたね」
ネコが俺の頭を撫でる。
いつもなら振り払うところだが、今はそんな気分にもなれない。
「でも……俺がイリスについていてやれば……」
「ごしゅじんの話を聞く限りだと、ごしゅじんがここに残っていたら教祖を倒す事はできませんでしたし、イリスちゃんを連れていってたらラムちゃんやヨーキスさんが大司教二人を相手にしてたんですよ? ごしゅじんの選択は正しいです」
「なら、全員連れて行ってれば……」
「それはごしゅじんの力が封じられてしまった時に犠牲者が増えただけだと思います。ごしゅじんの判断は正しいです」
「俺にもっと力があればラムちゃんを……」
「ごしゅじんは力を封印されていても見事に敵を倒しました。だからラムちゃんもごしゅじんもここに生還できたんです。ごしゅじんは正しいです」
「でも、でも……結局帰ってくるのが間に合わずにイリスが……」
「確かにイリスちゃんがさらわれちゃったのは大変です。悲しいです。辛いです。……でも、その時ごしゅじんが選んだからこそヨーキスさんは治ったしラムちゃんも命を取り留めました。ごしゅじんは、辛い思いをしたでしょうけれど正しいです」
何を言っても、どれだけ俺が俺を否定しても、ネコはその全てを否定し、俺の全てを肯定してくれた。
俺は間違ってはいないと。
俺のやった事は正しかったのだと。
気休めだ。
本当に俺が全て正しかったのならこんな事になってはいない。
だけど、それでも……。
こんな情けない俺の全てを受け止めてくれた事に涙が止まらなかった。
「イリスをこんな所に連れて来なければ……」
そうだ。
その選択から全てが間違っていた。
「違いますよ?」
「……え?」
「イリスちゃんは自分から来たがっていたじゃないですか。ごしゅじんの力になりたくて、自分から志願したんです」
「だとしても、だ。俺がこんな所に連れて来なければこんな事には……」
「だったら他に誰が居たんです? もしかしたら敵の狙いが最初からイリスちゃんだったら? ごしゅじんが不在の街が襲われたかもしれませんよ?」
……確かにギャルンはイリスを狙っていた。
そもそも何故イリスをさらう?
いや、それはカオスリーヴァの娘だから……それに加えて何か特別な理由があったのかもしれない。
「もし街の方が狙われていたとしたら、強い人達が沢山守ってくれていますけどそれだけ住民も多いんです。きっと被害者が沢山出たと思います」
その場合でもギャルンはあの手この手で汚い手段を使いイリスを竜化させたかもしれない。
そうしたらもう俺達はあの街には居られないだろう。
だとしても、結果イリスが奪われてしまった事には変わりない。
……そもそもあの竜化はどういう訳だ?
なぜあんな事を。何か意味があったのか?
それにランガム大神殿を偶然破壊するなんて事があるだろうか?
もしかしてあの時のイリスはギャルンに攻撃対象を絞り込まれていたのでは?
二発ともほぼ大神殿の方角だった。
そしてあいつは言った。
既にやる事は終えていると。
……イリスをさらう事だけが目的だったのならばまだ途中段階だったはずだ。
つまり、それ以前に奴の目的があった。
ランガム教を滅ぼす事が目的、というのはしっくりこない。
あいつを神と崇める宗教を自ら破壊する意味が無い。
だとしたら……。
『私が死を与えた人々の魂は何者かに奪われました』
逢魔聖良の言葉がふと頭をよぎる。
死んだ者の魂を集めていた?
だとしたら、ランガム教徒十万もの命をかきあつめる為にてっとりばやくイリスを利用したのか……?
たら、れば、の話だが、もし俺やラムがランガム教徒を無差別に神殿ごとぶっ潰していたとしたらイリスに大量虐殺などさせずに済んだのかもしれない。
しかしなぜ今更そんな事を。今までランガム教を大きくしてきたのはこの時の為だったのか?
……どちらにせよイリスを制御不能、或いは正常な意識を奪ってさらう事、そして大量の魂を集める事が目的だったのならばこの結果は避けられなかっただろうが……。
おそらくガングの言っていた兵器もあの一撃で破壊されているだろう。
だとしたら俺のやる事はもうここには無い。
俺はいつまでもこんな所で下ばかり見つめている場合じゃない。
「ネコ」
「はい?」
「……ありがとな。もう、大丈夫だ」
「っ、……えへへ♪ だったらこのまま森の中でもうちょっと気持ちのいい慰め方をしてあげましょうかぁ?」
「この万年発情期ネコがっ!」
ばちこーん!
ネコの頭をぶっ叩く。
まったく、こんな奴に慰められるとは情けない。
「ぎにゃーっ! い、痛いですぅ……でも、これでいつものごしゅじんですね♪ お帰りなさい」
……きっとこれすらもこいつの優しさなのだ。
そんな事に気付いてしまうとは、こんな奴に心を揺さぶられてしまうとは。
……まったく情けない。
「ごしゅじん、なに笑ってるんですぅ?」
「うっせ。夜が明けたらみんなで街に戻るぞ。やらなきゃならん事は沢山あるからな! お前にも手伝ってもらうぞ」
「うにゃっ♪ しっかりがんばりますぅ!」
とか言いながらネコが肘から先を上下にシュッシュッと振る。
「……何を頑張る気だお前は」
「……ナニを?」
はぁ、まったくもって情けない。
情けない。
あぁ情けない。
情けない。
こんな奴が俺の救いになるなんて。
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