第237話:復讐者。


 逃げ場も逃げる手段も無いなら死ぬ気でやるしかない。


 俺が死んだら、なんて弱気な事を考えてしまったが俺はまだ死んではいない。



 諦めるな。覚悟を決めろ。


 死ぬ気でこいつを殺せ。



 ラムの仇を取る。

 俺のせいでこんな事になってしまったラムの仇を。

 絶対に殺す。


 やられたらやり返すのが俺の生き方だろう?

 俺にはそういう生き方がお似合いだ。


 なにせ俺は復讐者なんだから。



 俺に迫る触手の群れがスローモーションになる。


 ぶわりと、俺の身体に不思議な力が満ちていくのを感じた。


「……はは、なるほどね」


 なんて不便なスキルなんだ。


 職業:【リベンジャー】

 特殊スキル:【復讐】


 やっと意味が分かった。

 俺の謎の職業と特殊スキル。


 復讐心に満ちた時しか発動しないレアスキルって事かよ。


 追い込まれた時、何かを失ってから、発動させる事の出来る力。


「……クソみてぇな俺にぴったりのクソみてぇなスキルだよな。なぁキリーク、お前もそう思わないか?」


 迫る触手を全て切り刻み、問いかける。

 勿論呻くばかりで反応は無い。


 お前もかわいそうな奴だよな。ギャルンみたいな野郎に心酔しちまったせいで自分を失う羽目になっちまうなんてよ。


「……終わらせてやるよ」


 救いじゃない。

 俺が、てめぇを絶対に許せねぇから徹底的にぶち殺してぶち殺して殺し尽くしてやる。


 お前の死を想えるほど俺は出来た人間じゃねぇ。



【復讐】により全体的に強化された事を実感できた。何もかもが、記憶をフル活用した時と同じかそれ以上のパフォーマンス。


 ラムを床にゆっくりと寝かせ、強化された回復魔法をかけるが、それでも完全に回復させる事はおろか焼け石に水だった。それだけ今のラムが危険な状態だと言う事だろう。多少の効果はあるだろうが、早くネコに診せないと。


 彼女の周りに結界を張り、再びキリークと対峙する。


「不思議ともうお前なんかに負ける気がしねぇよ」


 俺は復讐者である時に、一番力を発揮できるらしい。

 そしてお前はラムを傷付けた。


 定番の言葉だがお前に送るよ。


「お前の敗因はただ一つ。テメェは俺を怒らせた」


 迫りくる大量の触手を片っ端から切り落とす。

 切り口からディーヴァによる魔力の浸食が始まり腐り落ちて動かなくなっていく。


 俺がキリークの目の前に立つ頃にはもう触手は一本も無くなり、それどころか切り口からの浸食により本体もどんどん形を保てなくなっていく。


「ごぉぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 叫ぶその頭から一刀両断。更に横一線。


 四分割されたキリークを更に滅多切り、細切れにしていく。


 細かくなって落ちた肉片は既にぐずぐずに腐っているが知った事じゃない。


「テメェはこの世界に塵も残さねぇ……」


 バラバラになったキリークの肉片を引力魔法で一か所に集めてその周りに結界を張り、その結界に手を突っ込んで俺の手ごと魔法で焼き尽くす。


 何度も。


 何度も何度も何度も何度も。

 灰も塵も何もかもがこの世界から消え去るまで。



「……ラム、終わったよ。帰ろう」


 イリス達が心配だ。



 復讐の対象であるキリークが死んだ事で、俺の中から力が消えていく。

 出来ればもう使う機会が訪れない事を祈るよ。



 しかし俺だけの魔力じゃ飛べないからな……。

 ラムを背負い、元来た道を戻る。

 キリークを倒したからか障壁は既に無くなっていた。


 帰り道まで魔物に襲われたら面倒だなと思っていたのだが、そんな事はなく無事に転移ヴェッセルまで戻ってくる事が出来た。


『……ト君、ミナト君!』


 ん……ママドラか。タイミングがズレていた事を考えると閉じ込め用の障壁とママドラ封じは別だったみたいだな。


『よかった無事で……』

 いや、無事ではねぇよ……でもなんとか生きてる。


『そう……ごめんなさい。急に君に干渉できなくなってしまって……』


 いいさ。相手が一枚上手だっただけだ。それより早く戻らないとイリス達が危ない。


 ママドラと話しながら転移ヴェッセルに魔力を流す。


 ……ん?


 ヴェッセルが発動しない。見た所壊れている訳ではなさそうなんだが……。


『ヴェッセル自体は問題無く動いてるわ。考えられるとしたら、向こう側が壊された……とかかもしれないわね』


 なんだって……? 大神殿の奥にある転移ヴェッセルが破壊されるってどういう状況だよ。

 もしかしてこれも俺への足止めの一環か?


 とにかく、使えないなら自力で戻るしかない。


 ホールで戻るとしても、ここはいったいどこなんだ?

 あまり遠くないと良いんだが……。


『……多分、デュスノミアね』


 言葉に詰まる。

 ちょっとだけだけどそんな予感はしていた。

 魔物に占領された城ではなく、魔物の城だったって訳か。


 ママドラ、力を貸してくれ。ホールで帰るしかない。


『ここからどれだけの距離があると思ってるのよ。さすがに無茶よ』


 やるしかねぇだろうが! なんとかしてイリス達の場所まで帰らねぇと……!


『……分かったわ。確かにデュスノミアなんかに居ても仕方ないし、やるしかないわね。少し私も無茶をするからまたしばらく眠る事になると思う。そのつもりでいて』


 すまん。


 ママドラが魔力を練り上げ、俺に流し込んでくれた。

 これなら……行ける!


 ホールを通りラムの家まで飛ぶと、真っ先に俺の目に飛び込んできたのは……。



 血塗れで倒れているヨーキスだった。


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