第236.5話:選択。(ダンゲル視点)



「そろそろ心は決まりましたか?」


「……正直言うと、まだ迷ってる」


「何か未練でも? 既に大神殿に侵入した二人は片付けました。貴方がたに勝ち目はないのです。よく考えた方がいいですよ? 貴方にとって何が重要なのかを」


 大神殿に侵入した二人を……片付けた?


「お、おい……そこにエルフの女の子が居ただろう。ラムちゃんを……彼女を、殺したのか?」


「ふむ? 確かにラムというエルフの少女が居たようですね」


「ラムちゃんを殺したのなら交渉は決裂だ! 僕は彼女さえ無事で居てくれればそれでよかった……よかったんだ。もう、何の意味も……」


「ふふっ、そういう事ならば彼女の命だけは助けて差し上げましょうか?」


 ……まだ、生きているのか?


「既に瀕死のようですがね、貴方が私に協力するというのであれば命だけは助けましょう」


「や、約束しろ! ラムちゃんだけは、何としても……!」


「分かりました。契約成立という事でよろしいですか? 早速働いてもらいますよ?」


 僕は自分が今何をしているのか正しく理解している。

 きっとラムちゃんは僕を恨むだろう。

 それでも、君が生きていてくれなきゃこの世界になんの意味も無いんだ。

 僕に出来る事はこんな下衆な方法しかないけれど、それで君を守れるのなら。


「僕は、何をすればいい?」


「なぁに、簡単な事ですよ。貴方がたの拠点にイリスという娘がいるでしょう?」


「……お、おい。冗談言うなよ。あんな少女に何しようって言うのさ」


「イリスは、私よりも強いですよ?」


 絶句した。僕にだってこの男の危険さは見るだけで分かる。そんなこいつよりもあの少女が強い?


「それが本当なら僕がどうこうできる相手じゃないだろ……」


「分かっていますとも。貴方は私の言う通りにすればいいだけ。そうすれば貴方と、ラムという少女の命は救われる。保証しましょう」


 僕の命なんてこの際どうだっていい。

 だけど、ラムちゃんの命を天秤にかけるのならば、僕はどんなに蔑まれ憎まれたとしても、こいつの言葉に従うしかない。


「分かった。やってやるさ……その代わり、約束だけは絶対に守ってくれよ」


 僕の言葉に、真っ黒なそいつは「これで準備は整いました」と呟く。




 のっぺりとした表情の仮面を被っているのに、何故か笑ったように見えた。


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