第236話:絶望。
俺の魔力だけじゃきっとディーヴァはここまでの力を出せなかっただろう。
ラムが居てくれて助かった。
……勝てて良かった。正直かなりきわどかったぞ。
「覚悟しろ」
「これは使いたくなかったが……止むを得ん、ギャルン様に栄光あれ!!」
俺がトドメをさそうと再びディーヴァをキリークに振り下ろそうとした所で、キリークがどこからか取り出した小さな種のような物を地面に転がし、ディーヴァの一撃を受けながらもまるで犬の食事のような姿勢でそれを飲み込んだ。
こいつ……!
「うがぁぁぁぁぁぁっ!!」
確かにディーヴァはキリークの頭をかち割っていたのだが、その肉体が激しく隆起し、一瞬にして失われた部分が再生した。
「ミナト! 離れるのじゃっ!」
ラムに腕を引っ張られ、キリークから距離を取ると、先ほどまで俺が居た場所の地面ががゴリっと大きく削り取られた。
「あいつ、何しやがった……!?」
何か食ったようだったがそれが原因か?
キリークは身体中から長い触手が何本も飛び出し、不規則に暴れ回った。
もうこちらを狙うという意思も希薄になっているようだ。
しかし、逃がしてくれるほどあまい相手ではなさそうだし、何よりまだ俺の力が戻っていない以上この城から出る事が出来ない。
「ラム、もう一度やるぞ!」
「お、おうなのじゃ!」
知能が大分麻痺してるようだから細かい駆け引きは要らない。
とにかく最大火力で一気に潰す!
ラムの魔力により再び強く輝き出したディーヴァでキリークの触手を切り裂きながらふところに飛び込む。
「いい加減に死んどけーっ!」
足元を薙ぐように飛んできた触手を飛び上がってかわしつつ、そのまま空中で回転し勢いをつけてキリークにディーヴァを振り下ろした。
先程と同じように力の籠った刀身だったが、キリークは触手を何本も何本も束ねてそれを受け止める。
「ちっ!」
慌てて距離をとろうとしたがディーヴァに触手が絡みついて動かない。
「くそがっ!」
今ディーヴァを失ったら本当に対抗策が無くなってしまう。
先程のように魔力を爆発させ、触手を吹き飛ばしたが、既に俺の背後から触手が迫っていた。
……避けられないッ!
「危ないのじゃっ!」
俺の身体にラムが体当たりし、かろうじて俺は触手から逃れた。
だが……、うごめく触手は俺の代わりにラムを捕らえ、締め上げる。
「ラム!」
「あっ、あがっ……」
触手はラムの身体を完全に包み込んでしまい、外から見ても分るほどの勢いで彼女の生命力を吸収していた。
「畜生ッ!」
繭状になった触手に切りかかろうとしたが、直前にパカリと繭が割れ、ラムが放り出される。
慌てて方向転換し、ラムを受け止めると、まだ息はあった。
「ラム、ラム! 大丈夫か!? なんであんな事を……!」
「み、な……と……。無事、じゃったか……なら、よい、のじゃ」
ラムは虚ろな瞳をゆっくりと動かしながら途切れ途切れに言葉を吐く。
「どうやら、儂はもう、力には、なれぬ。身体も……思うように、動かん、感覚が……無くなって、しもうた……」
どうやら手足も動かせない状態のようだ。
見た感じ目もあまり見えていないように感じる。
「儂を置いて、逃げ……るの、じゃ。こんな事に……まき、こんで……すま、な」
スゥっとその瞳が閉じられる。
……こんな時に、俺は何をやっているんだ。
不甲斐ないにも程がある。
ママドラの力に頼りっぱなしで、なんでもできると勘違いして……どんな奴が開いてでも負ける事は無いなんて勝手に思い込んでいた。
情けない。馬鹿だ。愚か者だ。
キリークだった物が咆哮をあげ、再び大量の触手が俺に迫る。
ラムは逃げろと言ったが、逃げ場など無いし逃げる方法も無い。
それに、俺はラムをこんな目にあわせたキリークを放置して帰るなんて絶対に御免だ。
例え勝てなかったとしても。
俺の命がここまでだったとしても。
俺のせいでラムが……。
この状況に責任をとらなければならない。
イリスは無事だろうか?
せめてイリス達だけでも無事でいてくれるといいんだが。
でも万が一俺がこんな所で死んだ、なんて知ったらイリスは怒るだろうな。
ギャルンよ、怒ったイリスは怖いぞ?
俺なんかよりもよっぽど強いんだからよ。
覚悟して待ってろ。
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