第227話:犯罪者の常套句。
「……ねぇミナト。何か言う事ある?」
そんなレナの声に起こされた。
寝ずにラムと話をしていた筈なのだが、うっかり居眠りをしてしまったらしい。
出発の予定時刻はそこまでオーバーしていないようなので許容範囲だろう。
それよりも今は問題が起きている。
「や、やぁおはようレナ」
「他に何か言う事あるんじゃないかな?」
レナのジト目が怖い。
「むにゃ……みなとぉ……」
ちょっとラムちゃん、今誤解を招くような寝言言うのやめて頂けませんか。
「……随分仲良くなったんだね」
「いや、ちが、これはだな……」
「うへへ……あったかいのじゃ……」
「へぇ、この状況って誰がどう見ても問題あると思うんだけどなぁ。帰ったらみんなに報告しなきゃね」
「待て、落ち着け……!」
今俺は壁にもたれかかり、ラムを後ろから抱えているような姿勢である。
二人で話していた時に少し肌寒くなってきたというのでぎゅっとしてやったらラムが思いのほか喜んだのでそのまま会話してたらいつの間にか眠ってしまったのだ。
俺だってさすがにいろいろ問題あるかと思ったけど、ラムも親の愛にでも餓えてるのかと思ってほら、だから、そういう事だよ!
『その言い訳が通じると思うのなら私にじゃなくてレナに言いなさいよ』
通じる訳ないじゃんよ!
『あら、それは分かってるのね』
「う……ん、うぬ? レナではないか。こんな夜更けにどうしたのじゃ?」
「どうしたのじゃ? じゃないよ。なんで二人で良い雰囲気になってるのか聞きたいんだけど。というか自分の年齢考えてよね? いくらミナトがロリコンだからってその若さを利用して迫るのは違くない?」
なんで俺はレナにまでロリコン認定されてるんだ!?
『真実を見抜く力があるのね』
「な、なんじゃあ? ミナト、儂レナの言ってる事がよく分からんのじゃが」
わからんでいいよ!
「すっとぼけて……ラム、貴女は今私と、拠点にいる何人もの女に宣戦布告をしたも同然だからね。それは覚えておいて」
「ミナト、こやつ怖いのじゃ……」
ラムが俺の身体にひっついてくる。
だからこの状況で誤解を招くような事はやめて頂けませんかお嬢様!
「良い度胸してんじゃないの……!」
「待てレナ! ほら、ラムもまだお子様なんだからさ、そんな目くじら立てるような事じゃ……」
「誰がお子様じゃーっ!」
えっ、そっちからも怒られるの!?
「ミナト、私はラムがお子様だからこそ危険を感じてるんだけど」
「待て、待ってくれ! いろいろ誤解が錯綜している! 弁護士を呼べ!」
『はいはーい♪ ミナト君はろりこん! 死刑っ!』
誰が裁判官呼べって言ったよ!
『君の世界の難しい話はよく分からないなぁ?』
だったら嬉々として割り込んでくるのやめてくれない!?
……まったく。
余計な事に時間を割いてしまった。
結局あの後騒いでいたせいでイリスが起きてきて、寝ぼけながら俺に抱き着いてきたせいでレナまで「ずるい!」とか言ってひっついてきて身動き取れなくなってしまった。
最終的にはレナが諦めたような声で、
「ほんとうにミナトは……もういいからちゃんと無事で帰ってきてよ……?」
としんみりした事を言った事でこのドタバタは一件落着となった。
『多分一件落着ではないわよね』
うっさい。
レナと、寝ぼけたイリスに見送られて俺とラムの二人はランガム大神殿を目指す。
「そういえば場所は分かっているのか?」
「無論調査済みじゃ。転移で向かうかのう?」
それもアリっちゃアリだが……。
とりあえず俺はラムをお姫様抱っこした。
「な、なんじゃなんじゃっ!?」
「ラムちゃんは魔力温存しといた方がいいだろう。案内してくれ、走る」
「案内はするが……走ると言っても距離が……って、うわわわーっ!」
話している時間がもったいないのでとにかくスキル全開で走り出す。
ラムは怖かったのか涙目になりながら俺の身体にしがみ付いてきた。
『なるほどこれが目的だったのね……なかなかの策士!』
だまらっしゃい!
「ラム、方角は?」
「と、ととととりあえずききき北へ向かうのじゃぁぁぁぁぁぁぁ」
悲鳴をあげながらもちゃんと方角を教えてくれるあたりよく出来た子である。
「じゃあもっとスピード上げるから、怖かったら言えよ?」
「ほぇっ!? もっと早くなるのじゃ!? ちなみに怖かったらスピード落としてくれるのかのう……?」
「それはそれ、これはこれ」
「ミナトの嘘つきぃぃぃぃっ!!」
別に嘘はついてないだろ……。
ラムはぼろぼろと涙を流しながらも方向がズレてくると指で「あっち……」と示してくれる。
やはりよく出来た子である。
潤んだ目でこちらに何か訴えかけようとしてくるがぐっと我慢してるところもいじらしい。
『君が幼女を虐めて愉しむ趣味があったなんて新たな発見でドン引きよ』
ちょっとだけそれは否定しにくい部分があるなぁ。
実際今かなり楽しんでいる自分がいる。
かわいそうだからこの辺にしておいた方がいいだろうけれど、ついやっちゃうんだよなぁ。
無駄に急上昇したり急降下したり急旋回したりしながら目的地のランガム大神殿が視界に入るくらいまで到達。
「うっ、えぐっ……」
「ごめんなラムちゃん、やっぱり怖かったか?」
「こ、こわくなんか、ないもん」
うへぇ……小さい頃のイリスとはまた違った可愛さの塊だなこの子は。
『……ちょっとだけだけど君に力を与えた事を後悔しちゃったわ』
いやいや、こんな気持ちにさせる方が悪いんだって。
『……それ犯罪者の常套句よね?』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます