第226話:ポイント高し。


「あの馬鹿者め……!」


「よい。ダンゲルだっていろいろ思う所があるんじゃろう。儂の我儘で振り回してしもうたのじゃ……呆れられてもしかたあるまい。それに、儂の考えの変わりようはきっと死んでいったレジスタンスへの冒涜じゃろうから……」


「そんな事はありません! レジスタンスの奴等は確かに粗暴で馬鹿な奴等が多かったですが、皆悩み、苦しんでおりました。それはボスに対して、です」


「儂に……? どういう事じゃ? 儂はレジスタンスの連中には会った事が無いし通信で指示を出していただけじゃろう……?」


 会った事すらなかったのか。ラムちゃんはずっとここに引きこもっていたのだろう。

 過保護なヨーキスが、彼女を守るためにしていた事かもしれない。


「それでもボスの境遇も、辛さも皆知っています。私が勝手に話しました……すいません。それを聞いた奴等はボスの為に、ボスを笑顔にする為に頑張ろうと言ってくれたんです。そんな奴等がボスの決定に異を唱える筈がありません」


「……そう、か。もう少し、皆とちゃんと話すべきだったかもしれんのう」


 俺はヨーキスが嘘をついていると思う。

 さすがにそんなお人好しばかりの集団という事はないだろう。

 勿論ヨーキスが話したような事を言った奴もいたんだろうが、全部ではない。

 ラムの気持ちを和らげるための優しい嘘だと、俺はそう思う。


『歪んでるわねぇ……そこは君も、いいやつばっかだなぁ! って思っておけばいいのに』


 俺はそんなに純粋じゃねぇんだわ。いつだって人間の悪意ってのは一番怖いもんだよ。


 勿論人間だけじゃなく魔物も、だけどさ。


「ミナト、無理を承知で頼む」


「約束はできないな」


「……それは、そうじゃろうな」


「勘違いするなよ。やらないとは言ってない。出来る限りは善処させてもらうぜ」


 俺の言葉にラムは一瞬ぽかんとして、それから屈託の無い子供らしい笑顔を見せた。


「ありがとなのじゃ。ミナトは優しいのう」


「ついでに、ヨーキスとラムの二人さえよければこの件を片付けた後俺の街へ来いよ。安心して暮らせる環境を提供するぞ」


「……それは、とっても楽しみなのじゃ。でもまだ考えるのはやめておく。今その後の幸せな暮らしを考えてしまったら何もできなくなってしまいそうじゃ」


「分かったよ。じゃあ全部終わってからまた改めて話をしようか」



 その日は早めに少し仮眠する事にして、夜中……俺とラムの二人で敵の本拠地であるランガム大神殿という場所へ乗り込む事になった。



 決行時間には少し早いが目が覚めてしまったのでぼけーっと天井を眺めながら時間を潰していると、部屋に一人足りない事に気付いた。


 ……少し外でも見て来るか。

 二人を起こさないように静かに扉を開け、家を出る。


 扉を出たすぐ脇の所、先日レナと話した場所に、もっと小さいシルエットが丸まっていた。



「……眠れないのか?」


「……なんじゃ、ミナトか。おどろかせおって……」


 こちらへ振り向く事すらなく、ラムは膝を抱えて丸くなっていた。


「レジスタンス達の事か?」


「……うむ、儂の我儘に巻き込んでしもうたからのう。本当に、悪い事をした。こんな事なら最初から儂だけで戦えばよかったのじゃ」


「それは違うぞ」


 そこで初めてラムがこちらに顔を向けた。

 瞳に涙が光っている。


「何が、違うのじゃ?」


「レジスタンスの奴等はそれぞれの思想でそれぞれの目的の為にそれぞれが自分の意思で命をかけて戦ったんだよ。それを哀れと思うのは違うんじゃねぇか?」


「むぅ……そう、なのやもしれんのう」


 ラムは再び顔を下に戻し、黙ってしまった。


「俺はそいつらの事よく知らねぇけどよ、やりたいようにやって、結果死んだ。仲のいい奴が死んで悲しいとかならいくらでも悔やんでいいけど、そうじゃないなら自分のせいだ、って考えるのは違うからな?」


 それぞれが自分の意思でレジスタンスとして戦う事を望んだんだ。

 その結果今の状況になっただけであって、ラムがそれを全て肩代わりすればよかったというのは違う。


「ミナトは厳しいのう」


「……」


「しかし優しいのじゃ」


「それは買いかぶりすぎだろ。俺はそう思ったからそう言ってるだけさ。ラムちゃんと違ってレジスタンス達の事は何も分からないから第三者の無責任な意見だよ」


「ミナトの良い所は優しいが甘やかしすぎない所じゃな。そして自分への評価も厳しい」


 俺はかなりラムに甘いつもりなんだけどな。

『ろりこんだものね』

 まだ言うかこのとし……いや、なんでもない。


『今年増って言おうとした? ねぇ』

 そんな事はない。絶対だ。


『ふぅん、そういう事にしておいてあげるわ』

 すいませんでした。


「まだ気分が晴れた訳では無いが、ミナトのおかげで大分楽になった気がするのじゃ」


「そりゃ良かった。もうすぐ出発の時間だけど……少し休んでおいた方がいいんじゃないか?」


「ここまで来て寝てしまったらきっと起きられないのじゃ。こんな大事な時に寝坊なんてしてたら死んだレジスタンスの皆に笑われてしまうのじゃよ」


 そう言ってラムが八重歯を見せて笑った。


 エルフ耳に八重歯か……ポイント高いな。


『こんな時でもミナト君はミナト君なのねぇ……』


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