第224話:エルフがベジタリアンとは限らない。
「ほえーっ! すっごいなぁ。ミナトちゃん他にもいろいろ魔法使えるの? ラムちゃんと同じくらいかそれ以上なんじゃない?」
「いや、俺は魔法でラムに勝てるとは思わないな……知識量も応用力も段違いだ」
うるさいダンゲルも一緒に俺達はラムの家までホールを通りやって来た。
「へぇ……でもすごいなぁ。人体自体を粒子に変えて別の場所で実体化させるのが転移魔法だけど、ミナトちゃんの場合は空間自体を別の場所に繋げてそこを通るって感じなんだねぇ?」
こいつもエルフなだけあって魔法の知識に関してはそれなりに持っているらしい。
やる気を出せばそれなりに役に立ちそうなものだが。
「ミナト……私こいつ苦手」
レナが俺の腕をぎゅっと掴む。
「安心しろレナ、俺も苦手だから」
「そう? あたしは別に気にならないけどなー」
イリスは特に気にする素振りもなく、話しかけられたらダンゲルとも普通に話している。
イリスは他人に対して等しく興味があり、そして等しく興味がない。
害がない相手であれば普通に仲良くできるし、逆に害があるなら相手が何者だろうと遠慮なくぶち殺す。
害さえなければイリスはとりあえず気になるらしく自分からもよく話しかけたりしていた。
「ラムちゃん、もう中に居るか?」
ドアをノックすると、「入るのじゃ」と声が返ってくる。
中へ入ると、そこには……豪華とは言えないが軽い食事が用意されていた。
「ヨーキスが作ってくれたんじゃ。まずははらごしらえといくのじゃ」
「エルフって肉も食うんだな」
テーブルに並べられていたのはサラダとパン。
パンの上にはハムと卵が乗せられていた。
エルフっていうとベジタリアンなイメージがあったけれど、一概にそうとも限らないらしい。
「うむ、儂は食べる。ババ様の代くらいまでは肉類を食べたりはしなかったらしいがのう。時代は変わったという事じゃ」
「ちなみに私は親の教育方針で肉類を食べずに育ったので今でも抵抗があるから食べない」
ヨーキスの分は確かにハムが抜いてあった。
ダンゲルは、席につくなり誰よりも先にもしゃもしゃと平らげていた。
彼は食べる派らしい。
「こんな世の中なんだから食べられる物を食べるのは当然でしょ~? ヨーちゃんは贅沢過ぎるんだよ」
「ヨーちゃんと言うな気色悪い」
このやり取りだけでも二人がどういう関係性なのかなんとなくわかる。
真面目なヨーキスにとってはかなりイラつく相手だろうなぁ。
「えー、ヨーちゃんって呼んじゃダメなの?」
イリスがガッカリしたように項垂れながらパンにかじりつく。
「い、いや……私はダンゲルにそう呼ばれるのが嫌なだけで……」
「じゃああたしが呼ぶのはいいの?」
「えっと……はい」
「やったー♪ ヨーちゃん仲良くしてね☆」
ヨーキスはまだ少しイリスの事が怖いらしくビクっとしていたが、にこやかなイリスの表情を見ているうちに安心したのか、食事を終える頃には穏やかな表情をするようになっていた。
「しかし……レジスタンスも壊滅してしもうたか……」
「ええ。彼等はよくやってくれました。本来なら一人ずつ墓を作り弔ってやりたい所ですが……」
「儂はヨーキスだけでも無事で居てくれて嬉しいのじゃ。お主まで失ったら……さすがに心が折れてしまうやもしれんからのう」
「ボス……」
しんみりとした、それでいていい話を聞いていたらまたあの空気読めない奴が割り込んでくる。
「えーラムちゃん、僕はぁ? 僕は死んでも平気って事~?」
「うるさいのじゃ。ダンゲルはいつも戦いから逃げとるじゃろう? やる気の無い奴は嫌いじゃ」
「ちぇー。だって命あっての物種って言うでしょ? 僕は自分の命を守るためにいつだって最善策を選んでるだけだってば~」
あっけらかんとそれを言い放つこいつの神経が凄い。
昔からずっとこういう奴なんだろう。だからきっと諦められている部分も多く、今更期待などしていない。
しかし、表裏が無い所がこいつの良い所なのかもしれないな。
嫌なら嫌と言うし自分の命を最優先に動く事に対して下手な言い訳はしない。
こいつの喋り方が生理的に好きになれないが、考え方自体はある程度理解できる。
「でさ~、ラムちゃん達は五人だけでどうやってランガム教を倒そうって言うのさ。魔物だって居るんだよ?」
「魔物じゃと……? ランガム教には魔物を使役する者がいるのか?」
ラムちゃんもそれは知らなかったらしい。
ダンゲルが知っていたのは意外だが、こういう奴の方が意外と情報通なのかも。
生き残る為には正しい情報が必須だからなぁ。
「その人の言う事はほんとだよ。私とヨーキスは魔物に苦戦したから。ミナトがきてくれなかったら……」
レナは熱っぽい表情でこちらを見つめてくる。
可愛い。
『君は惚れっぽいからねぇ』
それは誤解だ。自分の事を好きって言ってくれる人の事が気になるのは当然の心理だろうが。
『じゃあネコちゃんもアリアもティアも気になるのね?』
……気にならねぇ奴は男じゃねぇだろうがよ……。
『今の君が男って言えるのかどうかはおいといて、なるほどなるほど、よく分かったわ』
今のはなんの聞き取り調査だったんだよ……。
「魔物使いがそんなに強力な魔物を手懐けておったのか?」
ラムは驚いていたが、そうじゃないんだよ。
「教徒の中に魔物使いが居た、じゃなくてさ。あそこの砦を任されてた指揮官っていうか……なんだっけな」
「大司祭だよ~」
あれは大司祭だったのか。ダンゲルに教えてもらうのはなんか素直に喜べないな。
「とにかくその大司祭って奴が魔物だったんだよ。アレは多分魔王軍の幹部クラスだぞ」
「……なんじゃと? 儂らが、戦おうとしておる相手は、いったい……?」
ラムの表情が一気に曇った。
魔物と戦うのが怖いという感じではない。
どちらかというと、これから戦う相手は魔物に操られているだけなのでは? という考えが頭をよぎってしまったんだろう。
迷うな。ラムはもうこのまま突き進むか、いっそ逃げ出すかの二択しかないのだから。
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