第223話:うっぜぇ……。


「ラム、ここから先はどうするつもりなんだ? レジスタンスは壊滅と言ってもいいだろう。この先のプランはあるのか?」


「うむ……無論考えてはおるが……正直ここまでこれた事が奇跡に近いのじゃ」


 そういってラムは俯く。


「おいおい、まさかとは思うがこれで満足してんじゃないだろうな? 本番はこれからだぞ?」


「分かっておる。ただ……この先の事を考えるとどうしてもミナト達を巻き込んでしまうのじゃ……」


 ラムはこちらを見ずに、自分の足元ばかりを眺めている。


「バカ野郎。子供が妙な気を遣うんじゃねぇよ」


 ラムの頭をぽんぽんと叩くと、彼女はちょっとムッとした顔でこちらを見上げてきた。


「子供扱いしおって……でも、そうじゃな……この先も、頼っていいじゃろうか……?」


「勿論だ。なんなら俺達だけでやったっていい。もともとその予定でここに来てるんだからな」


 ラム達と出会わなかったとしても俺は結果的にランガム教を落とす為に動く事になっただろう。


「あらあら随分深刻な話しちゃってさぁ~。もしかしてその五人でほんとにランガム教に逆らうつもりなの?」


「何じゃダンゲル……何か文句でもあるのか?」


「文句じゃなくてさぁ、僕はその人数で十万以上のランガム教を相手にするとか無理に決まってるじゃんって言ってんのよ」


 ダンゲルがまるで馬鹿を見るような呆れかえった顔でラムとヨーキスを笑う。


「貴様……それでもエルフの生き残りか!」


「よいヨーキス。ダンゲルは昔からこういう奴じゃろう? ダンゲルよ、お主は参加せずともよい。……というより最初からそのつもりであろう?」


「おっ、さすがラムちゃんよく分かってるねぇ」


 そう言えばこいつさっき五人で、って言ってたもんな。

 ダンゲル自身を含んでいるのなら六人のはずだ。


「勿論僕はそんな分の悪い賭けには乗らないよ~? やるならみんなだけで頑張ってね。でも残念だなぁ。ラムちゃんには死んでほしくなかったんだけど」


「まるで儂が死ぬと決まったような物言いじゃのう」


「そりゃそうでしょ。どうやってここの大司祭を倒したのか知らないけどさぁ、助っ人が三人増えただけでなんとかなる相手じゃないよ~? ランガム教ってのはさぁ」


 あぁ、そうか。このダンゲルって奴は俺やイリスの正体を知らないし、隠れていて俺の戦いも見てないからこっちの戦力がどの程度なのか正しく理解していないんだ。


「まぁダンゲルのやる気がないのは今に始まった事ではないからのう。別にそれはいいのじゃ。それよりこの先の事を打ち合わせしておかんとな。一度儂の家へ行こうかのう」


「じゃあ転移魔法いけるか?」


 俺がそう言うとラムはまたムッとした顔で俺を軽く睨む。


「な、なんだよ……」


「ミナトは分かっておらん。転移魔法というのは大変なんじゃぞ?」


 あー、それは一応分かってるつもりだったのだが。

 ラムほどの使い手ともなればもう一度くらい使えると思ったんだが……。


「そうか、もう一度使うほど魔力が残ってないのか? ここに来るのもイリスに抱えられてたしな」


「ば、馬鹿を言うな! 儂が言うておるのはこの人数を転移させるのが難しいという話じゃ!」


 あー、少し勘違いさせてしまったらしい。


「別に全員じゃなくていいよ。俺とイリスとレナは勝手に行くから。もし人数的に厳しいならこっちでもう少し負担してもいいが」


 再使用が不可能なら全員運んだっていいが少々疲れるんだよなぁ。


「なんじゃ? ミナトは転移も使えるのか?」


「俺のはラムちゃんほど便利なやつじゃないよ。一度行った事があればってところかな」


「ほ、ほう……? そういう事なら儂がヨーキスを連れていこう。ダンゲルはどこへなりとも消えるがよいのじゃ」


 ラムの言葉を聞いてダンゲルが突然慌て出す。


「ちょ、ちょっと待って。いろいろ事情が変わってきた! やっぱり僕も話だけ聞きに行っていいかな? 参加するかどうかはそれから決めるって事で……ダメ?」


「別に構わんが……」


 面倒な奴だが確かにこんな所に放置ってわけにもいかないか。


「じゃあそいつも俺が連れてくよ。ラムちゃんの家で合流でいいな?」


「う、うむ……では先に行っておるのじゃ」


 ラムとヨーキスが転移魔法で消える。


「じゃあ俺達も……」


「ねぇねぇミナトちゃんって言ったよね? 転移まで使えるなんてすっごいじゃん! 助っ人が少し増えたくらいでなんとかなるとは思ってなかったんだけど、なになにもしかしてめっちゃ強い人?」


 ……こいつ、俺達が思ったよりも戦力になりそうと分かると一気に態度が変わりやがった。


 こういうその時の流れ次第で自分の言動をコロコロ変える奴は長生きするだろうけれど、俺はやはり好きになれない。


「お前、あまりラムを悲しませるなよ?」


「あれ、説教? 僕だってラムちゃんには幸せになってほしいと思ってるよ。だから本当ならこんな所に拘らないでさっさと外の世界にでも行ってくれたらいいのになって思ってる」


 それは俺も多少分かる所がある意見だ。

 あえてこんな大変な道を進まずとも、外の世界で……それこそ俺達の街にでもくれば平穏な暮らしをさせてやれるのに。


 でも彼女は、少なくとも自分の中のケジメをつけないとここを出る決意は出来ないだろう。


 彼女の中では復讐が最優先なんだから。

 俺も経験済みだからその気持ちは分る。


 だから、早くケリをつけてやりたい所ではあるが……。


「ねぇねぇそれより転移してよ早く早く! 僕にも見せて!」


 うっぜぇ……。



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