第222話:ダンゲルという男。


 砦を出ると、緊張感が解けたのかヨーキスがへたり込んでしまい、レナが肩を貸してあげていた。


「……大丈夫か? 怪我があるようなら治してやるが……」


「いや、気にするな。あんな魔物……初めてだったので驚いてしまっただけだ。それにしてもやはり、お前は強いのだな」


「まぁこれでも六竜なんでな」


 奴も言語を操っていた所を見る限り幹部クラスなんだろうが……。

 俺も今までに言葉を喋る魔物をそれなりの数倒しているように思う。

 幹部ってのはどのくらいいるもんなんだ?


 それとも幹部達以外にも言葉を話せる奴は意外と多いんだろうか?


 こればっかりは魔王軍の内情を知っている奴にでも聞かなきゃ分からない事だが。


「多分そろそろイリスとラムもこっちに到着する頃だろう」


 ヨーキスがなんとか落ち着いてきた頃、丁度イリスがラムを小脇に抱えてぴょーんとやって来た。


「離せっ! 離すのじゃーっ!」


「ほいっ」


「ぎゃーっ! 急に落とすでない! 痛いじゃろうがっ!」


 何をやってるんだあいつらは……。


「そっちも無事に終わったみたいだな」


「何が無事なものか! 儂のキュートなお尻に痣が出来てしまうわっ!」


 キュートなお尻ってお前……。

『何想像してるのかしらねこのろりこんは』


「ふん、まぁよい。儂らの方は……まぁ、上手く殲滅出来たのじゃ……しかしこのイリスは……なんというか、恐ろしいのう」


 ラムが自分で自分の肩を抱くようにしてブルっと震えた。

 きっと恐ろしい物を見たんだろう。


「儂が遠距離から三分の一程度は殲滅したんじゃが……その後すぐイリスが敵陣に突っ込んで行ってのう……そりゃあもう大惨事じゃよあはは……」


 ラムが遠い目をしながら攻略時の事を語る。


 という事はイリスはやっぱりいつもと変わらないノリで人間をぶち殺してきたんだろう。

 我が娘ながら恐ろしい。


『それがイリスに与えられた仕事だったんだもの褒めてあげなきゃダメよ』

 分かってるよ。


「イリス、よくやったな」

「えへへー撫でて撫でて♪」


 頭を突き出してくるのでそのサラサラな金髪を手櫛で整えるように優しく撫でてやった。


 この子もいつの日か自分のした事を後悔する日がくるんだろうか。

 出来れば人と共に暮らしていくために人としての常識って物を学んでほしくはあるが、そのせいで悩んだり苦しんだりはしてほしくない。


『親としての矛盾ってやつね。ミナト君の育成方針ってやつを見せてもらうわ』

 お前も母親なんだから俺に投げっぱなしにするんじゃねぇよ……。


『だって私は人間がいくら死のうが気にならないもの』

 これだから六竜ってやつはよぉ……。


 イリスは良くも悪くもこの能天気で人で人の命などなんとも思っていないドラゴンの娘なのだ。


 だが、同時に血が繋がってないとはいえ俺の娘でもある。

 俺が良き見本になってやらないといけない。


 やっぱりイリスをこんな場所に連れてくるのは少し早かったかもしれないなぁ。

 俺も人を殺さない訳にはいかない状況だし。


 むしろ残った敵が全て魔物だったら話は早いのに。



「……ヨーキス、状況を報告せよ。と言っても……見れば大体分かるがのう」


「はっ。ボス……申し訳ありません。この拠点は落としましたがレジスタンスは壊滅状態です。……ミナトが来てくれなければ私も生きてはいなかったでしょう」


「そうか。ミナト、ヨーキスを守ってくれて感謝するのじゃ」


 ラムは一面に広がるレジスタンスの遺体をしょんぼりと眺めながらも、俺に感謝を述べた。


 強い。

 この年でこの状況を見てその上俺に感謝を言うだけの気が使えるのか。


「いいって事よ。こっちには俺の連れだって居たんだからな。助けに入るのは当然だ」


「そうか……だとしても、感謝なのじゃ。……時にヨーキス、ダンゲルはどうしたのじゃ? まさか死んだか?」


 ダンゲルって言えば……確かエルフの生き残りだったか。


「あいつは……戦いの中ではぐれてしまった。無事かどうかも……」


「そうか。あやつの事じゃから危なくなれば逃げていると思うのじゃが……」


 その時、砦から少し離れた木々の影から一人の男が現れた。


「いやぁ危ない危ない。もう少しで殺されちゃう所でしたよぉ」


 ……確認するまでもない。こいつがダンゲルだろう。耳尖ってるし。


「ダンゲル……無事だったか。貴様今までずっとそんな所で隠れていたのか?」


 ヨーキスの冷たい言葉にもダンゲルは飄々としたままだった。


「やだなぁ僕が死にそうになるまで戦う訳ないじゃないの。途中までどう見たって勝てる要素ゼロだったでしょー? あんなの必死に戦うだけ無駄だって思うじゃん普通」


「貴様……このレジスタンス達の遺体を前に良くもそんな事が言えたな……!」


「うわこわー。ヨーキスちゃん怒りすぎ。だってさぁ、そこのレナちゃんって子が頑張ってくれたからなんとかなったけどさぁ」


 こいつ……今までのヨーキスとラムの態度からろくでもない奴なのは分かってたが、この状況で仲間を見捨てて逃げていたとは。

 しかしラムがさほど怒っていないところを見る限り元々たいして期待はしていなかったんだろうな。


「ダンゲル……お主の態度には言いたい事もあるのじゃが、どうせお主は言ってもきかぬ馬鹿じゃからのう。それより無事でいてくれて何よりじゃ」


「あちゃー相変わらずボスは手厳しいねぇ。生き残ったんだからもっと明るく行きましょうよほら笑って笑って♪」


 ……なんだろう。

 今まで俺が会った事ないタイプかもしれない。


 一つ言える事は、パリピみたいなノリで嫌い。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る