第218話:葛藤と決意。


 頭の中にぴこんぴこんという音が響く。


 人間ぶっ殺してレベルが上がるとはね……。


 最近レベルが上がってもステータスの確認なんてしてなかったからな。

 久しぶりに見てみるか。


 レナの元へ走りながらステータスを呼び出す。


 レベル:82

 種族:ドラゴニア

 職業:リベンジャー

 通常スキル:剣技レベル15

 上位スキル:隠蔽工作・経験値加速

 特殊スキル:復讐


 いつの間にか82なんてレベルになってたのか……英傑祭とかでも結構戦ってたしなぁ。


 そして今だに特殊スキルの復讐ってのがよく分からない。


 経験値加速ってのはありがたいスキルだと思うが、俺自体既にレベルとかあまり関係ない生き物になってきてるからなぁ。


『剣技レベル15って凄いの?』

 10だってすげぇよ。

 剣聖のジュディアは剣技レベル測定不能だったけどな。


 どっちみちジュディアの記憶とスキルを使える時点で俺自体の剣技レベルなんて飾りみたいなもんだが。


『ミナト君自体も強くなってるって事よね。私は嬉しいわ♪』


 まぁいろんな記憶に助けられてるからな。そいつらから学んで俺もいろいろ出来るようになったし。


 普通は本人のレベルやスキルレベルってのは力量を測る指針になるけれど俺の場合その辺はあまり関係ないし。


 レベルが上がれば基礎体力や運動能力に補正がかかっていくから他の記憶達の力を最大限活かせるようになる。上がってて損はねぇよ。



 ……っと、そろそろレナが攻めている拠点に到着するぞ。

 無事でいてくれるといいんだが……。


「……おいおい冗談だろ……?」


 目の前に広がっているのはあちこちから白煙をあげている崩れかけた砦と、あたり一面に広がるレジスタンスの死体。


 まさかレナの奴やられちまったんじゃねぇだろうな?


『まだ分からないわよ。中を調べましょう』


 近付くにつれ、ランガム教徒の死体も増えてきた。

 その中には幼い子供も居たが、苦悶の表情で息絶えている。


 ……分かってはいたが、これが現実なんだよな。

 この子供たちはどういう気持ちでここに居たのだろう?

 親がランガム教徒だから? それとも自ら進んで兵に?


『考えるのはやめた方がいいわ。死体を見ていても答えなんて出ないもの』


 分かってるよ。


 だけど……ランガム教に親が捕まり、無理矢理兵として戦う事を強要され……子供までもが同じようにここに送り込まれていたのだとしたら?

 本人の意思とは無関係に、そうするしか生き残る術がなかったのだとしたら?


『そうは言ってもね、よく見て見なさい。この子だって他の教徒と同じように武器を持ってるじゃない。これは子供じゃなくて敵兵なのよ』


 ……。


『決めたんでしょう? 悩んでいる場合じゃないし君が守れるものには限りがある。優先順位をしっかり考えなさい。今はレナ、そうでしょ?』


 ああ。そうだな……すまんママドラ。

 俺がさっきぶっ潰した砦にもきっと少年少女の教徒が居たんだろうなって思ったらさ……。


『少なくともここの連中よりは楽に死ねたわよ。それこそ死んだと気付かない程あっさりね。君は後悔じゃなくて死を想うべきなんじゃないかしら?』


 死を想う。

 この場合の想うというのは思うとは違う。

 逢魔聖良……恐ろしく達観した奴だったが、奴にとっての死とはなんなのだろう。


 分からない。話を聞いたって俺にはほとんど理解できなかった。

 それでも。


 もう決めたんだから後戻りはできない。

 どれだけこの手を血に染めたとしても、やると決めたのならやらなきゃならない。

 こんな所で揺らいでいたら足元を掬われる。


 大量の教徒の中から味方になりうるかどうかなどいちいち選別している余裕はない。

 下手に命を助けてそいつらが俺の守りたい物を壊さない保証などない。


 レナにも言ったじゃないか。

 レジスタンス全員の命よりもレナの命の方が大事だと。


 それはこの国のランガム教徒やレジスタンス全員、十五万人以上の命と天秤にかけた所で変わらない。


 仲間一人を助ける為に知らない奴等大勢の命が必要だというのなら奪ってやる。


 ……いや、奪うのではなかったか。


 死を与える。


 簡単に割り切れる問題ではないが、少なくともこの環境に飛び込んでしまったのだからもう迷っている暇はない。

 どんなに心が揺らいだとしても、優先すべきものの為に動く。

 それが全てだ。


 いっそ逢魔聖良の力は敵の総本山に直接ぶつけてやるべきだったのではないかとすら思う。


 あれだけの威力があったのならば障壁の範囲さえ調整すれば一国を吹き飛ばす事も出来た筈だ。


 その一撃で全てを終わりに出来た。


 俺が余計な事に拘らなければ温存しておく事だって出来たのに。


『またミナト君の悪い所が出てるわよ。ネガティブに考えすぎ。君がすべき事は、レナ、イリスと生きて帰る事よ。ついでにラムちゃんを助けてあげられればそれでいいの。それ以上は欲張りだわ』


 欲張り、か。

 俺は欲張りなんじゃなくてただ臆病なだけなんだよ。


 でももう大丈夫だ。ママドラのおかげで少し割り切れた気がするよ。


『それは良かったわ。じゃあ切り替えていきましょう? ほら、砦の中にはまだ人の気配があるわよ』


 早くレナを見付けて合流しよう。

 レジスタンスもほとんど生き残りは居ないだろうし、せめてレナだけでも守らないと。


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