第216話:逢魔聖良。
「では儂らもここまでじゃな」
「おう。イリス、ラムを頼んだぞ」
作戦決行の朝、俺達はラムの隔離空間から出てエルフの里を通り、森へ抜ける。
「まっかせて! ラムちゃんの敵は全ぶっころしてくるからっ♪」
そう言ってイリスが腕まくりをし、力こぶをみせつけるような仕草をした。
勿論その白い細腕に力こぶなどは見当たらないのだが。
『筋繊維自体が人間とは別物だものね』
俺の身体もどうやら中身が既に人間のそれではないんだろうな。
肉切り包丁とかで頭を思い切りぶっ叩かれても大丈夫だったしなぁ。
「じゃあ二人も気を付けろよ。心配は要らないと思うが……」
「大丈夫なのじゃ。拠点の一つや二つ儂が一瞬でぶっ潰してくれるのじゃ!」
「ラムちゃんが言うとほんとにそうなりそうなんだよなぁ……とにかく一番激戦区は間違いなくレナの所だろうから、お互い自分の所が終わったらレジスタンス組の所へ合流でいいか?」
俺もさっさと仕事を終わらせてレナの加勢に行きたいところだ。
「うむ、分かったのじゃ。ほれ、これを持っていくのじゃ」
ラムは俺に拳大の水晶を手渡してきた。
「……これは?」
「儂が既に術式を施してある。目的地までまっすぐ案内してくれるのじゃ」
一応簡単な地図は貰って頭に入れてあるが、これがあれば迷う心配はいらないという事だな。ありがたい。
「緊急時には通信機としても使えるが魔力の流れを敵に掴まれるかもしれんから緊急時以外は使わんほうがいいじゃろう」
「これ、レナは?」
「ヨーキスが持っておる。心配無用じゃ」
こんな魔道具まで自作できるなんてラムは優秀だな。是非うちにほしい。
『ろりこん』
そうじゃねぇよマジでしつこいぞ。
それよりもこれだけの魔道具を作れる人材が俺達の仲間に居たら何かと便利だろう?
『まぁそれはそうねぇ』
「では、本当にこれで一度解散じゃ。また会おうぞ」
「おう、じゃあまたすぐに、な」
ラムちゃんはいつまでも俺に手を振るイリスを引っ張って少し距離を取ると、なんらかの魔法を発動させ、俺の目の前から消えた。
……転移魔法も使えるのか。
あの年で……? エルフの魔力がすげぇってのは全世界共通の常識なのかねぇ?
『だとしたらランガム教なんかに滅ぼされてないんじゃないの?』
……確かにそれは言えてる。
って事はラムが特別なのか。尚更欲しくなったぜ。
『ろりこ……いえ、怒られそうだからやめとくわ』
言ってるようなもんじゃねぇかよ……。
まぁいい。とにかく俺達も目的地へ急ごう。
念の為にエルフの里をチェックして森を進む。
本来はレナが昨夜のうちに出て行ったように距離は結構あるのだが、スキル込みで全力で飛ばせばあっというまだった。
……ランガム教の拠点なんて言うから教会みたいなのとか宗教施設っぽい外見なのかと思っていたが、どう見てもただの砦にしか見えない。
……あちこちに見た事ない形の砲台が付いている。おそらく魔力を打ち出すタイプの砲台なのだろう。
『どうするの? 正面切って乗り込むの?』
……いや、あまり奴等がどんな奴等なのかを見たくない。
『殺しにくくなっちゃうから?』
……否定はしないさ。
覚悟は決めたけれど、それは実際の相手を見てしまったら簡単に揺らぎかねない程度の覚悟だ。
だけどすべき事は変わらない。やらなきゃならない事は問答無用であの拠点と敵兵を全て消し去る事だ。
『だったら……苦しまないようにやってあげなさい』
分かってる。
『またエクサーの時のセット使う?』
確かにあれをやればここら辺一帯を塵にできるだろうが……アレはさすがに頭がおかしくなるし嬉々としてぶっ放す気にはなれないからパスだ。
出来る限り単独の記憶で頼むよ。出来れば人としてまともな奴だと助かるな。
『ちょっと注文が贅沢じゃない?』
分かってる。無理そうか?
『待ってて、探すから。百万人居るんだから誰かいいのが居るでしょ』
……悪い。
ここを纏めて吹き飛ばすだけなら今までに使った記憶やスキルでもどうにかなるが……それじゃあダメだ。
『これなんていいんじゃないかしら? 星降りの巫女、だって』
正確に問題なければそれでいいから頼むよ。
俺の頭の中に星降りの巫女、逢魔聖良の記憶が流れ込んでくる。
『貴女が私を呼んだのですか?』
うおっ!?
『突然すいません。どうやら貴女は私の子孫……いえ、違いますね。私と魂を同じくする者、ですか』
急に頭の中に逢魔聖良の言葉が響いたので驚いてしまった。
記憶を今までに何度も呼び出してきたが、こんなふうに俺に直接話しかけてくるような奴はいなかった。
頭にその人を呼び出したとして、そいつは俺の記憶の一部として呼び出すだけであり俺がそいつのスキルを使用するためだ。
場合によっては体の主導権を渡し、本人として振舞ってもらう事だってあるし、数人纏めて呼び出すと負荷が大きくて頭がおかしくなる事もある。
だけど……呼び出した記憶が俺に語り掛けてくるなんて。
いや、邪竜は確かママドラに対して文句を言ったりしていたか。
という事は、少なくとも邪竜クラス……かなり上位の存在……?
『私の名前は逢魔聖良。貴女も私に星を落とせと言うのですか?』
……こりゃあやべぇのを呼び出しちまったな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます