第215話:作戦決行前夜。
「ヨーキスから準備が整ったとの連絡があったのじゃ。決行は明日じゃがそちらの準備はいいかのう?」
ラムの家に泊まらせてもらい、ついに明日が作戦決行日となった。
イリスはラムの事がかなり気に入ったらしくあれからというものずっと二人でなにやらお話したり遊んだりしている。
イリスも俺からしたらまだまだ子供だ。
そしてラムも、こんな状況下だからしっかりしようとはしているものの精神的には見た目通りの子供。
出来れば子供に嫌な思いをさせるような国にしてはいけない。
……ただ、相手の教徒にも子供は居るだろうし、むしろ子供の教徒だっているだろう。
俺達はそんな奴等を殺しに行くのだ。
『イリスとラムちゃんが二人で行くんだもんねぇ』
そう。それは親としてはかなり心苦しい。
小屋から出て、玄関先に座り空を見上げる。
時間的には夜だというのにこの空間は明るいままだ。
ここは外界とは完全に隔離された空間らしい。
ラムが言うには外と同じように夜にする事も出来るらしいが、明るい方がいいからという理由でずっと昼間にしているそうだ。
……絶対夜一人なのが怖いだけだろ。
「ミナト、ここにいたんだ?」
いつの間にか俺の背後にレナが立っていた。
ドアが開く音しなかったぞ……?
「私もそろそろレジスタンスと合流しなきゃ」
「もう出発するのか?」
レナは寂しそうに微笑んで、「うん。でもその前に少しいいかな?」と言って俺の隣に座った。
さりげなくめっちゃ距離が近い。
というか密着してくる。
そんでついでに言えば俺の袖をくいっと引っ張りながら上目遣いで見てくるとかこいつ……。
「私、頑張るからね」
「ああ、でも無理はするなよ? 心配はいらんと思うが、俺にとっては会った事もないレジスタンスの連中全員の命よりお前一人の命の方が大事だからな」
「……うれしい。でも、ダメだよ? 今のは聞かなかった事にしておくね?」
レナは少しだけ顔を赤らめて目を逸らした。
まったくよく出来た子だよレナは。
俺は本音を言っただけだが、確かに言うべき言葉じゃなかったかもしれない。
「でも、その……気持ちは伝わったから。必ず、きっちり、与えられた仕事はこなしてくるよ」
「おう、期待してる。でもやっぱりこれだけは言わせてくれ。最優先はお前が生きて戻る事、だからな?」
レナ再びこちらを見上げ、俺の二の腕に頭をくっつけて「うん、分かってる」と呟いた。
「私だってミナトと会えなくなるの嫌だもん」
今度は露骨に腕を回してぎゅっとされた。
さすがに俺もびっくりしたというかその、慣れてないので困った。
「おい、あまりくっつくなよ」
「誰も見て無いよ……? イリスはラムと遊んでるし……今は二人きり」
お、おい……。
「だから……出発前に、私と……」
そう言って胸元をはだけさせるレナ。
「お、おい! お、俺にはまだそういう心の準備がだな……!」
「えへへ、ちょっとは私の事意識してくれてるんだ? うれし♪」
「当たり前だろうが……まったく」
「……ありがと。それだけで私頑張れそう。離れるのはやっぱり寂しいし心細いけど……」
「レナ……」
彼女は俺に体重を預ける。その言葉からは少しだけ力が失われていった。
英傑といえどレナだって女の子だもんな。大事な闘いの前に心細くなる事くらいあるのかもしれない。
「隙ありっ」
心配して顔を近付けた俺の頬にレナが唇を触れさせる。
「うわっ!?」
「えへへ~♪ 無事に帰ったら続きしようね。それじゃ♪」
何か言いかえしてやろうと思ったのだが、レナは既に空間の切れ目に飛び込んでいた。
こちらに向けて振っていた手だけが、最後の最期まで空間の裂け目から覗いていた。
『もったいない事したわね?』
……そんな事ねぇよ。だってレナはちゃんと帰ってくるからな。
『あぁ、この戦いが終わったらミナト君が大人の階段を登ってしまうのね。イルヴァリース寂しい』
嘘つけ楽しんでるくせに。
『バレた?』
当たり前だろうが。
……無事に帰れよ。
レナは強い。英傑としての力もある。
だが、その肉体は普通の人間と変わらない。
本来ならラムの方に付けてやった方がマシだったとさえ思う。
だがあの状況でヨーキスを納得させるにはラムにイリスを同行させる方が確実だった。
それに、レジスタンスに混ざって戦うならイリスでは協力し合えないだろう。
むしろレジスタンスの連中から恐れられてしまうかもしれない。
そんな環境に娘を放り込む事は出来ない。
更に言うなら、レジスタンスと共闘、という意味ではレナは最適だった。
『そんなに心配しなくても大丈夫よ。あの子だって強いんだから』
それは分かってるよ。
……ただちょっと嫌な予感がしてな。
『だったら君がさっさとやる事やってレナちゃんに合流しなさい。君にはそれくらい余裕でしょ?』
……そうだな。こんな不安俺自身が消してしまえばいい。
かわいそうだが、俺が攻め込む予定の拠点にいる奴等は恐怖を感じる間もなく死んでもらう。
『どうせ死ぬならその方が幸せだと思うけれど』
……本当なら命の選別くらいしたいんだよ。
『甘いわ』
分かってる。だからもう覚悟は決まってるさ。
そこに居るのがどんな奴で、どこの誰だろうと知った事じゃない。
……皆殺しだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます