第214話:そんなんでも母親。


「一人でなどダメに決まっているでしょう!? それならレジスタンスを二手に分けて……」


「馬鹿者め。お主等だけで一か所攻め落とす事すら儂は不安なのじゃ。戦力分散などできるものか」


 確かにレジスタンス総勢百名ほどで五百は居るだろう拠点を落とすのはなかなかに厳しい物があるだろう。分散してる余裕など有る筈がない。


「しかし、それなら……せめて私だけでもボスの傍に……!」


「ならぬ。ヨーキスはレジスタンスの指揮をせよ。お主にしか任せられん。ダンゲルはあの性格じゃからのう」


「しかしボス一人だけなど認められるはずもありません!」


 ……ダンゲルって奴がどんな性格かは分からないが、ラムの言い方から察するに指揮を任せられるタイプではないんだろう。

 ならヨーキスはレジスタンスにとって必要な人材だ。


 ラムの術式はかなりの物だし、きっと単騎で拠点の一つくらいならいけると思うが、俺も心配ではある。


「……なら俺達が攻める拠点には俺だけで行く。レジスタンスにはレナ、ラムにイリスをつける」


 出来れば三人一緒に行動したかったが、今はそうするのが一番だろう。


 ギャルンが絡んでなきゃいいんだけどな。

 誰にもヘルプを頼めない状況であんな奴相手にすると考えただけで気分が悪くなる。


「レナは対複数に特化しているからレジスタンスの力になるだろう。イリスはこう見えて俺の……イルヴァリースの娘だからな。めちゃくちゃ強いぞ? それなら安心だろう?」


「う、うむ……そういう事であれば……」


 ヨーキスが悔しそうに頷く。俺達を全面的に否定できる状態じゃないからこいつも葛藤しているんだろう。


「なんと、儂らの部隊にまで力を貸してくれるんじゃな……なんと礼を言っていいものか」


「いいって事よ。それより、二人はそれでいいか?」


 俺の背後で何故か脇腹をつつき合う遊びをしてた二人に声をかける。


「私はいいよ。ミナトがそうしろっていうならやる。その代わりご褒美期待してるからね?」


「お、おう……考えとくわ。イリスは?」


「あたしもいいよ? ラムちゃんともっと仲良くなりたいし♪」


「だからラムちゃんと……まぁよかろう。イルヴァリースの娘が一緒となれば心強いのじゃ。こちらこそよろしく頼むのじゃ」


「イリス、だよラムちゃん♪」


 ラムの話をちゃんと聞いてるんだかいないんだか、イリスは自分の名前をちゃんと覚えてほしいらしくそこだけ突っ込んだ。


「う、うむ……ではイリスよ。頼んだのじゃ」


「まっかせてー♪ 邪魔する奴等は全ぶっころだから!」


 ……イリスはきっと今言ったように実行に移すだろう。

 敵だと認識したのならばそれが魔物だろうが人間だろうが嬉々として殺せる。


 それが頼もしくもあり、恐ろしい所でもあり、不安な所だ。


 だからと言ってこんな時に人間を殺すのは良くない、なんて説教をする気はない。無駄だ。

 むしろ迷いを生みかねない。


 親としては歯痒いところだ。


『イリスももう子供じゃないのよ。親の姿からきちんと学習してるわ』


 ……それが不安なんだろうがよ……。


 何せ本来見本になるべき親の俺が復讐の為に元仲間を殺す旅をしてたんだから。


『後悔してる?』

 ……いや、後悔は無い。俺は人としてはダメな事ばかりしてきただろうけど、それを後悔した事も間違った事だと思ってもいないさ。


『だったら大丈夫よ。イリスを信じてあげなさい』


 ……やっぱりそんなんでもお前はイリスの母親なんだな。


『そんなんでも、は余計よ』

 すまん。


『分かればよろしいっ♪ ……それに人としてダメって言うけど君今人間じゃないし』

 お前もそれ一言余計だね?


「よし、善は急げじゃ! 決行は二日後! ヨーキス、急いで各地に散ったレジスタンスたちを一同に集めよ!」


「はっ、仰せの通りに!」


 ヨーキスはラムに深々と頭を下げ、次に俺達を睨む。


「私が居ないからといってくれぐれもボスに妙な真似はするなよ……!」


 妙な事ってなんだよ……。

『ろりこんがバレているわ……』

 はいはいどうせろりこんですよ。

『み、ミナト君が認めた……!』

 はいはいうっせーうっせーうっせーわ。


『……嫌い』

 そりゃ光栄だね。


 というか……。

 ヨーキスの奴は俺が目を合わせたらだらだら冷や汗かいて目を逸らした。


「まだ怖がってんじゃねぇかよ……無理して文句言わなくても取って食ったりしねぇって言ったろ?」


「た、頼んだぞ!」


 ヨーキスはそう言い放つとすたこらと小屋から出ていった。


「なんかすまんのう。ヨーキスも、儂も……まだ六竜が目の前に居るという恐怖が抜けんのじゃ」


「分からんでもないからいいさ。俺だって初めてイルヴァリースと会った時は絶望したもんだ。むしろ半分は人間だから心配しなくていい」


「そ、そうか……うむ、信頼して良いのじゃな?」


 やっぱり誰かさんのせいでかなり不安にさせちまってるなぁ。


『誰の事かしらね? どこかのロリペド犯罪者のせいかもしれないわね!』

 まだ怒ってんのかお前……。


『ふんっだ!』

 こいつ……!


「まぁ俺は半分人間だがラムちゃんと一緒に行くイリスは正真正銘イルヴァリースの娘だから気を付けてくれよ?」


「……儂、今から震えが止まらんのじゃが」


「大丈夫。ラムちゃんが裏切ったりしなければイリスは敵だけをぶっころしてくれるよ」


「……は、はは……それは、心強いのじゃ……」


『……イライラしたからって幼女にフラストレーションぶちまけるなんて最低ね』


 否定はしねぇけど言い方もうちょっとなんとかなんねぇの?



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