第212話:百対十五万。
ラムとヨーキスの泣き喚く姿はなかなかに面白いのだがこれではいつまでも話が進まない。
「別に取って食ったりしねぇって。むしろ話次第じゃ協力したっていい」
「ふぇ……ほ、本当なのじゃ? ヨーキス、どう思う……?」
「ダメだ殺される……もうダメだおしまいだぁぁ……アホなボスが失礼な事言ったせいで私まで殺される……もう、ダメだぁ……」
ラムの言葉など耳に入っていないようでヨーキスはダンゴムシみたいに丸くなってガタガタ震えている。
「おいヨーキス! 今儂の事アホって言いおったな!?」
「ごめんなさいごめんなさいせめて私だけでも命だけはお助けを……!」
「よ、ヨーキス、貴様ぁぁ!!」
はぁ……これいつまで続くの?
「しゃーらっぷ!!」
二人は俺の叫び声に驚いて転げまわり再びガタガタ震える。
何言ってもダメだなこれ。
「にゃーん♪」
イリスが面白がって妙な声を出しただけで、二人は泡を吹いて気を失った。
おいおい、今までで一番の過剰反応じゃんかよ……ママドラさぁ、エルフに何したわけ?
『えっと……大昔にね、私を討伐しようとしたアホを大量に焼き殺した事があるくらいよ? 確かそいつらがエルフだったような……』
間違いなくそれじゃんよ。
やっぱり大森林から六竜が悪の化身呼ばわりされてるのお前らのせいだろ。
「レナ、俺達ちょっと外に出てるからこいつら起こして安全性を説明してくれ。俺らがいると話が進まん」
「分かった。任せて」
気を失ったヨーキスをつんつん突いているイリスを連れてドアの外へ出る。
しばらくぼけーっと時間を潰していると、中でドタバタ音が聞こえてきた。
「お、起きたか」
中の会話は意外と聞こえてくる。
ただ単に奴等の声がでかいだけかもだけど。
「い、イルヴァリースとその娘はどうしたのじゃ……? もう居ない? 儂は安全……?」
「あの……」
「ひぃっ!」
「私は普通の人間だから平気だよ」
「な、なんじゃ……そうであったか……してあの二人は?」
「とりあえずあの二人は敵じゃないから。とっても優しい人達だから怖がらないで」
「そう言われてものう……この集落に昔から伝わっておるのじゃ。六竜と目があったら殺される。遭遇したら死を覚悟せよ……と」
お前目が合っただけで殺してたの?
『そ、そんな事ない……と思う。たぶん』
あてにならんなこれは……。
「実はね、私の国でも六竜は恐れられてたんだ。でも実際話してみたらとても優しくて、私達の国も救ってくれたの。だから安心して」
いいぞレナ、もっと言ってやれ!
「こ、殺さないのじゃ……?」
「……怒らせたりしなければ、大丈夫じゃないかな?」
おい、そこは絶対大丈夫って言ってやれよ……。
『レナちゃんは英傑祭で君に分身をぐちゃぐちゃに殺されてるからねぇ……』
そういえばそうだった。
「よ、ヨーキス、お主はあの者達に失礼な事しとらんじゃろうな?」
「……っ、も、申し訳……腹を切って、お詫びを……」
「な、何をしたんじゃ貴様ぁっ!」
「ご、ごめんなさぁぁい! だって、だってぇぇぇっ!!」
「謝るのじゃっ! 今すぐ謝るのじゃっ! イルヴァリースは今どこに……」
「ドアの外。たぶん話聞いてるよ?」
「いっ、命だけは、私の命だけはぁぁっ!」
「こらヨーキス! 儂はどうした!? 自分だけ助かろうとしおって!」
「だって、だってぇぇぇ……」
……はぁ。
どうしたもんかなこれ。
ヨーキスだって殺し殺されの環境に居た訳だし死ぬ覚悟だってあったはずなのに。
六竜に殺されるって事自体が普通の死とは比べ物にならないほど恐ろしい物として伝わっているんだろうな。
ほんとこれだから六竜ってやつは……。
『え、私のせい!?』
どう考えてもそうだろ……?
『いや、話しがおおげさに伝わってるだけだってば!』
……どうだかなぁ。
その後。
たっぷり時間をかけて無害を説明し、やっと話が進められる状態までになった。
「で、ここはエルフの集落だったのか?」
「そ、そうじゃ。今生き残っているエルフは儂とヨーキス、それとダンゲルという男の三人しかおらんがのう。儂はババ様に隠れるよう言われて命拾いしたのじゃ」
ラムの話では、ヨーキスとダンゲルの二人は里の外に狩り出ていた為無事だったのだそうだ。
「儂は当時皆が殺されて行く様を見て見ぬふりをして震えている事しかできなかった……必ずや復讐してみせようぞ」
そう語るラムの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
確かに、それはとても辛い出来事だっただろう。
俺と同じように……いや、俺以上に復讐したいという気持ちは強いに違いない。
「……俺達は現段階の情報だけでレジスタンスの味方をする、とは言えない」
「分かっておる。敵に回らないだけマシじゃ」
「だけどな。俺個人として、なら……レジスタンスではなくラムの味方でありたいとは思うよ」
「お、お主……そんな事言われたら、期待してしまうではないか……」
そう呟いて潤んだ瞳を向けられたら、守ってやりたくなっちまうのは当然だよな?
『ろりこんだものね』
ちげーって。
「ミナトって、いつもそう」
レナが軽く俺の脇腹に肘打ちを入れてきた。地味に痛い。
「ところで今のレジスタンスの人数はどのくらいいるんだ?」
「だいたい百人くらいじゃのう」
百人か……思ったよりはいるが……。
「拠点を幾つか持っておってな、二十人前後の部隊に分れて行動しておるのじゃ」
って事はヨーキスの部隊は既に半数近く減らされた後って事か。
ヨーキスもそれを思い出してかギリリと奥歯を噛みしめる。
「ランガム教徒の数は?」
「正確には分らんが……推定十五万といったところかのう」
「マジかよ千五百倍じゃねぇか。それで本当になんとかなると思ってたのか!?」
見通しが甘すぎるというか、どう考えても無理だろう。
相手が本気になれば全員一気に皆殺しにされてもおかしくない。
逆に、それが行われていないという事はそこまでの脅威とすら思われていないという事だ。
「ぐぬぬ……仕方ないじゃろ。儂らとて最初は千人くらいはおったんじゃ」
それだって百五十倍だろうが。
「無理は承知の上。しかしやらねば……儂らがやらねばこのベルファ王国はおしまいなのじゃ」
「ベルファ王国?」
初めて聞くワードが出てきた。
「この国の昔の名じゃよ。ランガム教に支配される前のな」
俺は本当にここで十五万人を虐殺する事になるのだろうか……?
彼女に味方するという事は、きっとそういう事だ。
これは思っていた以上に覚悟を決めておいた方がいい。
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