第204話:ランガム大森林。


 あまりに食いつきがよかったのでシルヴァに大臣の息子テラの事を話してやると、なんだか一人で首を捻っていた。


「ふむ……それは経過観察が必要だな」


「奇遇だな、同意見だ」


 と、そんな事はどうでもいい。


「で、和平の件だけどよ」


「うむ、では報告を聞こうか」


 シルヴァは前に出た身体を椅子に深く座りなおして腕を組んだ。


「意外だな。全部見てるのかと思ったのに」


「ははは、僕もそこまで暇では無いという事だよ」


「この国の現在のありように関してはいろいろ文句言いたい事もあるが……まぁそれは俺が口を出す事じゃないからな。まぁいい本題だ」


 ダリル王……ライルから出された条件は一つだけ。


「和平には賛同するし出来る限り進めたいと考えている。だが、一つだけ条件がある、と」


「こちらとしては条件が一つだけ、という方が驚きだがね。新しい王は余程お人好しと見える」


 まぁライルだからなぁ。あいつも人に恨まれる事はしてきたとか言ってたけど、基本的には悪人に恨まれてるだけだろうし。


「条件ってのは割とどうでもいい事だ。和平を結ぶにあたって流通関係を整備したい。だが現状リリアを良く思わない国民も多いのでイメージ戦略が必要だ、と」


「なるほどね。しかしリリア帝国のイメージというのはダリルからしたら相当悪いだろうからね。そのイメージを払拭するのはなかなか骨がおれるだろう。どうでもいい事、とは思えないが?」


 はぁ。気が重い。


「それの打開策もライルから提案が出てるんだよ。俺はそれを使わずにどうにかしたかったんだけどな」


「なるほど、そこで君かい?」


「そうなる。リリア帝国、ダリル王国双方にとって知名度と好感度のある俺をどうにか活用したい、だってさ。ふざけやがって……」


 国同士の問題ともなると気軽に突っぱねる訳にも行かないから一度持ち帰ってこいつに相談してるという訳だ。

 まぁ相談の相手がこいつな時点で答えは出てるようなものだが。


「それは面白い。採用だ」


「どうせそうなると思ってたよ。言っておくが俺は協力しないからな。やりたければ勝手にやれ」


「……ほう? なるほどなるほど、そういう態度であるのならばこちらも考えがある。君が言う通り勝手にやらせてもらおうではないか」


 そう言ってシルヴァは凶悪な笑みを浮かべた。


『あーあ、しーらないっと』

 なんだよ怖い反応するな。


『こいつがああいう顔するって事は絶対ろくでもない事考えてるわよ』

 それはなんとなくわかるが……。


『じゃあ覚悟しておく事ね。いったいミナト君がどんな風に使われちゃうのか私心配だわー』

 それが棒読みじゃなければもっとありがたいお言葉だったんだけどな。


「ふふ、それはこちらで考えておくとしよう。それでミナト、次なのだが」


 きたよ……。俺にとってはこっちの方が余程厄介だ。出来れば面倒な事じゃないといいんだが……。


「以前も言った通り君には他国への調査へ行ってもらう事になる。出来る限り最低限の人数で頼む」


「最低限って何人くらいだよ」


「せいぜい君を含めて二~三人と言ったところか」


 ……それなら英傑の街を回った時のようにその都度必要なメンバーに入れ替えながら進めるしかないか。


「ちなみに国交は完全に遮断されているため入国自体が難しい」


「おいおいまさかとは思うが俺を何処へ行かせるつもりだ?」


 嫌な予感しかしない。てっきりシュマルあたりに行けと言われると思ってたのに。

 完全に遮断されてる国ってどこの事だよ。


「君はランガム大森林を知っているかい?」


 ランガム大森林……?


『うわ……まためんどくさい所ねぇ。あそこは真剣に六竜を悪の象徴とか言い出してる奴等が居るのよ』


「リースなら知っているだろうが、ランガム大森林というのは俗称、世間的には巨大な森としか認識されていない。しかしその実態は、ランガム教という危険思想の宗教団体が支配する国だ」


 ……森林なのに国なの?


『あそこは外からの侵入者を徹底的に排除する術式を張り巡らせているから……入るなら実力行使しかないわよ』

 そんなん入国から狙われるじゃねーか。


「リースに何を聞かされているところか分からないが入国の方法はこちらで用意できる。安心したまえ。その代わり、奴等に知られる事なく術式に穴をあけるのは準備がとても大変でね、一度開けたら次は無いと思ってくれて構わない」


「おい、それって……一度入ったら出てこれないって事か?」


「いや、出る事は出来るだろう。その代わり出たらもう入れない可能性があるからね。出る時は任務を果たした時だ」


 おいおい、その宗教団体になにしに行けって言うんだよ……。


「君に頼みたいのはランガム教が世界に対して何か企んでいる気がするのでその調査、そして同時に危険と判断したら殲滅してきてほしい」


「おま、馬鹿か? 気がする、でそんな所へ送り込んだあげく危険だったら国を潰してこいだと?」


 正気とは思えない。

 シルヴァはそれでも笑顔を崩さないあたり狂気じみている。


「君なら可能だと判断したから頼んでいるんだよ。それに何かよからぬ企みをしているのはある程度確証を持っている。問題はいつ動き出すか分からない所にあるんだよ」


『ランガムは昔から私達の事を目の敵にしてるからね……最近ゲオルの馬鹿が堂々と本来の姿になって空を飛び回ったでしょう? 絶対観測されてるわよアレ』


「……ママドラの話聞く限り、そいつらがヤバい事しようとしてるとして元凶お前らじゃねぇかよ……」


「はっはっは、それは仕方無い事だろう? 私もゲオルが力を解放してしまうとは思っていなかったのでね。少しばかり急がなければいけなくなってしまったわけだ」


『そう、私達じゃなくて悪いのはゲオルの馬鹿なの』

 そんなの一緒だよ。六竜のせいなのは変わんないじゃねぇか。


『それを言うなら君のせいでもあるわね♪』

 ああ言えばこう言う……。


「と、いう訳で一度入ったら気軽に戻る事はできない。メンバーは君を含めて三人として、人選はしっかりとね」


 あぁ、そうか……入れ替えも出来ねぇって事か。



 ……それはまずいな。

 人選どうすっかなぁマジで。



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