第203話:女体ドーム。
「あっ、ミナト様だ!」
「ミナト様よ!」
そんな声があちこちで広まって、気が付いたら物凄い数の耳と尻尾に囲まれていた。
『人数でカウントしてあげなさいよ……』
「さー英傑王のミナト君からみんなにありがたーいお言葉をおねがいしまっす♪」
ティアがそう言って俺の背中をもう一押しし、距離を取った。
あの女め……。
「あの、私達どうします?」
「別にこのままでいいと思いますわ。誰も気にしませんわよ」
俺の身体には今だにレナとポコナがひっついている状態なのだが……。
マジでこんな状態で何か言えって言うのかよ……。
民衆は息を呑んで俺の言葉を待っている。
マジか……。
「え、えーっと……俺が知らない間にこんなにも人々がここに集まってくれた事、嬉しく思う」
『よく言うわ』
「こんな短時間でここまで街の形が出来ているのもここにいるポコナや、英傑達……そして何よりみんなのおかげだと……」
あれ、なんでだろ。
突然涙腺がおかしくなった。
『へっ? 今の流れでなんで急に泣き出したの?』
泣いてねぇよ涙がちょっと出そうになっただけだ。
「俺なんかの元にこんなに集まってくれて本当にありがとう。至らない部分が多いだろうし、留守にする事も多いだろうけど……これからもよろしく頼むよ」
大歓声が響き、俺は軽く皆に手を振ってから逃げるように家の中へ飛び込んだ。
「ど、どうされたんですの?」
「もしかして人が集まったの迷惑だったかな?」
「別にそうじゃねぇよ。……てかお前らそろそろ離れろって」
家に入りソファーに座ってもひっついたままだった二人を引き剥がして対面の椅子に放り投げる。
「俺ほんとはこういう面倒なの嫌なんだけどさ……」
二人が不安そうな視線を向けてくる。怒られるとでも思ったのかもしれない。
「でも、なんていうんだろうな。必要とされるって……いいもんだな」
二人の顔がぱぁっと明るくなって再び俺に飛びついてくる。
「うわ、やめろって……」
「私もまざるーっ! 君達だけずるいゾ☆」
「うにゃっ! 私もですーっ!」
「じゃああたしもーっ♪」
ティアとネコとイリスまでソファーの上に飛び乗ってきてもう無茶苦茶。
『今ミナト君の人生ピークよ?』
それは否めない……。
「み、ミナト殿! 変なな所を触るのは、その……まだ早いというか……」
逃れようと手足をばたつかせたせいで近くに居たアリアのどこかを触ってしまったらしい。
「これは私も混ざれという事なのだろうか? いやしかし……」
「アーちゃんもこっちこっち♪」
「うわ、イリス殿……引っ張らないで……うわーっ!」
イリスがアリアをこのもみくちゃ状態の中に引き込んだのだけは分かった。
でも俺はもうできる限り自分が無心で居る事以外何もできない。
『なんでこんな役得を楽しもうとしないのかしらねぇ』
ここで俺がだらしない顔して「ゲヘヘ」とか言ってみんなの身体を触りまくったとしよう、その時点で俺は終わりだ。
『みんなは多分嫌がらないと思うけれど……?』
そういう問題じゃないの!
俺の自尊心とか自制心とかそういうあれやこれなの!
『はいはい相変わらずねぇミナト君も。さっきの涙で少しは心の壁が壊れたかと思ったのに結局距離を取ろうとしてるのね』
いや、距離も糞もないだろこの状態は……!
俺が一瞬でも理性を失ったらそりゃもうそこから先は後悔まみれの人生を送る事になる。
『何もしておかない方が後悔する気がするけれど……まぁいいわ。それがミナト君だしね』
俺に引っ付いたり伸し掛かったりして出来た女の子ドームの中で耐える事数十分。
気が付いたらみんな寝息を立て始めた。この状態で寝るとかどんだけだよ……。
ほんとに変なとこ触るぞ畜生め。
『あ、一応触りたい欲はあるのね。安心したわ』
いつも言ってるけどこちとら健全な男子なんでね!
「ミナトちゃんが帰ってきたって聞いたんだけど……って、うわなんだこれっ!」
「そ、その声はジオタリスか……頼む、一人ずつ引き剥がしてってくれ」
「えー……ごめん、さすがに関わりたくないわ」
ジオタリスの声が離れていくのを感じた。
「お、おいジオタリス、待てって。助けろ……」
もう彼の返事は無かった。
ほんとに見捨てていきやがったあの野郎……!
しばらくすると、何やらすぐ近くでカチャカチャと音がし始めた。
誰か居るのか?
「おい、誰か知らんが助けてくれ」
「……」
無言。
なんだ? この中の誰かが動いている感じはしないんだが……。
なんとか少しずつ少しずつみんなを押しのけてにゅっと顔を外に出すと、テーブルを挟んで向こうのソファに座り優雅に紅茶を飲んでいる男が居た。
「てめぇ……なんで今無視した?」
「ふふ……ミナトが帰ってきたという知らせを聞いて来たのだがね、随分と取り込み中のようだったので少し放っておいてあげようかと思って」
「余計なお世話だシルヴァ……! 呑気に紅茶なんか飲んでねぇでこれをなんとかしてくれ」
シルヴァの奴まで来たという事は、ダリルでの成果を聞きたいんだろう。
「仕方ない。少し待っていたまえ」
シルヴァが掌をふわふわと動かすと、俺の上に乗っかっていた女子達がふわっと浮き上がり、ソファに座らされていく。
「また妙な術を……」
「これくらい慣れればミナトにも出来るさ。それで……聞くまでも無いだろうけれどダリルはどうだったかな?」
「ダリルか……そうだな。新しい王が出来て何年か後に性別が同じ嫁が出来るかもしれんって事くらいだな」
「……ふむ?」
冗談のつもりでどうでもいい情報を出したつもりだったのに、シルヴァは興味深そうに顎を撫でながら身を乗り出した。
―――――――――――――――――――――――――
今回から新章突入、ですがその前の箸休め。
ミナト君へのご褒美回という事で(笑)
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