第202話:最高かよ。

 


「……な、なんだこれは……」


「ミナト! お帰り♪ ずっと待ってたよミナト♪」


 俺はダリルですべき事を終え、一度拠点に帰ってきた。

 馬車が通れるほどのホールを開けるのはやはり疲れる。


 それでも拠点に帰ってくればゆっくりできると思っていたのだが……。

 俺が返ってきた我が家は、というか我が家の周辺は、出発前とはまるで違う場所のようになっていた。


「ねぇミナトってば」


 さっきから俺に抱き着いて豊満なアレを押し付け甘えてくるのはディグレ……じゃなかった。英傑のレナ。


 ここまで露骨に甘えてくる感じじゃなかったように思うけれど、それだけ俺の帰りを楽しみにしてくれていたのだろう。それは嬉しい。

 嬉しいけどさ。


「なぁレナ、これは一体全体どういう事なんだ?」


「すごいですよねぇ私も見た時びっくりしちゃいましたよぉ♪」

「みんながんばったんだよまぱまぱ♪」


 やたらご機嫌な感じでネコとイリスも説明してくれるけど、俺はこんなのを見せられてどんな感情を持てばいいんだ?

 静かに暮らしたかっただけの筈なのに……。


「あいやーこれは凄いネ! もう立派な街ヨ!」

「確かにこれは凄いな……ミナト殿の街……素晴らしい」


 おっちゃんが驚くのも無理はない。アリアの感想は何か違う気がするけれども。

 俺達はたかだか一か月にも満たな間ここを留守にしただけの筈だ。


 それが、何をどうやったらこんな事になってしまうのだろう。


 俺の家から扇状に伸びるような形で、ちょっとした街が広がっていた。

 家の裏側は今までよりもずっと広い農地になっている。


「おっ、ミナトじゃーんおっかえり~っ♪ すごいっしょこれ?」


 能天気に手をぴらぴら振りながら家から出てきたのはティア。


「おいティア、なんだこれは……俺にも分かるように説明してくれ」


「そんなの簡単よ。ここに居る人達はみんな英傑王の街に住む事を選んだ。それだけよ?」


 ……英傑はそれぞれ街を管理していて、住民は誰の街に住みたいかでその年の住居を決める。

 確かにそんな話しは聞いていたが……。


「だからってこんな短期間にこんな事にはならねぇだろうよ。俺は街なんて持ってなかったし、誰がこんな……」


「じゃあミナトはさ、自分を頼って来た獣人たちを追い返すような真似をしたかな? きっとミナトならこうするってみんなで決めた事なんだゾ?」


『ふふ、一本取られたわね? きっと君でも同じ事してたんじゃないかしら?』


 だからってよぉ……こんなすぐ街の形が整うかぁ?


「さぁ今日もビシバシ働くのですわ野郎どもぉーっ! いい仕事をした人にはわたくしからとってもありがたい冷えた麦茶を進呈しますわーっ!」


「……おいティア、なんかここにいちゃならん奴の声がしたんだが……?」


「あの子は一番頑張ってくれてるんだからちゃんと褒めてあげなきゃだめよ? ほら顔見せに行ってあげなさいって♪」


「お、おい押すなよ……」


 俺はティアに物凄い力でゴリゴリ押されて無理矢理その人の元へ連行された。


「ビシバシ馬車馬のように働くのですわーっ! ほらそこっ! 怠けてないで……って、ミナト様っ!? ミナト様じゃありませんの! お待ちしておりましたわっ♪」


 俺の前にてとてと走ってくるなり抱き着いてくるこいつは、勿論リリア帝国の姫であるリリア・ポンポン・ポコナだ。


「ポコナ……お前こんな所で何してるんだよ」

「だって城にはお父様とヴァー……じゃなかった、えっと……シルヴァ? が居れば十分でしょう? わたくしがあんな所に押し込められる理由がありませんわっ」


 いや、お前姫だったら姫らしくちゃんとだなぁ……せっかくお前中心で帝国がまとまりだしたってのに……。


「貴様姫のやる事に何か文句でもあるのか?」


 じゃきん、と俺の顔のすぐ横にギザギザした刃の青龍刀が現れた。


「あんたも来てるのか……」

「当たり前だ。姫をお守りするのが私の使命だからな」


 背後から聞こえた声は間違いなくロリナだろう。

 こいつまでここに来ているとは……。

 なかなかに物騒な街が出来上がりつつある。


「それにしたっていきなり刀突き付ける奴がいるかよ……」


 そう言って振り返った時、俺の頭がバグったかと思った。


「……お、お前……それどうしたんだ?」


 ロリナの頭には、ちょこんと白い犬耳が生えていた。よく見るとお尻の方からふわふわした尻尾まで生えている。


 こいつ……新たな属性を盛ってくるとは侮れないな……。


 屈強な女戦士に犬耳と尻尾か……悪くない。


『君も節操無いわねぇ……』

 いや、これは誰だって……。


「な、なんだジロジロ見るんじゃない殺すぞ!」


「ポコナ、こいつのこれどうしたんだ?」


「あぁ、半獣化ですわ♪」

「……なにそれ」


 詳しく話を聞いたところによると、とてもアホな事がこの国に起きている事が分かってしまった。


 まず、奴隷市場は問答無用で廃止になり、奴隷制度もそれに続いて廃止。

 シルヴァが有能な魔導士に獣化と反獣化を伝授し、それが帝国内に広まる事でリリアの地に生まれた者ならばほとんどが意図的に獣人になったり人間の姿になったりできるようになったらしい。


 つまり、先祖返りビジネスが流行った。

 獣化屋というのが至る所に開業しているらしい。アホとしか言えない。


 今や人間の間ではその応用で半獣化というのが流行っているらしい。

 勿論獣人達も同じく半人化という術を用いて……つまりリリア帝国中が人の姿で獣耳と尻尾が生えてるような連中で溢れているという事だ。


 ……この短期間でこの国に何があった?

 こんなわけのわからん状態になっちまってこの国は大丈夫なのか?


 最高かよ。


『……最後の一言が無ければ国を憂いている感じが出てたのにねぇ……』


 もう一度言うぞ。


 最高かよ。

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