第201話:ダリル王妃。


 その後無事にテラの解呪、回復は終了し、これにてダリル城で起きていた問題は全て解決した。


 大臣の息子であり、毒を盛った犯人であるテラの処遇についてだが、祖父を思う純粋な心を利用されただけ、という事でお咎め無しとなった。


 幸運にも死者が出ていなかったのが大きいだろう。

 ライルもテラを責めるのは違うだろうと率先して彼の無罪を主張した。


 しかし、大臣はさすがに罪の意識を感じてしまったのか王候補からは退いた。


 よって、新たなダリル王はライルとなる運びとなった。


 ただし、テラがやった事は毒殺未遂事件だけではないので、もう一つの方はきちんと謝罪させなければならない。


 ……そこでおかしな事になってしまう。

 メイド服の窃盗について、盗まれた当人、つまりリーアの元へテラを連れて行った結果。


 自分のメイド服を盗んだのが大臣の息子と知って何故かリーアは大喜び。


「君ならなんだって似合うよ! 私のじゃサイズ大きかったでしょ? 今度妹が使わなくなった服沢山用意するから……あっ、むしろ私が仕立てるからさ、いろいろ着て見せてよ!!」


 ……だそうである。

 なんだかんだとその後うまくやっているのだとか。

 お互いの趣味趣向が完全に合致してしまった事で妙な絆が生まれてしまったらしい。


 ついでに言うならこれには後日談がある。


 ライルの即位やらなにやらでしばらく城に滞在していた間、ネコとイリスも役目を終えてこちらに合流したんだが……。


 そのネコが聞いてしまったらしい。


「あのテラって子なんですけどぉ……ライルさんの事がラブらしいですよぉ♪」


 ネコの話によると城の中を散策している時にテラとリーアが話しているところに遭遇し、「ライル様にアタックするならもっと自分に自信を持ちな! テラは可愛い! どう見たってめっちゃ可愛いから!」という発言を耳にしたのだそうだ。


「……へぇ」


 あまり首を突っ込まない方がいい案件な気がする。


 テラが毒を盛った理由は大臣を王にする事だった。そうすれば国がもっと良くなる、と言っていた。

 しかし、それ以外にも理由があったとしたらどうだろうか?


 例えば、大臣である自分の祖父が王になる事で自分は王の血統となる訳だ。

 王の孫ともなれば周りからの扱いも変わるだろう。

 そして一番王に近しい存在はライルである。


 ……つまり、そういう事なのかもしれない。


 多感な少年に幸あれ。


 数年後ダリル王が性別を越えた大恋愛をしようと、俺はもう知らん。何も知らん。面白いからどうにでもなれ。



「で、だよダリル王」


「はは、その呼び方はやめてくれないか。私の事は今まで通りライルでいい」


 王に謁見を求めた所、謁見の間などではなく以前と同じ彼の自室に呼び出された。


「まだ王としての自覚が無いのかお前は……」


「王なんてただの肩書だろう? すべき事が増えただけで何も変わってないさ。大臣のベイルにも手伝ってもらうしね」


「そうか、大臣の孫には優しくしてやれよ」


「勿論だとも。しかしあれだけ美しければ数年後には絶世の美女になっているかもしれんな」


 そう言って爽やかに笑うライルの表情からは嫌味の類は一切感じなかった。


 ……こいつ、もしかして。


「じゃあその時には妻にでも迎えてやればいい」


「さすがに年齢差がありすぎるだろう? 私も今後出会いなど無いだろうからやぶさかでは無いがね」


 このロリコンめ。

 しかしそんなロリコンが都合のいい勘違いをしている事でこの先面白くなりそうだ。


 さっきはもう知らんと思ったがこれは経過観察が必要だぞ……。


『君って人は……百合だけじゃ飽き足らずこっちもなの……?』

 あのなぁ、お前が言いたいのは男性同士とかボーイズラブだとかそういう話だろうけどこの場合は全く違う話だからな?


『えっと……? 何が違うのか分からないわ。男の人同士はぼーいずらぶじゃないの?』


 この場合男の娘という属性が入る。これは一概にボーイズラブと言い切ってしまってはいけないぞ。

『ごめん、ぜんぜんわかんない』


 俺だってそういうのが好きとかじゃないからな? 勘違いするなよ?


『はぁ……なんの言い訳なのかしら』

 言い訳じゃねぇんだって。要するに、世の中性別なんかどうでもよくて可愛けりゃそれでいいって人種がそれなりに居るんだよ。ライルもそうだったらこの先面白い事になるだろう?


『ミナト君の性癖は難解なのね……』

 だから俺のじゃねぇって言ってるだろうが!

 そういうジャンルなの! 男の娘と書いておとこのこ! 覚えときな!


『う、うん……使う事があるか分からない知識だけど一応覚えておくわね……人間って、不思議ねぇ』


「ライル、あの子は絶対お前の事好きだぞ。積極的に来ると思うから仲良くしとけ。それがお前の為にもなる」


「ふふ、それは楽しみだね。長い目で彼女の成長を待つとしようか」


「兄上……念のために言っておくがあんな幼い子に手を出すなよ……?」


 アリアがとても心配そうに見ている。そう言えばもしそこが上手くいけば自分の義理の姉……兄? となるわけだ。

 兄が居るのに年下の義兄が出来るというのも不思議な感覚だろうけど……まぁ、頑張れ。


『ほんと君は面白ければそれでいいのね』

 それをママドラが言うのか?

『……それもそうね♪』


「まぁその件はいい。それよりそろそろ本題なんだが……」


 うっかり忘れそうになってたけど俺の目的はライルを王にする事じゃなくてこの先、だからな。


「うむ、リリア帝国との和平の件、だったな。勿論和平については異論無い。ただ……」


 ライルはそこで真面目な顔になり声のトーンを落とした。


「一つだけ、条件がある」


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