第200話:騎士団長アリア・レイウェル。
「おいおい団長さんよぉ、あんたじゃ相手にならねぇって言ってるだろうが。俺は早くそこのミナトって奴をぶっ殺さなきゃならねぇんだわ。どけ」
「今なら無抵抗だから殺せると? 愚かな……ミナト殿の手を煩わせる程でもない。貴様の相手は私だ」
アリアは過去最高に騎士団長していた。
その後ろ姿がとても頼もしい。
「はぁー? てめぇに何ができるってんだよせいぜい俺の玩具になっていい声で鳴く事くらいだろうがよぉ!」
「私が国を出てから何もしてなかったとでも? 世界には沢山の強者が居た。私がそんな人達を前にただ手をこまねいていただけだと、そう思っているのなら大間違いだぞ!」
アリアがマッスルコンバージョンの重ねがけをしてガルナの腕を弾き飛ばす。
「けっ、たいしたパワーだが……あんたにはそれしかねぇだろうが。俺は知ってるぜ?」
「……本当にそうかその身をもって知るがいい!」
ふいに、アリアの姿が消えた。
俺もこちらに集中していたため注視していたわけではなかったとはいえ、完全に姿を見失った。
「な、なんだ? どこ行きやがった!?」
「どこを見ている」
突然ガルナの頭上に現れたアリアが剣を振り下ろし、それを受け止めようとした奴の腕を切り落とす。
「ぐぎゃぁぁぁぁっ!!」
「私が力だけの馬鹿だとでも思っていたのだろう? 少しは学習し、鍛錬を積んだのだ」
切り落とされたガルナの腕がうっすらと冷気を放っている。
今アリアが使ったのはマッスルコンバージョンの割り振り。
拠点で俺と訓練していた中で習得した技だ。
今までは全てを筋力に変換し、殴る蹴る切る斬撃を飛ばす、などが主な攻撃方法だったが……魔力を他の性質に変換する事が出来るようになった。
もはやマッスルコンバージョンとは言えないだろう。
例えば今の攻撃は自分の魔力を氷の粒子に変換し剣に纏わせていた。
アリアは魔法が得意ではないので炎を放ったり氷を放ったりなんて事は出来ない。
せいぜいその属性魔法に関する力を引き出す程度だ。
だがそれも使い様で、氷の塊を生み出す事ができずとも、ごく小さな粒子を発生させ剣に纏わせる事で劇的に切れ味を増す。
氷に変換しきれていない所こそが強みだ。
魔力を残したままの氷の粒子は剣と非常に相性がいい。
……だが、その前の姿を消したのは俺にも理屈が分からない。あんなのは知らない。
『解説たーいむっ!』
なんだよ急に大声出すな気が散るだろうが。
『解説たーいむっ!!!』
はいはい分かったから手短にな。
『説明しよう! アリアは水の粒子をまき散らし炎の粒子をぶつける事で目に見えないレベルの水蒸気空間を作り自分に雷粒子を纏ませてその中を自在に高速移動できるようになったのであるっ! たぶんっ!』
なんだそれ……まったく意味が分からん。
『とにかくすごいっ!』
……なるほど?
結局よく分からんが、アリアは魔法を扱うのがとにかく苦手だったが、マッスルコンバージョンであれだけ強化されるところを見るに魔力量自体は多いのだろう。
出力の時点で何か知らの制限がかかってしまっているのだろうが、逆にそれを利用する事によってまだまだ可能性が広がりそうだ。
勿論自分の周囲数メートル程度に限られるだろうが、近接戦闘においてあんな事されたらどうにもならん。
俺だって死にはしないが気が付いたら八つ裂きにされてる可能性がある。
遠距離からまとめて吹っ飛ばせばなんとかなるだろうけど、あまり室内で相手にしたくないタイプだ。
「俺の腕が……なにが起きたってんだ! アリアてめえ、何をした!? ……何かズルしやがったな!? お前がこんなに……」
……ズル、か。
アドルフの言葉を思い出した。確か奴もママドラの事を、そんなのずるい! とか言い出してたっけな。
お前ら多分よく似てるよ。
自分が勝てない理由を自分でも相手でもなく他の何かのせいにしようとするあたりが特に。
「こんなに強い訳がない、か? 残念だがそれはただの認識不足だ。次で仕留める」
再びアリアの姿が消えた。
ダメだな……ちゃんと見てても分んねぇや。
『君は治療に集中しなさい』
やってるよ。もう呪いも二つ解呪できてる。
難しいは難しいがやって出来ない事じゃないんだ。ただ時間がかかるってだけで……。
消えたアリアを恐れてガルナが闇雲に残っている方の腕を振り回すが、今の彼女にそんな物が当たる筈がなかった。
「貴様は私をマッスルコンバージョンだけの女だと思っていたようだが……」
背後に現れたアリアがそっとガルナの背中に手を触れる。
「だったら最後くらいはお前のよく知っているのを食らわせてやろうじゃないか」
「さ、させるかぁっ!」
ガルナが慌てて身を反転させ、鋭い爪をアリアへ振るう。
……が、途中で力を無くし、アリアの身体に微かに触れてそのまま地に落ちた。
既にガルナは、身体が二分されてしまうほどの大穴を開けられていた。
「……私を見くびるからだぞ。相手の力量を測り間違えると致命的なしっぺ返しをくらうと教えただろう。……もう、聞こえていないか」
アリアは呟くように、微かに聞き取れるほどの声で副団長だった者に別れを告げた。
「……この馬鹿者め」
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