第199話:犯人と黒幕。


「大臣、犯人を庇いたくなる気持ちも分かるけどね、ダメだよ。本人がまだ何も認めていないからね」


 今回は犯人を切り刻む事は出来そうにないな。

 その時点で僕のやる気はかなり半減しているのだが、やるべき事はやらないと。

 犯人に自分の罪を認めさせなければ探偵としての存在意義が無い。


「どうにも犯人が認めたがらないようだからね、僕も証拠を出すしかなくなってしまったよ」


 そこで初めて犯人がビクっと身体を震わせた。


 もしかしたら犯人は既に、毒を盛った事が露見するよりもこっちの方を恐れていたのかもしれない。


 僕はストレージからその証拠を取り出す。


「これを見てもらおうか」


「そ、それは……どういう事だ?」

「なんだそれは……?」


 ライル、そして大臣までもが驚いている。いや、どちらかといえば困惑か。


「見たままさ。メイド服だね。……少し前にメイド服の盗難騒ぎがあったのは知っているかな? これがその時のメイド服という訳さ」


「待ってくれ、それをどこで……あの時は大掛かりな持ち物チェックをしたはずだが……」


「ライル、どうせその時は兵士やメイドしか調べていないだろう?」


「……あぁ、メイドに横恋慕している兵士の誰かだろうという線が濃厚だったので……違うのか?」


 横恋慕、ね。確かに普通に考えたら変態の仕業になってしまうか。

 ある意味では当たっているかもしれないが……。


「これを盗んだ時はおそらく毒殺事件の計画を思いつく前で、単に趣味で盗んだだけだろうけどね」


 かわいそうだけれど、もう潮時だ。

 そうだろう? 犯人さんよ。


「ご、ごめ、ごめんなさい……」


 大臣は苦悩に顔を歪め、ライルは信じられないという表情で犯人を見つめる。


 犯人は大臣の孫テラ。

 メイド服を盗み、日頃から女装を趣味にしていた。


「何故じゃ……この際メイド服の事はいい、そんな事よりも……なぜこんな馬鹿な事をしたのだ……」


 大臣は辛そうに、しかし優しくテラの頭を撫でた。


「だって、だって……いつも頑張ってるおじいちゃんに王様になってもらいたかったんだもん。おじいちゃんが王様になればこの国はもっと良くなるから、だから……」


「だからといって人が死ぬほどの毒を盛ったり候補者を闇討ちするなど……」


「違うよ! 王様の親戚の人を襲ったのは僕じゃない。そんなの知らない……」


 おっと、それについて説明するのを忘れていた。


「サイラスが襲われたのは完全に別件だよ。今回の件とは関係ないから忘れてくれて構わない」


「そう、か……すまない」

「ううん。僕が悪いから……でも、そんなに強い毒だなんて知らなかったんだ。ちょっと具合が悪くなるだけだって言われたんだもん……なのにこんなことになっちゃうなんて……ごめんなさい」


 テラは大粒の涙をボロボロと流し、泣きじゃくった。


 さぁ、問題はここからだ。

 毒を盛った犯人はテラだと分かったが、テラが自分だけでこの犯行を考えたとは思えない。

 裏で糸を引いている奴がいる。


 そしてそれに関してはテラに口を割らせるしか知る方法は無い。


 僕が切り刻むべき相手はテラではなく、そちらだ。


「テラ、君は誰に毒を渡された? 話を持ち掛けてきたのはどこの誰だい?」


「それは……そこの……むぐっ、うあ゛あぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 突然テラが苦しみだしてその場を転げ回った。


「テラ、テラ! どうしたんじゃ!」


「くっ、大臣どけ! 僕が診る!」


 調べると、毒ではなさそうだ。

 それより質が悪い。

 あらかじめ面倒な呪いをかけられていたようだ。


 このままでは死ぬぞ。子供の体力では……!

 ちっ、せっかく良い所まで来たというのに……僕の出番はここまでだ。


 首謀者を切り刻む事無く退場などと……屈辱、屈辱だぁぁぁっ!!


『早く引っ込みなさい! ミナト君、しっかりして! 回復と解呪同時にできるわね!?』


 ……なんとかするしかねぇだろうがよ!


 この場にネコがいれば回復は任せて解呪にだけ専念できたっていうのに……。


 とにかく回復は継続でかけつつ、呪いを四種解呪できれば……。

 しかしこんな子供になんて事しやがる……!


「ちっ、クソガキが……もっと上手くやりゃあ王候補を殲滅出来たってのによう」


 そんなガラの悪い発言をしながら前に出たのは……。


 そうか、テラに良からぬ事を吹き込んだ馬鹿野郎はお前か。


「が、ガリアン……なんの冗談だ?」


 アリアがガリアンの前に立ちふさがる。


「団長様に俺が止められるかよ。作戦は失敗だったがここで貴様等を全員ぶっ殺せば同じ事だよなぁ? せっかく人が長年潜んでたってのに台無しだぜ畜生が」


「そんな馬鹿な……以前の騒ぎの時だってお前は私と一緒に街を守っていたではないか!」


「あぁ……そんな事もあったなぁ?」


 ガリアンはもはや人の形状から逸脱し始めている。鎧と顔はそのままに、手足はどんどん変化していき、やがてドラゴンにも似た硬そうな鱗で覆われた。


「そんな……」


「全部演技だよバァーカ! 俺様の本当の名前はガルナだ! 本当なら一緒になって大暴れしたい所だったけどよ、様子見してる間にそこのミナトって奴……そいつがアドルフの糞野郎を殺しちまった。んで俺様は出る機会を逃したってわけさ。そんな奴の相手をまともにしたくなかったからな」


 それで人間に化けたまま騎士団として魔物を切り伏せていたのか? 自分の身を守るために仲間を……?


「このまま副団長を演じてた方が楽そうだなァと思ってよぉ。しかし面倒な時に帰ってきやがって……分かったらどきな。団長さん程度じゃ俺の相手にならねぇよ」


「いつから……」


「あん? なんだって?」


「いつからそいつになりすましていた? ガリアンはどうした」


 アリアは感情を殺すように静かに、ガルナの返事を待つ。


「とっくの昔に食ってやったわ! 何も知らず俺様を信用する騎士団長様は滑稽だったぜ! でもな、いつもいつも偉そうに命令しやがってずっと気に入らなかったんだ。後で思う存分可愛がってやるから引っ込んでろ!」


 ガルナがアリア目掛けて硬質なその腕を振るうが、彼女はストレージから取り出した巨大な剣で簡単に受け止めてみせた。


「……見下げ果てた奴だ。貴様のような下郎には負けん。すぐにそのドブのような臭いの息を吐けなくしてやる」


「アリア、あと三分もたせろ!」


 それだけあればこの子の回復と解呪を終わらせてみせる……!


「ミナト殿はそちらに集中を。安心してくれ、私は三分とかからずこいつを仕留めてみせる。大臣と兄上は下がっていろ」



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