第198話:毒殺未遂事件の犯人。


 アリアはライルを放り出して皆を集める為奔走する。


 ライルはやれやれと肩をすくめながらその後をゆっくり追いかけていった。


 これでいい。後は、最後の確認だ。


 皆が移動を開始したらその間に確かめなければならない事がある。


 僕は皆の移動をこっそり監視しながら、目的の場所へ忍び込む。


 そして……。


 僕の考えが正しければここにはアレが……。


 よし、あった。


 これで間違いない。僕も広間へと向かおう。



「ご苦労様です!」


 広間の前まで来ると、副団長のガリアンが敬礼で迎えてくれたので軽く手を振って応え、中に入る。


「ミナト殿! 犯人が分かったというのは本当か!?」


 ぐるりと広間の中央に設置されたテーブルの周りを見回すと、そこにはライル、大臣のベイル、その孫のテラが並んでいる。


 これから何が起きるのかを察したらしいガリアンが扉の内側へ入り扉の前を塞ぐ。

 犯人が逃げ出すのを防ぐためだろう。なかなかいい判断だ。


 その必要は無いと思うけれど。


「集まってもらったのは、勿論犯人が分かったからだよ。これから少しずつ説明しよう」


 皆が息を呑む中、犯人だけは顔を真っ青にしていた。それも仕方ないだろう。本当ならお前が犯人だなんて僕も信じたくはない。


 でも真実はどうあれ事実は事実だ。


「まず第一に、あの日の食事で僕を含む四人全員に毒が盛られていた」


「なんだって!? 王候補を全員始末しようとしたのか? ミナト殿まで巻き込んで……犯人は何者だ!? まさかリリアからのスパイ……」


 狙われたのが自分だけだと思っていたらしいライルが急に慌て出す。

 こいつまだそんな段階で止まっていたのか。


「違う。いいから話を聞くんだ。毒は全員の箸に塗られていた事が分った」


「どうやってそれを調べたんだ……? 日にちも経っているというのに」


 ライルが不思議そうに首を傾げるが、話の腰を折らないでほしい。


「別にそれを詳しく説明してやる必要は無いだろう?」


「……それもそうだな。ミナト殿が特殊なスキルで調べたのだろう。私は信じる事にする」


 ライルの言葉に、俺の傍らにいるアリアも深く頷いた。


「もし犯人がどうしてもゴネるようならその時に詳しく説明してあげるよ。……で、僕は箸に塗られたと知って十中八九メイドの仕業だろうと思っていたのだがね……」


「違うのか? メイドなら可能であろう?」


 大臣が誰も信じられないという視線を隠す事なくその場の全員を見渡した。


「配膳をしたメイドは今実家に帰っているのだがね、追いかけて話を聞いてきたよ。それで分かった事がある。あの時、皆に料理を配膳したメイドは、直前で新入りのメイドに声をかけられている」


 それがファラから聞いた事。彼女は料理を持っていこうとした時に見た事がないメイドに声をかけられたらしい。


「その新入りのメイドはね、大臣は手を怪我をしているようなのでスプーンも一緒にお出しした方がいいと思います、と声をかけてきたらしい」


「なんと、では儂はそのスプーンのおかげで助かったという訳じゃな……その新入りとやらに礼を言わねばならぬな」


「いや、そうじゃない」


「何が、違うのじゃ……?」


 大臣がそこで何かに気付いたように目を大きく開いた。


「なるほど……その新入りのメイドとは誰だ? 包帯を巻いていた訳でもないのによく大臣の怪我に気付いたものだ。そんなに気が利くメイドが居るのなら私も鼻が高いな」


 ライルは呑気にそんな事を言っている。その新入りメイドこそが毒を盛った犯人だというのに。


「だから違うんだよ。新入りメイドはファラにスプーンも一緒に、と声をかけた。ファラはそういう事ならとスプーンを用意しに食器棚まで行くだろう? その間に毒を仕込んだわけだね」


「では、そのメイドが……?」


 ライルもここまで説明すればその答えにたどり着く。


 そして、大臣はもっと先の事にも気付いていた。


「な、なぁ……次期王の座はライルに譲る。だからもういいではないか。儂は気にしないし、ライルも無事だった。もうそれでいいのでは……」


「大臣、そうはいかない。ミナト殿、犯人は分かっているのだろう?」


「あぁ、分かっているとも」


 自白はしない、か。そういう事ならこのまま進めさせてもらうしかない。


「新入りメイドはそうする事によって全員に毒を盛りつつ、大臣を守った」


「ではそのメイドは大臣を王にしたかったという事か……そのメイドをすぐに探さなければ……!」


 ライルはどうも少々先走る癖があるようだ。

 こんな状況だから、かもしれないがもう少し落ち着いて語らせてもらいたいもんだね。


「ライル、その必要はないよ。新入りメイドは誰だか分かっているから。そうだろう?」


 僕が大臣を見つめると、彼は俯いてしまう。


「大臣が仕組んだとでも? ベイル殿はそんな事をする人では……!」


「落ち着けライル。話を最後まで聞くんだ。大臣は関係ないさ。何が起きていたのかまったく知らなかった。一応言っておくよ、自白するのなら今のうちだ。情状酌量というのもあるかもしれないからね」


 しかし犯人は動かない。


 ダメか。


「犯人は大臣が手を痛めていると知っていてこの計画を考えた……そして、大臣はしばらく表には出ていなかったからね。何故手を痛めているなんて知っていたんだろうね?」



「儂が全て仕組んだのだ……裁くのなら裁け!」



 確かに大臣本人が犯人なら手を痛めている事も分かって当然だがね、さすがにそれは無理があるだろうよ。



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