第189話:ダリルの王。
さて、これでシャンティアとデルドロにはいつでも飛べるようになった。
あとは王都ダリルまで行ってチェックしつつ、シルヴァに頼まれた事をやってさっさと拠点へ帰ろう。
なんだかんだと王都に到着するのに一週間以上かかってしまった。
それでも距離を考えたら大分順調に進めた方ではあるが、こう考えると陸路だけの旅っていうのは何かと不便だなぁ。
ある程度世界を回ってどこでも飛べるようになっておくのはアリかもしれない。
まぁそれは一通りやるべき事を終えて自由になってから考えればいいか。
「……なんじゃあこりゃあ……」
王都に入り、城を目指している最中だ。
中央広場にある銅像が目に入る。
「ほう、なかなかよく出来ているではないか! ミナト殿の美しさがうまく表現されている。これは兄の仕業だろうか? いい仕事をする事もあるものだ!」
なんだかアリアが一人で盛り上がってる。
「ほぇー、これごしゅじんですかぁ?」
「まぱまぱの像だ! すっごーい」
いや、こいつらも十分盛り上がってるな。
「おやおやお嬢さんこの像の人によく似ておるのう?」
「あはは、よく言われます~♪」
道行く老婆にそんな事言われて適当な返事をしたりしながら城へ急ぐ。
ダメだ、王都の連中にも俺の顔はある程度割れてるかもしれん。
早く城へ行って用事を済ませてしまおう。
そもそも誰だこんな像建てた奴は……本当にアリアの兄、たしかライル……だったか。あいつだったら文句の一つも言ってやらなきゃ気が済まんぞ……。
城へ到着するなり俺達を迎えたのは兵士の行列だった。
等間隔で綺麗に二列に並び、その真ん中に道が作られている……。
これを通れってか……?
「アリア団長、お帰りなさい。それとミナト様もよくぞおいで下さいました」
「うむ。私の留守中ご苦労だったな……ミナト殿、紹介しよう。副団長のガリアンだ」
兵士の列の先頭で俺達に深々と礼をした男をアリアは副団長ガリアンだと俺に説明した。
「いつぞやは挨拶する間もありませんでしたからね……アリア団長の面倒を見て頂きありがとうございます。大変だったでしょう?」
ガリアンはなかなかに爽やかな笑顔でそんな事を言い、「貴様、それはどういう意味だ!」なんてアリアに怒鳴られ、さらに笑う。
「あはは、団長も相変わらずのようで安心しました。それよりまだ公表していないのにどこで聞きつけたんです?」
……?
ガリアンが急に真面目な顔になってアリアに小声でそんな事を言った。
「公表……? いったい何の話だ? 私達は所用があって王に会いにきたのだが……」
「そう、ですか……偶然このタイミングに? こちらとしてはありがたいですが、そちらにしてみると運が悪かったかもしれません」
どうやら何かしらの問題が起きているようだ。
アリアはこちらをチラリと見て、小さく頷く。
「ガリアン、今ここで何か起きているのか? 私達で力になれるのなら出来る限り協力しよう」
いや、てっきり事情を聞くだけかと思ったんだけど? なんで勝手に協力するとか言っちゃうの? めんどくさい事になったらどうするんだいアリアちゃんよぉ……。
「実は、先日王が急病で亡くなりまして……」
「なんだと!?」
これは俺。つい叫んじゃった。
だって王が居ないんじゃ交渉も糞もないじゃないか。どうしてくれようか。
「……そうか、王が……それはいつの事だ?」
「団長、本当にご存知ではなかったんですね。だとしたらタイミングが良いやら悪いやら……王が急逝されたのは十日ほど前になります。しかし死の間際に遺言を残されまして」
どうすっかなぁ……今後の身の振り方を考えないと。この国で王の代わりに決定権を持っている奴なんかいるんだろうか?
ネコの顔を見たら具合でも悪くなるだろうなとは思ってたけどまさか再び会う前に死んじまうとは思わなかった。
待て、今遺言があるとか言ってたな。それで次の王が指名されているんだとしたらそいつと交渉すればいいじゃないか。
「その遺言ってのは俺達が聞いてもいいものか?」
「はい、今この城はその話でもちきりですので……実は新王についてなのです」
来た。来た来たそれを待ってたよ。
もしライルが新しい王になるとかいう事ならこっちとしてはかなり都合がいい。
「実は……自分が死した後、新たな王は城の皆からの推薦で決めよ、との事でして……」
……なんだそりゃ。手っ取り早く指名しろよ!
「で、その推薦ってのは? もう誰が王か決まったのか?」
「いえ、今候補者が三人に絞られまして、その三人の中から新たな王を決めるという段階で話が停滞しております。そこから先はさすがに我等も誰が適任なのか意見が分かれておりまして……」
ガリアンは困り果てた様子で頭を抱えた。
「ガリアン、それで候補の三人というのは誰だ? まさかその中に兄が入っていたりするのだろうか?」
「ええ、勿論ライル様は候補者の一人です。兵の中からも彼を推す声が多いので……他の候補者は、大臣のベイル様、そして王の遠縁にあたるサイラスという男性です」
「遠縁? 王の親類がまだダリルに居たのか」
二人のやり取りを聞いていると、なぜ意見が割れているのかなんとなくわかった気がした。
ライルは圧倒的な人望。
大臣は身分と国政に関わっていた功績。
親類は純粋に王の血統。
そりゃ確かに考え方次第で意見が分かれる所だろう。
普通に考えれば王の血統を持つ者になるところだが、かなり遠縁らしいので一応候補者に入っている、程度らしい。
「本日候補者三人での意見交換会……つまりは顔合わせを兼ねた食事会のような物があります。その席に是非皆様も同席して頂けませんか?」
……こりゃ新しい王が決まるまで身動き取れない展開か?
ぶっちゃけめんどくせぇ……。
『いっそミナト君が立候補してみたら? 多分人気的にはイケるんじゃない?』
アホか。俺なんかそれこそ完全に部外者だし王なんかになったら自由も糞もねぇ灰色の毎日が待ってるじゃないか。
『女の子選び放題よ?』
……なるほど。
『でも君が王になって好き放題やってるとリリアとの関係はぶち壊しね』
なんで?
『だってポコナちゃんがそんなの許すはずないじゃない。下手したら戦争よ戦争。……いや、むしろ国同士のつながりを強くするためとか言って結婚を迫ってくるわね』
……やはり俺は王の器ではないな。うん、間違いない。
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