第190話:リリアからの使者。
「おお、アリアにミナト殿ではないか!」
ガリアンに案内されライルの自室へ顔を出すと、突然両手を広げて俺達に抱き着こうとしてくるので当然俺はかわす。
アリアはライルの腹に軽めのボディーブローを入れて回避。
「ぐふっ……ひ、久しぶりなのだからそれくらいいいでは無いか……」
「お前勝手に俺の像なんか建てやがって……」
「像はいい出来だったがいきなりハグはないだろう」
ガリアンに聞いたのだがやっぱり俺の像を作ったのはライルの指示だったらしい。
アドルフが死を向かえた場所の上に俺の像を建てるなんて悪趣味な事をしやがったんだから文句の一つも言わないと気が済まん。
「うぅ……相変わらず暴力的な妹だ……。しかしあの像の出来の良さは理解できたようだな。ミナト殿には悪いと思ったのだが、そうでもしないとあの広場に人が近寄らなくなってしまったのでな……」
……そう言われてみればそうかもしれない。
街の人からしたら首だけで喋ってる大罪人が処刑された場所だもんなぁ。
気味悪がって近寄りがたくなるのは分かる。だから代わりに観光スポットみたいにして俺の像を建てる事でイメージの払拭をしようとしたんだろう。
そう考えると理に適っている。俺を利用したのは許せんが、オリオンと違ってきちんとした理由があるので怒るに怒れなくなってしまった。
「ところでこんな時にダリルになにか用事だろうか? 生憎といろいろ面倒な事になっていて力になれるかどうか……」
「兄上が時期王候補になっている事は聞いている。私達はリリアからの使者として来たのだ」
「……リリア帝国からの、使者? どういう事か説明してもらえるか?」
アリアの言葉を聞いてライルは急に真面目な顔になった。それもそうだろう。妹が何故か敵国の使者として来たなんて理解できないだろうからな。
仕方ないのでこれまでの過程を一通り分かりやすくいろいろ端折りながら説明した。
ライルは時に驚き、時に頷きながら俺の話を聞き、説明が終わる頃には涙を浮かべるほどだった。
「なんと……ミナト殿はリリア帝国までも救済していたのですね……しかも同盟の話まで……」
どうやらライル自体は同盟に賛成のようだ。
彼は常々いがみ合っている今の状態は不毛だと王に言い続けていた立場らしい。
「実際大規模な戦争になどなれば敵国の戦力が圧倒的優位なのは分かり切っていた事なのです。無駄な闘いをして死者を出すくらいなら同盟を結んでしまった方がいい。しかもお互いが同じ立場としての同盟だというのならば尚更だ」
「その反応を見て安心したよ。ライルが次の王になれば同盟はスムーズに進むだろうな。他の奴がなった時はどうだか知らんが」
物分かりが良い連中ならいいんだが、ライルは首を横に振った。
「大臣のベイルはまず無理でしょうね。何せ前王と同じでリリア帝国の事を目の敵にしておりますので……万が一戦争にでもなろうものならこちらも全力で応戦すると豪語しておりましたから……」
ライルはソファに腰かけ天井を仰ぐ。
「もし王がベイルになれば同盟どころでは無いと思います。そして、サイラス……あの者については正直何も分かりません。自分が王の血縁だと知り合いに話していたらしく、こちらに情報が流れてきたので徹底的に調べましたが本当に血縁らしいのがなにせ面倒だ」
ライルがこの反応をするって事はベイルもサイラスもめんどくさい奴なのは間違いなさそうだ。
「今日食事会があるんだろう? ガリアンからそれに同席するように言われてるんだが……」
「ミナト殿が? それは大歓迎です。万が一の場合取っ組み合いの喧嘩に発展する可能性もありますからね」
そんな事の為に俺を同席させるのか?
ちょっと理解できないが、こちらとしてはさっさと王を決めて俺の仕事をしないと。
だからもう少しばかりこの城のいざこざに首でも突っ込ませてもらおうか。
ライルが王になれば話は早い。そうすればこのまま進めさせてもらい、もし他の二人が王になるようなら申し訳ないが力づくで言う事聞かすしかない。
説得はするがサイラスって奴はともかく大臣の方は無理だろう。
最終的には強引なやり方を取るしかなくなる。
「ではそろそろ準備ができる筈なので皆さんも……」
うーん、流石にこの人数で割り込むにしては場が場なんだよなぁ。
『やぁミナト。無事にダリルに到着したようだね』
「うわぁっ!?」
急に悲鳴をあげた俺の様子に皆が驚いているが誰よりも驚いているのは俺だ。
「その声……シルヴァか??」
『あぁ、君に通信を入れたのには理由がある。実は戦力を少しこちらに回してもらえないかと思ってね』
「戦力って……英傑があれだけ居るのに何を言ってるんだ」
『それぞれの戦力は申し分ないのだがね、何分同時進攻を受けていてこちらとしては一人でも頭数が欲しい所なのだが』
「ミナト殿、どうかしたのか? もしかしてシルヴァ殿からの?」
「ああ、今リリアがあちこち同時に魔物に攻め込まれているような状態で少しでも戦力がほしいんだと」
「ならば私が行こう。役に立ってみせるぞ」
アリアが、任せろと言わんばかりに胸を叩く。
「ダメだ。今回はダリルの、そしてお前の兄の問題でもあるだろう? お前は居た方がいい。むしろ俺が行った方が……」
「まぱまぱ、それならあたし行ってくるよ?」
「じゃあ私が送りますよぅ。アルマさんもエネルギー満タンですし♪」
そう言えばアルマもホール使えるんだったな……。
「……分かった、悪いけど頼めるか?」
ぶっちゃけこの二人を別行動させるのはとっても心配。イリスは娘として心配。ネコはいろいろな意味で心配。
『まーこの子達はもう大丈夫よ。仮にギャルンってのが来たって追い返せるわ』
そりゃ頼もしいね。だったら周りに迷惑かけないかどうかを心配する事にしよう。
『君みたいに街の目の前にでっかいクレーター作ったりしないわよこの子らは』
……なんも言えねぇ。
「あたしにまっかせてー♪」
「私も頑張りますぅ。ここに居ても難しい話よく分かんないですし」
「おいシルヴァ聞いてるか? そういう事だからこっちからイリスとネコをそっちに向かわせる。どこへ行けばいい?」
『ふむ、リースの娘とアルマか……戦力としては申し分ないな。ではその二人をまず帝都まで。そこから先必要な場所への転送は僕が責任持って対応させてもらう。協力に感謝するよ』
ネコとイリスは二人して俺にぎゅーっと抱きついてきた。
「がんばるね♪」
「頑張ってきますぅ♪」
それぞれ同じような事を言って顔を合わせて笑う。
「うにゃ~、アルマさん、よろしくお願いしますね♪」
二人はアルマの力によりホールを通ってリリアの帝都まで発った。
「ふ、二人は……どこへ?」
「ライルは気にしなくていい。それより会食に参加するのは俺とアリアの二人だ。それでいいな?」
こっちの件を早く片付けて迎えに行ってやらないとな。
むしろさっさと片付けてあいつらの方がもう一度こちらに来るかもしれないが。
そこで首を傾げたアリアが不思議そうに呟いた。
「私は参加しないぞ?」
……え、そうなの?
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