第188話:ざまぁみやがれ畜生め。
その後俺達はデルドロに立ち寄ったのだが……。
街に入ってデルドロ焼きを食ってたら、「もしかしてミナトさんですか?」と住民に声をかけられて、そうだと答えたらあちこちからぞろぞろと人が集まってきてしまって取り囲まれ大変な事になったのでオリオンの家に逃げ込んだ。
「はっはっは、その様子だと大変な目にあったようだな」
「街の様子はどういう事だ? なんでこんな事になった……?」
オリオンが言うには、以前鉱石の採掘所での魔物退治後、採掘が復帰した事で街の財政がかなり持ち直したらしい。
で、少しばかり時間が経ってから俺の功績だったってのが評価されるようになったんだそうだ。
その時は俺の外見やら名前やらは公表してなかったそうだが、王都での騒ぎでまず俺の名前と顔が指名手配で広まり、その後濡れ衣だった事や魔王を撃退したというのが明らかになった時点でオリオンが採掘所もミナトが解決したんだ、という話を公表したらしい。
ご丁寧に女になった後の顔まで用意しやがった。
俺の外見情報流用するとか個人情報の管理どうなってんだよ。
どうやらミナト・ブルーフェイズという名前はダリル王国では英雄視されるようになってるらしいが、シャンティアでは俺の今の顔を知る人がいなかったので騒ぎにならなかったようだ。
……王都に行くのも不安になったが、オリオンはこの街でしか今の俺の顔を公表してないらしいので多分大丈夫だろうと笑っている。
「この街で君は英雄なのだ。本人が来てくれた事でさらに箔が付くし今後も賑わう事だろう。いやはや立ち寄ってくれて感謝するよ」
「てめぇ……商魂たくましいというかなんというか……」
「商売上手、と言ってほしいね。君はこの街にとって既に金の生る木なのだから。魔王を討伐した英雄がデルドロ焼きを食べ、味に感動して採掘所の魔物を退治してくれた、という流れはこちらとしては非常に都合がいい」
うぇ……なんだそれ。
俺デルドロ焼きに感動して街を助けた事になってんの……?
「そんな顔をするな。何事にもストーリーというのは大事なのだ。これくらいは許してくれてもよかろう?」
「別にいいけどよぉ……俺はあまり目立つのは好きじゃないんだよ。しかもさっきまたデルドロ焼き食ってきちまったじゃねぇか……」
「なんだと? それは良い。デルドロ焼きの味を忘れられずにお忍びで再訪した、ともなればさらに我が街の名物に箔が付くという物だ! でかしたぞ!」
でかしたぞじゃねぇんだわ……。
「分かった分かった、もうその件はいいわ。いちいち怒るのもめんどくせぇ……その代わりと言っちゃなんだが……」
「ふむ、なんだね? 出来る事ならば大抵の事はしてやろう」
「じゃあネコが腹いっぱいになるまで飯食わせてやってくれ」
「うにゃっ!?」
俺とオリオンのやり取りを遠目に見てるアリアと違ってネコとイリスは部屋の中を落ち着きなくうろうろしていたのだが、こういう話題には敏感なところはさすがである。
「う、うむ……分かった。では今日は泊っていくといい。可能な限り満足のいく食事を用意させてもらおう」
「言ったな? おいネコ、今日は好きなだけ食え。いや、腹が破裂するまで食い続けろ」
「うにゃっ! それはとっても嬉しいんですけどなんだかごしゅじん怖いですぅ……」
ネコがネコ耳をぴこぴこさせながらこちらの様子を伺っている。俺の真意がどこにあるのか考えてるんだろうか?
こいつ絶対今までの話聞いてなかったな?
「この街の食い物全部食い尽くすつもりで食え。腹が一杯になったからってごちそうさまは許さないからな」
「う、うにゃぁ……頑張りますけど……あっ……」
ネコが一瞬頭に手を当てて固まる。
「にゃんにゃんどーしたの……?」
イリスが心配そうに駆け寄るけど、どうやら心配は要らないらしい。
ネコがこちらをチラっと見て、ヘラっと笑ったかと思ったら親指をグッと立てて合図してきた。
……アルマと何かしらの話がついたのかもしれない。
そしてその日の夜、暴食の限りを尽くしたネコがオリオンに次から次へと食事を求め、食材が尽きた時点で館を破壊するとかとんでも無い事を言いだし、最終的にはオリオンが泣きながら頭を下げ続けるという結末になった。
俺としては大満足だったのだが……。
「た、頼む……もう、しばらく来ないでくれ……」
翌朝げっそりしたオリオンにそんな事を言われてしまうくらいには大打撃だったらしい。
それはそうだろう。途中で食材が足りなくなって使用人を何人も街中の店へ走らせていたくらいだったからな。
人を街おこしに利用しようとするからそうなる。ざまぁみやがれ畜生め。
当のネコは尋常じゃないほどの食事を平らげていたにも関わらずケロっとしていた。
追い出されるようにデルドロを出発し、馬車の中でネコに暴食のカラクリを聞いたのだが……。
「あー、あれはですねぇ、アルマさんが食べたら食べ多分自分のエネルギーとして吸収し続けていたのでぇ……別に私があんなに食べる子だったわけじゃないですからねぇ?」
そんな言い訳染みた事を言いながら顔を赤くしていた。
こいつにも恥ずかしいっていう感情があった事が驚きだが、これでオリオンにもいいお灸になっただろう。
人を利用して自分が私腹を肥やそうとしたらしっぺ返しがあるんだぞって事を理解させる事ができたならそれでいい。
そのせいで街の食料が少しの間足りなくなった所で住民の苦労は全てオリオンの責任だ。悪く思わないでくれよ?
その分俺が絶賛した事になってるデルドロ焼きで観光客でも呼んで頑張れ。
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