第187話:やっぱり女はよくわからん。


 翌日。


「も、もう行ってしまうのですか……? あと一日……いえ、あと一週間……いや、あと一か月でも一年でもここに居て下さっていいのに……」


 毎回この流れはちょっと心苦しい物がある。

 レイラは目に涙を溜めて俺の手をぎゅっと握った。


「お姉ちゃん、あんまり重い女アピールしてると本当に帰って来てくれなくなっちゃうよ?」


「そ、それは困りますっ!! ……分かりました。私は良き妻として主人の帰りを待つだけですわ」


 おーい、なんか今妙な言葉が聞こえたんですがそれは?


『モテモテねぇ♪ せっかく立ち寄ったんだから抱いてあげれば良かったのに。この子もきっと喜ぶわよ? なんならもう一日くらい……』

 うっせーっ! 俺にそんな度胸あるわけねぇだろうが!


 この脳味噌真っピンクドラゴンめっ!


「ほんとは俺ももう少しゆっくりしていきたい所なんだけどさ、今は国同士の大きな動きに巻き込まれててダリル城まで急いでるから……」


「分かってます。分かっております。無理を言ってミナト様の足枷にはなりたくありませんので……」


 そこまで言うと何故かキッとネコやアリアへ視線を向ける。


「私は一緒に行けませんし、行っても足手まといになってしまうでしょうから……一緒に行ける貴女がたにミナト様はお任せします。ですが……私、負けませんから」


 そんな事言われても別にそいつらだって俺のなんでもねぇってば……。


「えへへ、ごしゅじんは共通財産だから心配しなくて大丈夫ですよう♪」


「し、心配しなくても私は、その……そういうのでは……も、勿論ミナト殿が望まれるのであれば……その……」


 お前らも妙な反応するんじゃねぇよ。


「いやぁワタシまで部屋を用意してもらえてうれしかったネ!」


 妙な空気をおっちゃんが全部ぶち壊してくれた。偉いっ!


「レインちゃん、またねーっ♪」


 イリスはレインとぶんぶん握手してる。レインの腕が引きちぎれたりしないあたりちゃんと力加減は出来てるみたいで安心した。


「いつでもまた寄るといい。必ず歓迎しよう」


「おう、でも来るたびにあんなに大量の食事用意しなくていいぞ。ネコがつけあがるからな」


 見送ってくれたノインにそう言ってやると、みんなが盛大に笑う。


 当のネコ以外は、だが。


 ネコはほっぺたを膨らませて俺の背中をぽかぽかと叩いているが無視。こいつは遠慮せずに食い過ぎなんだ。少しくらい自重する事を覚えた方がいい。


「じゃあまた。元気でな」


「……はい。ミナト様こそお気をつけて。そうだ、ミナト様の無事を願っておまじないをしたいのですがよろしいですか?」


「おまじない? ああ、じゃあよろしくたの……むっ!?」


 ほんの少し、軽く触れるだけだったがレイラが俺の唇を塞いだ。


 ポコナの時と違ってこれは完全にふいを突かれた。まさかレイラがこんな強硬手段に出るとは思って無かったから。


「お姉ちゃんナイス!!」


「で、では私はこれで……お、お元気で! 私、待ってますからぁぁぁっ!」


 俺が何か反応する前にレイラは顔を真っ赤にして家の中に駆けこんでしまった。


「お、お姉ちゃん待ってよ! ……まったく、度胸があるんだか無いんだか……ミナトさん、お姉ちゃんが急に変な事してごめんなさい」


 いやお前さっきナイスとか言ってたよね?


「でもあの人本気なんで。ここにミナトさんの事大好きな人が居るんだって事だけ覚えておいてあげてくれると嬉しいです」


 レインはそう言ってぺこりと頭を下げ、レイラの後を追っていった。


「はっはっは! レイラもなかなかやるようになったものだ。レインも言っていたが是非検討を願うよ。君なら大歓迎だ」


「おいおい……あまりからかわないでくれよ」


 ノインだけになってしまった見送りに手をふりつつ俺達も出発する事にした。


 勿論いつでも立ち寄れるようにチェックはしっかりしておく。


『なるほど、我慢できなくなったらいつでも夜這いが出来るようになったわけね』

 おれはもう突っ込まないぞ。


『突っ込む物がついてないってね!』

 殴りてぇ……。


 ママドラの発言がどんどん下品になっていくのは気のせいか? それとも元々こういうドラゴンなのか?


「ミナト殿は本当に人気者だな……ポコナ姫とも……それにレイラ殿まで……」


「人間ってのは自分の人生に大きく関わった人間の事を好きって勘違いするもんなんだよ。皆そのうち落ち着くだろ」


 キララみたいに妄執に捕らわれるタイプの女も居るけどな……。

 だからこそ女は怖い。愛情がいつ殺意に変わるか分からんからな。


『君は変な人に好かれる才能あるしね』

 俺の周りにいる奴等はキララよりマシだろうけどな。


「ミナト殿……きっとそれは違うぞ。少なくともポコナ姫も、レイラ殿もミナト殿を本当に心から好きなのだと思う。きっかけが何だったとしても、その気持ちだけは本物だと思う……だから、その、何が言いたいかというと……」


 俺は目の前でわたわたしているアリアの頭を軽く撫でた。


「ひゃっ、な、何を……」


「いや、お前の言う通りだと思ってさ。俺だって分かってはいるんだが……さっきの言い方は俺の事を好きでいてくれる人に対して失礼だった。ちゃんと言ってくれて助かるよ。今後も俺が間違えたら指摘してくれると助かる」


 言ってる事を素直に受け入れられる相手なんて俺の周りにあまり居ないからな……。


 確かにポコナやレイラが本気なのだとしたら俺の考え方は失礼だったと思う。

 考え方が簡単に変わる訳じゃないけれど、それを表に出すのだけはやめよう。


 ばたんっ。


 なんで今の流れでアリアがぶっ倒れるんだよ……。


『分かったフリしてもミナト君はミナト君だって事よ』


 わからん。やっぱり女はよくわからん……。



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