第184話:解決後に待つ一難。
その後はもうなんていうか大変だった。
ケモミミ尻尾女子軍団に取り囲まれて頭がパンクしそうになりながら、なんとか状況を整理していく。
リリア帝国での魔物騒動は一通り片付いたとみていいだろう。
デルベロスを始末した事、そして魔物の大群を皆で協力して倒した事。
それを帝国中に中継した事により協力関係もアピールできた。
で、問題なのはここからだ。
ギャルンが来て、帰り際に妙な事をしていった。
多分デルベロスが使った先祖返りの簡易版みたいな物なんだろうが、男女関係なくみんなケモミミと尻尾が生えてしまった。
完全なる獣人にまで戻らず耳と尻尾だけというのが完全に俺の好みを射抜いていてそんな女性陣に囲まれた俺は冷静さを保つのが大変だったのは言うまでもない。
『アホね』
それはともかく、イリスとティアは特に変化が無かった。ティアは自分がどんな風になるのか楽しみにしてたらしく残念がっていたが、この上ティアまで耳やら尻尾やら生えたらとんでもない事になってしまうので俺的に一安心。
でもティアのもちょっと見てみたかったって気持ちはやっぱりある。勿論イリスもだ。絶対可愛いもんな。
『アホね』
んで俺はと言えば……。
どうやら狼らしい。そう考えると俺の中にもまだ人間だった部分が残っているという事だろう。
完全にドラゴンだったら先祖返りも糞もないから。
で、エクスはというと……。
「ふむ、余の高貴な姿にぴったりではないか。よいぞよいぞ」
とか言ってご満悦だった。何の耳と尻尾が生えたのかと言えば、獅子だ。見たまんまかよと突っ込みを入れたくなる。
どうせなら猿か何かにでもなれば良かったのに。そしたら盛大に笑ってやれたんだが、こんな所まで完璧で腹立つわ。
『アホね』
中途半端に獣人化したみんなをぞろぞろと引き連れて俺達はシルヴァの所まで行った。
治してもらわなきゃならんから。
そこでギャルンの言ってた事の意味がやっと分かる。
俺達が到着するのをシルヴァは本当に嫌そうな顔で出迎えてくれた。
「確かギャルンという魔物はカオスリーヴァの分身体なのだろう? 別個体とはいえ同一個体だった頃の記憶はあるという事か……本当にやっかいな事ばかりしおって……」
ギャルンはとにかくシルヴァに嫌がらせをしたかっただけらしい。
この人数を元の姿に戻すという事はシルヴァにとってもかなり労力を使うらしく、一日五人までと制限を付け、一般兵士達を優先的に回復させていった。
その後が英傑。そして最後に俺達。
俺達は最後に回されても文句はないだろうという判断だったらしい。
「ふぅ、これで君達を元に戻せば今回の獣化騒動は本当に終了だ」
「じゃあサクっと頼むわ」
「ミナトよ……僕はもうかなり疲れた。君はいっそもう少しそのまま耳と尻尾を生やしたまま居るのはどうだい? とても可愛らしいのでもう少し眺めていたい気分なのだが」
なんだこいつそういう趣味があったのか? ちょっとだけ親近感がわいた。
『アホばっかり……』
「まぁ冗談はさておき、だ。元に戻すのでこちらにきたまえ」
三十分ほどかけて俺達を元に戻すと、さすがに疲れたのか床にどっしりと座り込んで肩で息をしていた。
『今回は私に言わせてね』
何を……?
「ざまぁみろ!」
ママドラは体の主導権を奪ってそれだけ言うとすぐに引っ込んでいった。
『あぁースッキリ♪』
「む、今のはリースだな? 息災で何よりだが久しぶりにかわす言葉がそれとは……」
「お前人望ねぇなぁ……」
さすがにちょっとだけ哀れに思えたが、それもこれも自業自得というやつだろう。
「ふぅ……まぁいい。それでミナト、ここからは僕に力を貸してもらうよ」
シルヴァは俺だけ少し残るように言い、他の連中を部屋から追い出した。
「おいおい……十分リリア帝国には貢献したつもりなんだが?」
これ以上俺に何かさせるつもりか?
シルヴァは「よっこらしょ」とジジくさい掛け声で立ち上がり、服の埃をぱんぱん叩いてから、俺の顔をまっすぐ見つめて話を切り出した。
「ミナトは今のこの国についてどう思う? いや、この国というよりはこの世界、だね」
「世界ってお前なぁ……そんなでかい話されても俺から言える事なんかねぇよ。ただ思うのは魔物がこれだけ暗躍してる時に人間で争ってる暇なんかねぇだろとは思うな」
シルヴァは薄ら笑いを浮かべながら大きく頷く。
「まさにそこだよミナト。君はよく分かっている」
「……俺に何させるつもりだよ。嫌な予感しかしねぇんだけど」
「簡単な話だ。他所の国へ視察へ行ってもらいたいわけだよ。他国の実情が知りたい」
「俺にスパイやれっていうのか?」
確かに俺だって国同士が争い続けるような不毛な事はない方がいいと思うし、リリアにも深く関わってしまった以上ダリルと仲良くしてほしいっていう気持ちはある。
だが……俺がやるべき事かそれは?
「ミナトだから出来るのだよ。例えばだが、リリア帝国が十二英傑という強力な武力、魔道具による特殊な魔法の数々を所持していながら何故敵対関係にあるダリルに大掛かりな進攻をしないと思う?」
……そういやダリルに比べてリリア帝国の武力は桁違いに大きいな。
今まで小競り合いだけで済んでいるのが不思議なくらいだ。
エクス一人導入したらダリルなんて滅ぶんじゃないか?
「リリア側にその気が無かったと?」
「無い、とは違うがね。万が一の時には確実に勝てるだけの戦力を保有しつつ、拮抗状態を演出している訳だ。なぜそのような面倒な事をしているかと言えば、向こうから和平を切り出させる為だね」
「なぜ向こうから、が前提なんだよ」
「舐められる訳にはいかないからという簡単な理由では納得できないかね?」
こいつがどこまで本気で言ってるか分からないが、プライドとかの問題もあるのかもしれない。
王個人の感情ではなく、国民感情を考えるとそうせざるを得ないのか。
「無論どちらから言い出す訳でもなく対等な関係で和平が結べるならそれが一番だと思っている」
「そんな都合のいい事があるわけねぇだろうが」
「そうかね? 僕はそれが可能な人物を一人知っているんだが」
うげ、これはヤバいぞ。想像以上にめんどくせぇ役目を押し付けられるやつだ!
俺が気付いたのを悟ったのか、シルヴァは一層悪人面で口の端を吊り上げていた。
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