第183話:ギャルン再び。


「じゃあねー英傑王のおねーちゃん!」

「おう、念のためにしばらく家の中に隠れておくんだぞ」


 ジェスタを家の前まで送り、泣きながら頭を下げる母親に気にするなと告げてその場を後にする。


 別れ際に「ぜったいおねーちゃんを嫁にするからねっ!」とか言われたのが面白くて「がんばんな」と言ってやった。


『まさかミナト君がショタ属性があったなんてねぇ……そりゃ女の子のアピールも効果ないわ』

 お前さ、俺の性癖を勝手にどんどん改竄しないでくれるか?


 そういえば俺等や英傑ばかりが戦っているなら当初の目的は果たせているのか?

 戦いの様子を見せて獣人と人間の橋渡し、とかがシルヴァの目的だったように思うが……。


 あちこち歩き回ってみたけれど魔物の死骸が転がっているだけで、むしろ英傑の姿も見えなかった。


「……えっと、みんなどこに居るんだ……?」


『ちょっと待ってね……どうやら帝都の門の外みたいよ。そっちに大きな力が沢山集まってるわ』


 なるほどね。って事は空からの敵は一通り倒しきったと思っていいのか? 


 念の為にさっと帝都内を走り回って問題無いのを確認してから門の方へ向かう。


 すると、そこには空から来ていたのとは比べ物にならない数の魔物がひしめいていた。


 ……一瞬本気でそう思った。


 よく見たらそのほとんどが既に息絶えている。

 そして、その場には十二英傑、人型に戻ったゲオル、ネコ、アリア、ティア、イリス……そして腕に自信があるのであろう多くの獣人や人間の姿があった。


 とにかく魔物の数が多かったのか、小型の魔物を獣人を含む街の人々たちが対処し、危険度の高い奴等を英傑達が撃退していたらしい。


「あっ、まぱまぱー♪ こっちは終わったよ」


 褒めて褒めて、と飛びついてきたイリスの頭を撫でまわしていると皆の視線がこちらに集中した。


「ごしゅじーん♪」

「ミナト殿!」

「ミナト♪」


 俺に駆け寄ってくるネコ、アリア、レナを掌で制する。


 ティアはじっと地面を見つめていた。さすが勇者、とでも言うべきだろうか?


 不思議そうな顔でストップする三人に説明する時間はあまりなかった。


 俺はイリスを抱えてその場から一歩後ろへ下がる。


 その瞬間地面から何かドリル状の物が飛び出し、俺が先程まで立っていた場所を通過していく。


「今のをかわすとはさすがだな! しかしデルベロスを倒したくらいで……」


「イリス。やっちゃいなさい」


 空中でドリルがぎゅるぎゅると逆回転して本来のモグラっぽい魔物の形状に戻る。


 のと、同時にご愁傷様。


「ぶっころーっ!!」


「えっ、ちょっ、まっ……」


 モグラ野郎が元の姿に変化し、再び両腕を何かに変化させようとしていた最中にイリスの渾身の一撃が突き刺さる。


 一瞬にしてモグラ野郎の身体はバラバラに砕け散って再び血の雨が降った。


「どやーっ♪」


「イリス、少し下がってな」


 まだ終わりじゃない。めんどくせぇのが一匹残ってやがる。


「みんなも動くな。ちょっとやっかいなのが残ってるからよ」


 ティアとエクスは虚空を睨んでいる。

 俺も気配は分れど場所までは分かってなかったのでこの二人はやはりすごい。


「ほう……気配を殺していたつもりだったんですがね」


 そんな声がどこからともなく響き、一同の上空の空間が歪む。


「ギャルン……!」


 空間の歪みから姿を現したのは真っ黒な姿に能面。六竜カオスリーヴァの分身体。


「お前が付いていながらなぜキララがあんな三下にやられちまったんだよ」


「おや、君がそんなふうに気にしていたと知ったら魔王様もお喜びでしょうね」


「……キララは生きてるのか?」


 ギャルンは能面の表面をつるりと一撫でし、「それを貴女に語る必要はありませんね」と、平坦な声を発した。


 どっちだ……? そもそもどんな卑怯な手を使われたとしてデルベロスみたいな野郎にキララがやられるだろうか?


「ただ、一つだけ教えておいてあげましょう。そこに居る初代勇者……」

「ん? 私?」


 急に話に自分の事が出てきたので不思議そうにティアがギャルンを見上げる。


 英傑達はギャルンに攻撃を仕掛けようとしていたが、それをエクスが制していた。

 それが正解だ。下手に手を出すと何をされるか分からない。

 このメンツが揃っていれば負けはしないだろうが、間違いなく死傷者が出る。


「初代勇者を蘇らせる方法をデルベロスに教えたのは……私ですよ」

「なんだと……?」


 デルベロスは確かに道具に頼った戦い方をするだけで、実力は大した事なかったし奴だけの力で大昔に死んだ人間をこの世に呼び戻す事が出来るとは思えなかった。


「そうか、お前が裏で糸を引いてたのか。そうなるとキララも……」

「想像力が豊かな事は褒めてあげましょう。ですが……私はあんな馬鹿をおだてて喜ぶ趣味はありません。むしろ死んでせいせいしていますよ」

「……何か企んでやがるな?」


 ギャルンの反応を見たくても表情は分からないし口調も平坦。こいつの魂の色を確認してもずっと灰色が揺らめいている。


「敵なのは分かってるんだけどー私を生き返らせてくれてありがとね。褒めてあげちゃうゾ♪」


 ティアが呑気な発言をしたせいかどうかは分からないが能面がズルリと少しだけズレた。

 それをゆっくり元の位置へ戻しながら、奴は笑った。


「くっくっく……私に礼を言うか。まぁいい、せいぜいかりそめの命を謳歌するがいい」

「むっ、なんかむかつく言い方だなーっ! これだけの人数に囲まれて勝てると思ってんのかー? おーん?」


 そんなティアの物怖じしない発現につい噴き出しそうになってしまった。


「どうするギャルン、これだけの人数相手にやるのか?」


「ふふ、冗談でしょう? 私は貴女とご息女が揃っているだけでも戦いたくないですよ。しかもそこの金色の男……そして勇者。さらには城の中に懐かしくも面倒な臭いがしますからね。私は今回あくまでも傍観者です。ここらでお暇させて頂きますよ」


 そう言うだけ言ってその姿が消えていく。


 緊張感の無いティアとネコとイリス以外の連中が一気に気が抜けたようにその場にへたり込んだ。

 さすが十二英傑ともなればギャルンのヤバさもしっかり分かっていたようだ。


「あ、そうそう。あいつに嫌がらせをするのを忘れていましたね」


 急に先ほどの空間から再び顔を出したギャルンに皆が驚いていると、何やらこちらに妙な粉をまき散らして帰っていった。


「あんの野郎何しに帰って来やがった……?」


 何事も無かったならそれでいいが、最後に振りまいてったアレはなんだ?


「ご、ごしゅじん……なんだか身体が……変ですぅ」

「うわ、なんだこれは!?」

「み、ミナト……これどうしよう?」


 ネコはぶっちゃけあまり変わらないからどうでもいい。

 でもアリアにキツネ耳と尻尾、レナに犬耳と尻尾はダメだろ破壊力がありすぎる。


 俺の理性が保っていられたのは、その場にいる獣人たちが何も変化が無かった事、そして英傑の野郎達までもがケモミミ生やして尻尾フサフサになってたせい……おかげである。


 ギャルンの奴何がしたかったんだ畜生め!

『心なしかちょっと嬉しそうなのなんで?』


 うるさい。俺はケモミミ尻尾が好きなんだよ!

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